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Say God

短編小説
その他
オリジナル
2017年09月05日 00:26 公開
1ページ(5961文字)
完結 | しおり数 0


虹猫

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灰色の空が重くのしかかる摩天楼
あの頂上からは青空が見えるのだろうか


多くの人々が行き交い
車は忙しなく走る

誰もが皆無関心で
中身が空っぽのロボットみたいだ

そんな街に彼はいる

暗い路地裏にしゃがみこみ
狭い空を眺めている

彼には何も無い
家族も家もお金も名前すら

この少年はたった一人この冷たい街にいる


路地から出でみすぼらしい格好で歩こうが
食べ物を求めゴミを漁ろうが
誰も興味を示さない

でも

確か彼はこの街にいるのだ


毎日食べ物を求め彷徨い
誰にも助けてもらえず
助けを求めることも出来ず
生きている意味もわからないまま

それでも彼は今日もただ生き延びる為に生きている


いつものように路地裏で狭い空を眺めていると一人の老人が来て彼の隣に座った

「こんな所で…君も住む場所が無いのか」

「うん」

「家族はどうした?」

「わからない」

「そうか、まだ小さいだろうに…歳は?」

「わからない」

「そうか、可哀想にな。生きていくのは大変だろ?」

「わからない……ずっとこれだから」

「そうか、そうだよな…」


それから老人はしばらく黙っていた
彼も黙ってまた空を見る


すると老人が狭い空を見ながら言った

「この街の一番高いビル、わかるか?」

「うん」

「そのすぐ隣の公園に明日の昼ボランティア団体が来て食べ物を配ってくれるそうだ」

「本当?」

「あぁ、明日行ってみるといい」

そう言いながら老人はゆっくり腰を上げた

彼は見上げながら言った

「おじいさんは?」

「あぁ、私はあの公園に住んでいるから…明日公園で会えたらまた話をしよう」

そう言ってニッと笑うと街の中へと消えていった


彼は老人が歩いていった方を見つめて

人と話すのはいつぶりだろうと考えていた



次の日

彼は老人の言った通り公園に向かった

相変わらず街は冷たく
まるで透明人間になったようだ

公園まではまだ距離があるが
隣に立つビルはよく見える


あのビルはこの街のシンボルだ

大きな会社のビルで
上層階は社長家族が住んでいるらしい

だが彼には知る由もない

ただあのビルを見つめ

上からの景色はどんなものなのか考えている


ビルからの景色を考えている内に公園に着いた


しかしあまり人がいない

彼は不思議に思った

公園に設置されている時計は11時

聞いていた時刻の1時間前だ

それでもおかしい
こういった配給には時間前からたくさんの人が集まるからだ


彼は

嘘だったんだ

と思いはじめた時


揃いのTシャツを着た人たちがゾロゾロ入ってきた
ボランティア団体だ

その団体に続いて彼と同じように食べ物を恵んでもらおうと浮浪者がゾロゾロと入ってきた


彼は安心した

老人が言っていたことは嘘ではなかった


無事に食べ物をもらい
木陰でそれを食べていると
ボランティアの人が話しているのを聞いた

「いやー良かったですね!場所決まって」

「そうだな〜、許可もすんなり取れたし!」

「当日になって急に配給場所変更なんて勘弁して欲しいですよね!」

「ああ、おかげでいつも以上に疲れたよ」

「でも本当にこの公園の許可が出て良かったですよ」

「そうだな、まぁこの街一番の会社だからな。ボランティアに貢献しなかったなんて知れたら株が下がるからだろ」

そう言って隣の高いビルを見上げている


彼もつられてビルを見上げた

キラキラのビルに空が写っている


彼は

あぁ、神様が降りてくる道みたいだ

とぼんやりしていた


公園で老人を探したが人が多くて見つからなかった

少し残念に思い
いつもの裏路地へ帰った




冷たく硬いコンクリートに寝そべると
狭い空から星が見えた

キラキラ輝く星に憧れて
ふいに手を伸ばす

届くことは無く
指の隙間から星の瞬きを眺める

「いっそ落ちてくればいいのに…」

星がこの街に落ちて
この孤独や絶望を終わらせてくれと願いながら

彼は眠りについた



翌朝
また空を眺めていた

「今日はどこへ行こうか」

昨日配給された食べ物がまだ少しある
食べ物探しは急がなくても大丈夫だろう

彼は行き場所を考えたが見つからない


「行きたい場所ないなぁ
あまり場所も知らないし…
街にはたくさんの人が歩いているけど
あんなに急いで皆どこに行くのかな」


彼はため息をついた


そして1つだけ行きたい場所を思い付いた

昨日の公園だ

「今日はあのおじいさんに会えるかな」


別にどうしてもあの老人に会いたかったわけじゃないが
それしか思いつかなかった


公園に着くと今日はたくさんの人がいた
親子連れやカップル、犬の散歩、ジョギング
皆楽しそうだ

「あぁ、今日は日曜日なのかな」

彼には曜日感覚はない
日付け感覚も

彼の生活には必要ない

今日が月曜だろうが日曜だろうが
彼が生きる為にすべき事は変わらない


「こんなに人がいるんじゃ見つからない」

彼は少し残念だった

もし会えたらまた話し相手になってくれるかと少しばかり期待していたからだ

「うーん、次はどこへ行こうかな」



カラーン、カラーン

透き通る美しい鐘の音が聞こえた


彼はとりあえず音のする方へ歩いていった


するとそこには小さな教会があった
公園のすぐ側だ

「あれ、こんな所に教会があるなんて気づかなかった」


中を覗くと誰もいない

ミサは終わってしまったのか…


彼はなんとなく惹かれて入っていった



小さいながらも中はとても綺麗で
美しい絵画やステンドグラスに
何故かとても落ち着いた

奥の中央にはマリア像が置いてある

彼は座ってマリア像を見つめていた
見ていると心が落ち着いて無心になる気がした


どれくらいそこにいたかわからない

気が付くと少し離れた所にあの老人が座っていた


「あ、こんにちは」

「こんにちは
昨日公園には行ったかい?」

「行ったよ
どうもありがとう」

「そうか、良かったな」

「でもどうしてわかったの?
場所は当日急に決まったって言ってた」

「ん?そうだったのか…
なに、勘違いが現実になることもあるさ
嘘にならなくて良かった」

老人は笑っていた

彼は不思議に思ったが
納得することにした

結果配給は受けられた
老人を責める理由はない


老人は思い出したように言った

「あぁ、そうだ
君はあの路地裏に住んでいるのだったね」

「うん」

「路地裏から出て左に大きな交差点があるだろ」

「うん」

「あそこは人が多いな」

「うん」

「ここからの帰り道
その交差点は通らない方がいい」

「なんで?」

「その前に向こうへ渡るか
そのひとつ前の小さい交差点を渡った方が近いだろ
人が多いと時間もかかるし
気分も憂鬱になる」

「うん」

「この教会は素晴らしいだろう」

「うん、とても綺麗」

「その気持ちをあの路地裏まで持って帰るといい
そうすれば今日穏やかな気持ちで寝れる」

「そうだね」

「持って帰れるものはなにも目に見える物だけじゃあない
温かい気持ちはどこに持って行っても温かい気持ちになれる
だが、冷たい気持ちも同じだ
毎日を楽しく生きろとは言わない
人間生きていればいろいろある
特に私達のように何も持たずして生きるものは特にな
でもせめて自分のままに生きようじゃないか
家もない金もない
他の人より出来ることは少ないだろう
それでも私達は自由に生きようじゃないか
周りは関係ない
君は君のままに
やりたいことはやればいい
やりたくないことはしなくていい
どんな人生にも希望はあるものだ」

「…」

「あぁ、年寄りはすぐ説教じみた話をするな
悪かった」

老人は困ったように笑った

彼はマリア像を見つめながら言った

「やりたいことはないんだ
今までずっと同じことの繰り返しなんだ
今日か昨日かもわからなくなるくらいに…
でもおじいさんの言うように僕の思うように生きてみたい」

「そうだな」

「やりたいこと探してみるよ」

「そうするといい
だが、敵も多いかもしれない
自由に生きるには自分を貫き通す強さがなきゃいけないよ」

「うん」

「だが、人は強いだけでは孤独になる
強さ以上に人に優しくしなさい
いずれはその優しさは自分に返ってくる
そしていつか周りは君を認めてくれる」

「うん
強くて優しい人になる」

「あぁ」

「そろそろ帰るね
小さい交差点を通ってね」

「あぁ、そうしなさい」

老人はにっこり笑った


老人に言った通り小さい交差点を通って
彼は路地裏に着いた


時間もかからず
通り道に人もいなかったのでストレスもない

老人が言った通り
温かい気持ちを持って帰って来れた


今日も星が出ている
昨日と違って孤独には感じない
希望の光のように見える

「やりたいこと……」

星に手をかざす
グッと握ると
星を捕まえたような気がした

「いろいろ試してみよう」


しばらくして眠りについた

とても穏やかな気持ちだった


優しい夢を見た

穏やかな光の中にいて

誰かが自分を呼んでいる

優しい声で


その声にゆっくり振り返ると
目が覚めた


久しぶりによく寝た気がした



しばらくして食べ物を探しに路地裏から出て昨日話した大きな交差点の方に向かった


「あれ……?」


そこには黄色いテープが張られていた


街ゆく人が話しているのが聞こえた


「あー迷惑だなー」

「全くだ、ここを通れば会社はすぐなのに」

「でも幸い怪我人は出なかったんだろ?」

「あぁ、人は多かったがぶつかった人はいないらしい」

「こんなデカい信号機に当たったら間違いなく死ぬからな…」

「あぁ、他の信号機も古いだろうから見直してくれるといいがね。」


そう話しながら人混みに紛れていった


彼は黙って聞いていた

「また…だ…」

彼は老人が言ったことを思い出した

公園の配給の話
当日急にあの場所に決まったのに老人は場所を知っていた

大きな交差点の話
老人は渡るなと言っていた
いい気分のまま帰れるようにと言っていたけど
その日信号が落ちる事故があった


彼はおかしいと思った


そして老人に会いに行った


昨日の教会に




中に入ると老人はいなかった


彼は座り、マリア像に祈りを捧げた





気が付くと老人が座っていた

「やぁ、また会ったな…
何か聞きたいことがあるんだろう?」

「うん…」

「だが、その前に質問してもいいか?」

「うん」

「やりたいことは見つかったか?」

「うん」

「おお、何がしたい?」

「世界をみたい
僕が住んでる世界も
他の人達が住んでる世界も
たくさん…
それで貧しい世界を伝えたい
綺麗な世界を伝えたい」

「そうか」

「僕ね、写真家になりたい」

「そうか…」

老人はにっこり笑った

「その為には勉強しなくてはな
頭が良くなければ世間から弾かれる
勉強をしてからでもやりたいことは遅くはない
夢を追って挫折するかもしれない
それでも自分がやりたいと思ったことを忘れてはいけない
そこで諦めても自分がやりたくてやったことだ
何も無駄なんかじゃあないんだよ
後悔するよりはマシだ」

「うん」


「大丈夫、君はいい感性を持ってる
きっといい写真家になれるさ」

「ありがとう」

「あぁ、それで君の聞きたいことだが…
残念ながら答えることはできない
でも、君をいつも見守っている
もう会うことはないだろうが、きっといつか大人になってこの日を思い出す日が来たら年寄りの戯れ言も思い出して欲しい
大人になった君の糧になるはずだ
いいか、決して自分を責めてはいけない
しかし甘えさせてもいけない
逆境にこそ立ち向かえ
勝利の日には自分を褒めろ
しかし慢心するな
君はいい子だ
自分の思う道を進みなさい
周りは気にするな
正しい道ならきっと味方はついてくる
君の人生はまだまだ長い
焦らずゆっくり歩くといい」

「うん…」

彼の頬を涙が伝った

「大丈夫、大丈夫だ
私はいつでも見守っている
さぁ、さよならだ
もうお帰り」

「ありがとう
きっと忘れない
いつまでも…

ありがとう…
さようなら」


彼は泣き顔のまま笑ってみせた

すると老人も笑って手を振った


彼はその教会を出た


外を出ると太陽が眩しかった

思っていたより時間が経っていたのか陽が傾きはじめている


「しっかりしなきゃ」


彼は涙を拭いて歩き始めた




――――10年後

彼は夢を叶えていた

各国の現状を伝えるために国を渡り写真を撮り続け、写真集も出版してより多くの人に幼い頃の自分と同じ世界に住む人たちのことを知ってもらおうと活動を続けていた



そして久々に自分の生まれ育ったあの冷たく重い街に立ち寄った

街は相変わらずで

ただ大人になったせいかあまり怖くは感じなかった



街のシンボルの高いビルはホテルに変わっていて
その辺りにはもっと高いビルが並んでいる


彼は昔憧れた街のシンボルだったビルに泊まることにした
ビルの高層階からの景色は確かに素晴らしい


でも、彼が今まで見てきたものに比べたら大したことはなかった


下を見るとあの公園があった

ボランティアが配給をしている



彼はあの時の気持ちを再度確認できた


「あぁ、そうだ…そうだった
忘れていたけど、この気持ちだ
毎日生きることが不安で苦しくて寂しかった
街ゆく人はロボットのようで怖くて
だから自分もロボットのように生きた
感情を押し殺して
なんの希望もなく…」


彼は唇を噛み締めた



「もっと頑張らないとな」




彼は老人の言葉通り慢心することは無かった



今の彼は幼い頃とは違う



生きるために生き
自分が努力し続ける為に人の為に行動する


あの老人のおかげだ


「あぁ、神様願わくばこの気持ちと感謝を忘れませんように…」

自分が慢心しない為に…


彼は祈った




彼が窓の外に祈っている姿を下の公園から男が眩しそうに見上げていた

そしてニッコリ笑いながら呟いた



「さぁ、焦らずゆっくり……自由に生きようじゃないか」
















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