黒猫少女 / 「いっき」の小説 | メクる

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黒猫少女

短編小説
恋愛
オリジナル
2016年10月05日 06:02 公開
1ページ(4681文字)
完結 | しおり数 0


いっき

表紙提供:by 鷹見
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学校からの帰り道。
日が傾いて夕陽が射している。
放課後、国語教師に点数が伸び悩んでいることを相談しに行くと、僕に人生経験が足りないだの、本を読む量が足りないだの延々と説教を喰らった挙句、明日から毎日図書室で本を借りて読むことを義務付けられたのだ。
家への道を足早に帰る。
いつもの公園前、黒猫が一匹いた。
目を光らせてこちらを見ている。
僕はしゃがみ込み、『チッ、チッ、チッ』と舌うちをしてみた。
しかし、黒猫はそっぽを向き公園へ入って行く。
僕はなぜかその黒猫に興味を惹かれ、一緒に公園へ入って行った。

夕方の公園は、寂しい。
日中は子供達が登って賑やかなジャングルジムも大きな夕焼けの下でぽつんと小さく見えるし、シーソーの『ギー、ギー』って音が、誰もいない公園に響いている。
誰もいない…いや、違う。
ベンチで少女が本を読んでいる。
少女は真っ白な肌で、黒いワンピースとのコントラストが眩しい。
黒猫はその少女のもとへ行く。
少女は一旦本を読むのをやめ、黒猫を愛おしそうに撫でている。
ベンチの前でその光景を見ていると、少女は顔を上げた。
「何?」
ぼーっとしている僕を見て、少女は怪訝そうに言った。
「黒猫に、連れて来られて。」
僕は、そのままのことを言う。
「変な人。」
少女は笑った。
「いつも、ここで本を読んでいるの?」
「ええ。夕焼けの公園は、落ち着くの。」
「黒猫も一緒に?」
「この子、ハルっていうの。私が名前、つけてあげたんだ。この子もいるし、寂しくないよ。」
「そうなんだ…。」
ふと、僕も本を読むことを義務づけられていたことを思い出した。
「明日から、僕も一緒に読んでいい?」
「ええ、いいよ。」
少女は、大きな目を細長く横に伸ばして微笑んだ。

次の日の放課後。
図書室へ行った。
少女が読んでいた小説、重松清の『きみの友だち』を探した。
読んだことがないので、興味があった。
本棚を探すが、見つからない。
使用履歴を見てみた。
今借りているのは…江本。
うわ、苦手な女子だ。
眼鏡をかけていて、いつも不機嫌で怖い。
昨日公園で会った、目が大きくてどこか神秘的できれいな少女とは、月とスッポンだ。
そんなことを思っていると、本人が来た。
「ちょっと、どいてくれる?」
僕は、いそいそと本棚へ戻った。
『きみの友だち』がないのなら仕方ない。
同じ重松清の『くちぶえ番長』を借りることにした。

学校からの帰り道。
まだ子供達がジャングルジムを登り、賑やかな公園へ寄り道した。
ベンチで早速『くちぶえ番長』を読んでみる。
何だ、これ。
面白い。
一気に読んでしまいそうだ。
「ニャー」
ふと気がつくと、黒猫、ハルが足元にいた。
子供達は、いつの間にか帰っている。
「こんばんは。」
昨日と同じ黒のワンピースを着て、目のぱっちりと大きな少女が来た。
僕と目が合うと、ニコッとした。
僕は、ドキッとする。
「お隣、いい?」
「うん。」
僕の隣に座った。
「あ、『くちぶえ番長』。それ、面白いよね。マコトの強さと優しさに、すごく感動する。」
「読んだことあるの?」
「ええ。夢中で、すぐに全部読んでしまったわ。」
「本、すごい好きなんだ?」
「ええ、すごく好き。」
「作家になりたいとか…思う?」
この本のプロローグでは、本好きの作者が作家になるための特訓のつもりで、おもしろいできごとや忘れたくないできごとがあると『ひみつノート』にかきつけていた、と書かれている。
それを思い出して、ふと聞いてみた。
少女は少し戸惑ったが、控えめに頷いた。
「すごい!ねぇ、『ひみつノート』、作ってみてよ。」
「『ひみつノート』?」
「そう。『くちぶえ番長』の作者が、将来作家になるために作ってたノート。」
「そういえば、そんな節もあったわね。」
「そんで、小説を書いて!タイトルは…『黒猫少女』がいいかな!」
「何、それ?」
少女は、笑う。
「そういえば、名前聞いてなかったね。私、ルナ。あなたは?」
「僕は棗。よろしく!」
僕は、ルナと暗くなるまで重松清の小説を読んだ。

図書室の机で、眼鏡をかけた江本が何かを書いている。
僕が通りがかると書いているものをパッと隠して睨む。
「何よ!」
「いや、通りがかっただけだよ。」
僕は、さすがに反抗した。
「何でもないなら、さっさと行って。」
江本は、ツンツンしている。
可愛くない。
僕は、読み終わった『くちぶえ番長』を返し、『青い鳥』を借りてさっさと出て行った。

僕は、公園のベンチでルナに図書室での出来事を話した。
「まったく、感じ悪いったらありゃしない。」
しかし、ルナは言う。
「そのコ、別に悪気があるわけじゃないんじゃないかな?」
「え?」
「どうしたら人と仲良くできるのか分からなくて、キツい言い方になってしまうだけだと思う。多分、そのコ、本当はすごく寂しがり屋なんだと思うよ。」
江本はいつも一人だ。
クラスで、誰かとペアをつくる時も必ず余る。
そんな時、確かにどこか寂しそうな顔をしている。
「あなたから何か、話しかけてあげたら?」
「え、でも、怖いよ。」
「多分、そのコも人と話すのが怖いだけだと思うよ。」
「そうなのかな?」
その時、ルナの持っている本が『きみの友だち』ではなく『エイジ』に代わっているのに気付いた。
「あれ?『きみの友だち』、読み終わったの?」
「ええ。すごく、面白かったわ。足の悪い恵美ちゃんと病気がちの由香ちゃんの友情の物語だけど、恵美ちゃんの弟、ブンちゃんとか、色々な友だちのエピソードが散りばめられているの。おすすめよ!」
「そうなんだ!もしよかったら…厚かましくて悪いんだけど、貸してくれる?今、図書室になくて。」
ルナは、少し困った顔をした。
「ごめん。あれ、友だちから借りた本だったから、返したの。」
「そっか。ルナちゃん、友だち多そうだもんね。」
「いいえ、全然いないわ。」
「そんなこと、ないでしょ。こんなに可愛くて、性格もいいんだし。」
「いえ、本当に。」
ルナは、悲しそうな顔をした。
そんなルナに、黒猫のハルは愛おしそうに体をすり寄せていた。

次の日、図書室の本棚を探すと『きみの友だち』があった。
やった。
『青い鳥』の『村内先生』もどこか僕に似ていて夢中になって読んでいるけど、『きみの友だち』もルナのおすすめだし、すごく読んでみたい。
一週間借りれるし、その間に二冊とも読むことができるだろう。
あれ?
『きみの友だち』を取ろうと手を伸ばすと、昨日まであった『エイジ』がなくなっているのに気がついた。
『きみの友だち』の裏表紙を開いて使用履歴書を取り出して、最後に借りた人を確認する。
江本…瑠奈。
瑠奈って、ルナって読むん…だよな。
図書室の机で今日も江本が何かを書いているのに気が付く。
おそるおそる、声をかける。
「江本…さん?」
江本は、書いていたものをパッと隠して僕を見た。
「何?」
「いや、『きみの友だち』、借りてたみたいだから。僕も借りようと思っているんだけど、どんなかなって思って。」
「まぁまぁよ。」
江本は、ぶっきらぼうに答えた。
眼鏡の奥の目を見てみる。
今まで気付かなかったけど、大きな目。
それに、肌も白い。
「江本さんってさ、いつも図書室にいるけど、本好きなの?」
「別に。」
面倒臭そうに答える。
こいつが、ルナな訳ないか。
そう思った。

今日も、公園で図書室でのことを話した。
「そのコ、本当は棗くんに話しかけられてすごく嬉しかったんだと思う。でも、照れくさくて、ついそんな反応になってしまうのよ。」
「そうかな…。」
「ええ、きっとそうよ。」
江本の気持ちを知っているみたいだ、と思う。
ルナはたくさん本を読んでいて、読解力があるからだろうか。
それとも…。

朝、久しぶりに早く家を出た。
朝の空気は美味しく、すがすがしい。
公園の前を通りかかる。
「ハル、お飲み。」
ルナの声だ。
ルナ、この時間も公園に来てるんだ。
公園に入ろうとして見てみると…ルナじゃない。
江本がハルに、お皿にミルクを注いでやっている。
僕は、しばらく立ち尽くした。
すると、江本もこっちを見て、僕に気付いた。
僕も江本も、固まる。
僕はどうしたらよいか分からず、そのまま学校へ向かった。
江本が、ルナ。
やっぱり、そうだったんだ。

今日は何だか気まずくて、図書室に行かず、公園にも寄り道せずに帰った。
家のベッドで、ゴロンと横になる。
別に、騙されていたわけではない。
ただ、あの江本とルナが同一人物だなんて結びつかないし、どちらに会っても、どんな顔をしたらいいのか分からない。
僕は、ふと『きみの友だち』を手に取った。
パラパラと本をめくる。
すると、しおりが挟まっていた。
何気なくしおりを見ると、メッセージが書かれていた。
『棗くんへ
あなたがこのメッセージを読んでいる時にはもうばれているかも知れません。
私、ハルしか友だちがいなかった。
眼鏡をかけた江本は醜く妖怪じみていて、誰とも仲良くできなくて。
眼鏡を外したルナに話しかけてくれて、私、すごく嬉しかった。
でも、ルナは江本なんです。
それでも、棗くんは今まで通り友だちでいてくれますか?
江本 瑠奈』

僕は、いたたまれなくなって家を飛び出した。
公園のベンチへ向かう。
ルナは…いない。
しかし、ベンチの下でハルがうずくまっているのに気がついた。
僕は、慌ててハルを抱き上げる。
「ハル、どうした!」
その時、江本も学校の制服のまま公園のベンチへやって来た。
「ハル!」

動物病院で、ハルは手術を受けていた。
尿路結石で、二時間くらいの手術。
僕達には、それが永遠に思えた。
眼鏡をかけた江本が、目に涙を溜めて震えている。
「ハルは、元気になる。絶対、大丈夫。」
僕には、江本に声をかけるしかできない。
でも、必死で声をかけた。

手術室から獣医さんが出てきた。
「手術は無事、終わりました。」
その言葉に、僕達はほっと力が抜けた。
僕と江本は、顔を見合わせて微笑んだ。

動物病院から帰る。
江本は麻酔が覚めたハルを抱きかかえている。
僕は、口を開く。
「ねぇ、江本さん。」
「何?」
いつもの調子だ。
「『黒猫少女』、進んでる?」
「え?」
江本は、僕の顔を見た。
「図書室でいつも書いているの、『黒猫少女』なんでしょ?」
「ええ、まぁ…」
江本は、少し赤くなる。
「僕達、これからも一緒にあの公園のベンチで本を読もう。そんで…」
江本の目を真っ直ぐ見て言う。
「『黒猫少女』が書けたらさ、一番に僕に読ませてよ。」
少し涙を滲ませ頬を赤くして頷く少女は、まぎれもなく江本でルナだった。

いつもの公園のベンチ。
僕は期末試験の国語が今までとったことのないくらいよい点数だったとルナ…いや、江本に報告した。
江本の点数を聞くと、僕は自分の喜んでいた点数が恥ずかしくなってしまうわけだけど…。
江本ルナは、僕にノートを一冊渡した。
「おまちかねの、『黒猫少女』よ。」
眼鏡をかけていないルナは、ニコッと笑う。
可愛い。
でも、この素顔は僕だけの秘密にしよう。
そう思った。
『黒猫少女』を読み始めると、僕は物語に吸い込まれるように没頭した。
オレンジ色の夕焼けの下、『黒猫少女』に夢中になる僕の隣で、黒猫のハルはすやすやと眠っていた。

(了)

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  • 美島郷志(喘息患者) 10月05日
    このつぶやきにはネタバレが含まれている可能性があります[表示]
    お初です。
    きちっとした起承転結でとても読み良かったです。

    二人のやり取りがもっと見たいです(^q^)
    (ネタバレ)
     #黒猫少女
    詳細・返信(1)
  • いっき 10月05日
    はじめまして、いっきと申します。
    小説「黒猫少女」を公開しました!
    すぐ読める短編の恋愛ストーリー。
    読んでいただき、感想等いただければ嬉しいです!
     #黒猫少女
    詳細・返信(2)

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  • 美島郷志(喘息患者) 10月05日
    このつぶやきにはネタバレが含まれている可能性があります[表示]
    お初です。
    きちっとした起承転結でとても読み良かったです。

    二人のやり取りがもっと見たいです(^q^)
    (ネタバレ)
     #黒猫少女
    詳細・返信(1)
  • いっき 10月05日
    はじめまして、いっきと申します。
    小説「黒猫少女」を公開しました!
    すぐ読める短編の恋愛ストーリー。
    読んでいただき、感想等いただければ嬉しいです!
     #黒猫少女
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