メクる

累計 13891737 スキ
BL・アダルトの
切り替えはこちら

名前

短編小説
ファンタジー
オリジナル
2017年03月07日 20:35 公開
1ページ(1524文字)
完結 | しおり数 0

セレス関連短編

水無月秋穂

  • 閲覧数

    59

    1457位

  • 評価数

    5

    528位

  • マイリスト

    0

    1097位

セレスティアル・ブルー関連小話です。
エスタシオン学府時代の、エイシアとルーチェとエスタシオンのお話。
カオスは相変わらずです。

フォント
文字:--%
行間:--%
「エイシアー!」

廊下をダッシュしてくる女性に気付き振り返り、苦笑いを浮かべた。

「ルーチェ、どうしてもそっちの名前で呼ぶの?」

「え? 何よ? それよりこれ、あんたが書き起こしてくれって言ってた術式――」

「どうしても?」

差し出された書類を受け取らぬまま、じっとルーチェを見据えたエイシアに、ルーチェは小さくため息を吐く。

「この呼び方が苦手なのは知ってるわよ。でもね、あんたがたとえ無視してても、あんたの名前は変わらない」

「……うん、そうなんだよねー」

「そうなんだよ」

分厚い書類をエイシアに渡すと、ルーチェはそのまままっすぐに廊下を歩いていった。
今まで様々なしがらみを切り抜けてきたルーチェの髪は、窓越しの光にきらきらと光っていて――

僕は一人、ルーチェの言葉を反芻する。

(たとえ無視してても、僕の名前は変わらない――)

「エイ…シア…」

たどたどしく、己の名を口にして。
ずきりと、胸が痛むのを、ただ感じた。

「シア…エイシア、僕は……エイシア。エイシア・イオリ・ユンヌ…」

(シア、大好きよ)
(シア、消えてちょうだい)

同じ人間から発された二つの言葉が、頭痛を誘発する。
甘いその声は、亡き母のものだった。

(僕を、エイシアと…シアと、呼ぶのは……あの人だけだった…)

紅い髪のその女性は、ある日はエイシアをぞっとするほど溺愛し、またとある日はエイシアを無表情で殺めようとした。
そんな繰り返しの日々は、エイシアという名前と密接で――

(僕は…)

「あれ? エイシア?」

ルーチェとはまた違う、のほほんとした声に呼び止められ、さらに揺らぎが増してゆく。

「――僕は、イオリです」

「あぁ、すみません、ついうっかり…」

「うっかり、ではないでしょう? 貴方はここの蔵書全てを覚えている。点呼時の呼称の希望はお渡ししたはずです」

「確かに、そうでした。頭でも打ちましたかね、失念していました」

にこやかに笑んだのは、総合学府の学長にして、エイシアの専攻の担当指導者、エスタシオンだった。
空色の長い髪が、歩くたびにふわりと揺れる。

「…アウィス?」

仕返しのように呟けば、あはは、と軽快な笑いが返って来た。

「言われてしまいましたねえ。まあ、その名で呼んでも構いませんが?」

「嫌じゃないんですか?」

「んー、どう抗おうと、私はそこから歩んで来ましたから。それに、嫌、だけでは言い表せない様々なものが……苦手とか思い出したくはないとか、異様に虚しいとか、異様に還りたくなるとか、絶えざる承認欲求とか、はるか彼方の穏やかな幸せとか、それが壊れるまでの過程とか……まあ、そこには色々ありまして。そこから旅してきたのが、今ここにあるエスタシオンですから」

遠い目で語るエスタシオン…エスタシオン・アウィス・アクアーティカの両足は、廊下に…この学府に、確かに立っている。

どこかへ飛んでいってしまいそうなくらいふわふわしている人なのに、立ち姿は安定していた。

「そっか…」

エイシアは、ぽつりと呟き、自らの胸に手を当てて、何度か無言で頷く。

「――エイシア…僕は、エイシア」

「そうですね」

微笑むエスタシオンの穏やかな空色の瞳に、エイシアの紫の瞳も細められた。

――紅い、紅い。
故郷の、涙の痕。

解けゆく鐘の音が、遠くから響いた気がした――。



*おわり*


スキを送る

累計 20 / 今日 0


残スキ 300

『スキ機能』とは?
『スキ機能』とは『スキ』ボタンを押すことで作品や作者を応援できる機能です。
※拍手機能に類似した機能です。

[スキ機能のルール]
※1人あたり1日に300回まで『スキ』を送ることができます。
※1作品でも複数作品でも合計が300回まで『スキ』を送ることができます。
※『スキ』は1スキ、『大スキ』は10スキ、加算されます。
※1日に与えられるスキの数は毎朝4時にリセットされます。
※自分の作品にはスキ機能は利用できません。
※『スキ』は匿名で作品に送られます。

スキ!を送りました

作品を評価する

水無月秋穂さんを

フォローしたユーザーの
作品投稿やつぶやきなどの最新情報を
マイページでチェックできます

マイリストに登録する

作品シリーズ

この作品につぶやく

#名前
 

500

みんなのつぶやき 一覧

  • ひな 03月08日
    このつぶやきにはネタバレが含まれている可能性があります[表示]
    名前は自分と共に生き、生涯共にあるんですよね。
    包み込むような温かさで名前を呼ばれている感覚でした。
    (ネタバレ)
     #名前
    詳細・返信(1)
  • 水無月秋穂 03月07日
    小説「名前」を公開しました!  #名前
    詳細・返信(0)

タグ一覧 編集

この作品にタグはありません

友達に教える

  • ツイートする
  • イイネ
  • なうで紹介
  • はてなブックマーク
  • GoogleOne

この作品を見た人はこんな作品も 一覧

作者の投稿小説(26) 一覧

作品登録マイリスト 一覧

登録された公開マイリストはありません

その他


コーナー R

作品宛みんなのつぶやき

  • ひな 03月08日
    このつぶやきにはネタバレが含まれている可能性があります[表示]
    名前は自分と共に生き、生涯共にあるんですよね。
    包み込むような温かさで名前を呼ばれている感覚でした。
    (ネタバレ)
     #名前
    詳細・返信(1)
  • 水無月秋穂 03月07日
    小説「名前」を公開しました!  #名前
    詳細・返信(0)

もっと見る

作者の他の作品一覧

一覧を見る

copyright (c) 2013-2017 メクる Co.,Ltd. All rights reserved.