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一周忌

短編小説
純文学
オリジナル
2014年10月04日 19:18 公開
1ページ(1377文字)
完結 | しおり数 0

夕陽が綺麗だったよ、と友達が教えてくれた。

鷹見

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送るあてのない手紙。

ひっそりとブログから再録。

初出:2011.12.22
転載:2014.10.4
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 まだ私が混沌として、何者でもなかった頃。

「あんたのことが、どうしようもなく無条件で好き」

 と言ってくれた人がいた。

 美人で背が高くてスタイルがよくて、外国の有名な女優に似ていた。

 柔らかくて大きな胸で、私を抱きとめてくれた人。

 大好きだった。


 無償の愛がこの世にあることを教えてくれた人。


 人に触れるのも触れられるのも笑うのも苦手な私に、「かわいい。チューしちゃお」なんてからかって、逃げまどう私を笑いながら捕まえた。


 先輩は母子家庭で、病気の母親の入院費を稼ぎながら学校に通っていた。

 卒業して数年後、先輩から結婚式に招待されて、私は遠方から駆けつけた。

 私を見つけた先輩は、ウエディングドレス姿で私を抱きしめてくれた。

 先輩は泣けるくらいに綺麗で、幸せそうで。

 そんな先輩を見てると、私まで幸せになれた気がした。


 それなのに、一人娘が産まれた頃から夫の暴力が始まった。

 母親は既に他界していて、先輩はたった一人で娘を守っていた。

 昨年、ようやく離婚が成立し、生活を立て直そうとした直後に末期癌が見つかって。

 それから、たったの三ヶ月でこの世を去った。


 訃報が届いた時、私は友達と少し早いクリスマスパーティーの真っ最中で。

 ほんの一週間前にお見舞いに行った人たちから「元気そうだったよ」と教えてもらっていたのに。

 私は、楽しげな友人達の笑い声を遠くに感じながら、部屋の隅でひとり泣いた。


 いつも笑顔を絶やさない人だったけれど、その頃には既に息をするのも困難で、常に麻酔を投与されていた。

 先輩は人の笑顔を何よりも愛する人だった。悲しそうな人に、まっさきに寄り添う人だった。

「私ね。この装置を外すことになったの。肺に水がたまって死ぬんだって。だから、会えるのは、これできっと最後」

 もう一度一人でお見舞いに行った友達に、そう打ち明けた先輩。

 そんなことを言う時まで、笑顔だったって……。


 それからまもなく、薬で眠りにつき、装置を外されて。

 夕陽が病院の窓に煌めいて、綺麗だったよ、と友達が泣きながら教えてくれた。

 まだ小さな娘が、聖なる夜を目前にして天涯孤独となった。


 私の中の先輩は今でも美しいままで、暖かい笑い声が聞こえてくる。

 クリスマスソングが流れると、夕陽が街並みを輝かせると、私は先輩を思い出す。

 あんなに優しい人が、愛しい子供を一人残していくなんてあり得ないから、きっと先輩は女神となって、娘のそばにいる。


 先輩が種をまいて、私の中で芽吹いている暖かなものを、今度は私がたくさんの人に分け与えよう。

 それは先輩が生きていた証。

 生きたかった人の分までちゃんと生きよう。

 同じ場所で笑ってくれている人に少しでも追いつけるように、一歩一歩、この道を行く。

 先輩は灯火となって、道を照らしてくれる。

 胸にぽっかりあいた穴に、楽しい土産話をたくさん詰めて持っていくから。


 先輩、私はちゃんと笑えていますか。

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