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チョコレートコスモスの花言葉

短編小説
恋愛
オリジナル
2016年10月08日 22:10 公開
1ページ(3032文字)
完結 | しおり数 0


いっき

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「ねぇ、奏(かなで)。今日の放課後、ちょっと付き合ってもらっていい?」

美那(みな)ちゃんに言われて、ドキっとした。

僕、奏は勉強しか取り柄のない小学六年生。
勉強こそクラスで、いや、この学年全体で誰にも負けない成績なんだけど、その他のことは全然ダメ。
こないだの運動会なんて、リレーで走っている途中で僕が転けたせいでうちのクラスが負けて、みんなから怒られた。

一方の美那ちゃんは、成績優秀、スポーツ万能な学級委員。
小学生にしてはすごく大人びていて綺麗で、クラスのみんなの憧れの的だ。

そんな美那ちゃんだけど、何故か僕によく絡んでくれる。
僕が持っている本を借りてくれたり、皆で家に来た時には散らかり放題の僕の机を綺麗に整理整頓、片付けてくれた。
今日の放課後…どうしたんだろう?

待ちに待った放課後。
美那ちゃんが僕と並んで歩いてくれている。
皆のひそひそ声なんか全然気にしていない。
ストレートの流れるような黒い髪から、仄かにシャンプーの香りがしてドキドキする。

「ねぇ、何処に行くの?」

僕は、ドキドキを紛らわすために言った。

「こないだ、いい場所を見つけて。奏と一緒に行ってみたいの」

そう言って俯いた美那ちゃんの頬は、少し赤くなったような気がした。



「すごい、綺麗…」

僕達が辿り着いた場所は、一面のコスモス畑。
色とりどり、赤、白、ピンク、黄色のコスモスが夕陽に向かってキラキラと光っていた。
美那ちゃんは、やはり頬を赤く、俯きながらしゃがんでピンクのコスモスを摘んで僕に渡した。

「…はい」

僕は、何がなんだか分からないまま受け取る。
すると、美那ちゃんは上目遣いの綺麗な瞳を僕に向けて言った。

「私からの、プレゼント」



「綺麗ね。そのコスモス、どうしたの?」

僕が持つコスモスを見て、姉が聞いた。

「女の子がプレゼントしてくれたんだ」

僕は、何がなんだか分からなかったから、そのままのことを言った。

「ふーん」

姉は目を細め、いたずらな笑顔になる。

「そのコ、あんたに気があるんじゃない?」

「まさか」

「だって、ピンクのコスモスの花言葉は『乙女の純潔』よ。でも、ただ純潔ってだけじゃないの。乙女が誰かを一途に想う、純粋な恋心を表しているのよ」

「えっ!」

知らなかった。
まさか、もしかして…美那ちゃんが僕のこと、好き?



次の日の学校。
僕と目が合った美那ちゃんは、やはり赤くなった。
僕も、ドキドキする。
そのドキドキが聞こえないように彼女の元へ行き、本を一冊渡した。

「…はい」

「これ…星新一の未来イソップ?」

「うん。美那ちゃん、ずっと読みたいって言ってたでしょ。」

「ありがとう!これ、ずっと読みたかったの」

彼女は、そうつとめてか、いつもと同じ反応だった。

それからも、僕達の関係は今までとそう変わったということはなかった。

ただ、僕の方から積極的に本を貸してあげたりしたし、目が合ったらお互いに少し赤くなるようになった…それだけだった。



秋も終わりに近づく頃。
一緒に帰る帰り道で美那ちゃんは言った。

「私、城命中学校を受験することにしたわ」

「えっ、そうなの?」

城命中学校は、大学までエスカレーターで進める名門の共学校。
僕の住む地域で中学受験をするコは、大抵目指している学校だ。

「ええ。奏は、どこを受験するの?」

「僕は…」

本当の事を言おうか、少し迷った。

「立星中学校」

他県の、男子進学校だ。

「えっ、城命中学校じゃないの?」

「うん。僕、将来獣医さんになりたいんだ。城命中学校だったら大学までエスカレーターだけど、獣医にはなれない。立星中学校は遠いけど、難しい大学への進学率が凄く高いんだ。だから、僕は…立星中学校を受験する」

僕は、自分の決意を話した。

「そう…分かったわ」

美那ちゃんは、寂しそうな顔をした。



次の日。
帰りの下駄箱で美那ちゃんは僕に黒いコスモスを渡した。

「これ…」

「私からの、プレゼント」

美那ちゃんは、寂しそうな笑顔で言った。

「お互い、絶対に志望校合格できるように頑張ろうね!」

彼女は、少し滲んだ瞳でそう言って走り去った。



「あんたの恋、終わったね」

黒いコスモスを見た姉は言った。

「黒いコスモスはチョコレートコスモスって言うんだけど、その花言葉は、『恋の終わり』。ああもう、バカだねぇ。そのコと同じ中学校受けたらいいのに」

終わった…僕の恋は。
塞ぎこむ僕を、チョコレートコスモスの仄かなチョコレートの香りが包んだ。

でも、受験前の時期に落ち込んでばかりもいられなかった。
僕はそれから彼女のことを忘れるくらいにがむしゃらに勉強して、そして、志望校に合格した。
美那ちゃんも彼女の志望校に合格した。
実質的に僕達の関係は終わり…僕達は『別れた』んだ。
お互い、それぞれの道を歩み出した。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

十五年後。
僕は、動物病院で働いていた。
来る日も来る日も動物達を診て救う、目が回りそうなくらい忙しい日々。
恋人も十五年間、一度もできたことがない。
それでも、そんな日々がとても充実していて好きだった。



「このコ、チョコの健康診断と混合ワクチンをお願いします」

女性の飼い主が一匹のチワワを連れて来た。
何だか、聞き覚えのある声。
小学生の頃、聞く度にドキドキしていた、透き通るような声…。

「美那…ちゃん?」

僕は、顔を上げた。

「奏…?」

大人になった美那ちゃんは、小学生の頃よりもさらに綺麗で、相変わらず僕なんかよりもずっと大人びていた。



「奏、本当に獣医さんになったんだね。すごいよ」

チョコの健康診断をしている間、美那ちゃんは言った。

「いやぁ、獣医さんって言っても僕なんて全然子供で…」

「奏は、そんな所がいいんだよ」

美那ちゃんは、優しく目を細める。

「ねぇ、今度の日曜日、空いてる? そこの喫茶店でお茶しようよ。渡したいものがあるんだ」



「はい」

日曜日。
喫茶店で、美那ちゃんは僕にチョコレートコスモスを渡した。

「これ…」

「あの時…小学生の時にも渡したっけ」

「うん。花言葉は『恋の終わり』なんだよね」

「そうね。でも…実は、もう一つ花言葉があるの」

「えっ?」

「『移り変わらぬ気持ち』よ」

美那ちゃんは、綺麗な瞳を真っ直ぐ僕に向けた。

「奏が別の中学校を受けて、寂しかった。同じ中学校を受けてくれたらいいのに…そう思ったわ。でも…真剣に将来の夢を話す奏を見て、やっぱり私、あなたのことが好きだと思ったの」

僕は、あの頃のようにドキドキして顔が火照っていくのを感じた。

「そして、こないだ、立派に夢を実現して獣医さんになってる奏に再会して…私、自分の『移り変わらぬ気持ち』に気付いたの。今からでも遅くないのなら…奏。またあの頃のように…私と付き合って」

「うん…もちろん。こんな僕でよかったら」

あの頃と変わらない、大人びた完璧な美那ちゃんと獣医であることしか取り柄のない頼りない僕。
そんな二人を、チョコレートの仄かな香りが優しく包み込んだ。

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