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子供の休日

短編小説
文学
オリジナル
2017年07月15日 12:35 公開
1ページ(3484文字)
完結 | しおり数 0


ふしきの

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翔くんが私に向かって怒鳴ったのはそれが最初でした。
陰険な先生が配ったプリントの些細なミスをあてこすられて再提出要求されたとき、マジックであわてて書いたであろう翔くんの切り取り線から切ったプリント用紙が使えなくなったことを、今度は班長の私にあてこすられたのです。
「どうすんだよ!はんちょー。ちゃんと言わねぇからこうなったんだろぉ」
男の子たちは見て見ぬふり、女の子たちは助けようとするふりをします。
いつもふりだけなので、私は私で何とかしようと頭をフル回転していました。
そのプリントの日は、休みの子が出てなく、余りプリントがないこと。提出から帰ってきたときのほとんどがきれいな状態じゃなかったこと。私のずぼらの提出用紙は指の跡できれいに丸く破れていたし。
裏移りのある紙を見つめて
「よし、わかった!」
と、「コピー機」を使うことを、提案した。
「バカか、10円かかるんだぞ」
「5円のところもあるよ」
と別の子が言ってくれたにしても
「金かかることはダメだ」
と、翔くんはものすごくけち臭く怒りました。
あの日、私は、子供プリントという変な道具を持っていました。先生もほかの子も誰も見ていないのを確認すると、鞄の中からそれを取り出したのです。
よく似た藁半紙を探すのは簡単だったけれど、それがうまく印刷するのを
「よし、祈ってくれよぉぉぉ」
と、呪文のように女の子たちと翔くんに言い聞かせ、スイッチを入れました。

ぶぶぶ、ぶぶぶ ぶぶぶ

ちょっと出てはちょっと止まる、まだ紙はなんの色もついていない。

ぶぶぶ ぶぶぶ ぶぶぶ

が、が、が

ぶーーーーー

がっ、がっ、がっ

じじじじじじじ

「なんか、臭くない?」
「機械熱くなっている」
「がんばれ、機械、冷やすんだ!」
私たちはみんなして持っていた下敷きを取り出し空気で冷まそうとして仰ぎました。

出来上がったホカホカの紙はそれはまた、元の汚い藁半紙の印刷そっくりで、名前を書く欄、何かを丸を付ける欄もちゃんと出来損ないのように汚く仕上がっていました。
書き忘れて、怒鳴られたひとことの欄はとても小さく細く、空いたスペースもありました。
「翔くん、できたよ」
といったときには、それをつかみ取って「ふん」と言って、今度はBのちびた鉛筆で書きなぐって教室から出て行ってしまいました。
「何あの子」
「うざぁ」
「ありがとうも言わないなんて、だから高飛車なの嫌い」
って女の子たちは言い合い、残った男の子たちは会釈して「じゃあね」と言って班は解散になりました。

熱くなったそれが冷めるまで私は初めてクラスに一人で夕方の教室にいました。
上級生の子が、野球のユニホームを着て、自転車で学校に来たり、別の子たちは体育館へ行ったり、遠くの高校から奇声と畳を叩く音が聞こえました。
私は比較的きれいなぞうきんを探し、子供プリントを巻いて、運動具入れの中に突っ込んで、帰りました。
いつもより遅く帰って来たことで親に殴られました。姉は、「ばーか」と言ってご飯を食べていました。


翔くんは、ほとんど学校に来ません。
たまにとてもきれいな人が校長室から出て帰っていくのを見たとき、
「翔くんのお母さんだよ」
と、聞きたくもない話を聞かされたことがあります。
毎日、遠くのレッスン場に通って、帰ってくるとか、「オーディションが何とか」とか「撮影が何とかで、海外の遠くに出かけてしまっている」とか、そういう「ハイソサエティ」のことを言われても私には「しんどいなぁ」としか言葉が出なかったのです。

母は、とてもずぼらな人でしたが、布団を干すのが大好きでした。
布団の香りがいいと、遊びに来た友達はよく私の布団で寝ていたものです。
私としても、部屋の中で本棚の漫画ばかり読まれたりされるよりも、一緒に眠っているときのほうが楽で良かったので、昼寝が終わったらバトミントンとかして遊び倒しました。そういうのがとても好きでした。
厳しい親なのでそれを知っている友達のお母さんにも「いつもはうるさい子が遊び疲れたのか、いい子になって帰ってくるのよ。ほんと、しつけのいいお家ね見習いたいわぁ」とスーパーでおだてられている姿に母は、照れながらも心で「当り前よ」と誇ったものです。

翔くんがうちに来たのは、そういう話を聞いたことがあったかもしれません。
「いいけど、男の子は……お誕生日会以外呼んだり遊んだりしたことないからおかん、慣れていないかも」
「ダイジョブ!俺受けいいもん」
と、ゲイノウ人のように言うものだから仕方なく押された感がありました。

「お邪魔いたします。これ、つまらないものですが母からお土産です」
翔くんはきちんと挨拶もできました。
「お母さん」のところを「母」という子はまだ珍しく、「あら、ゆっくりしていってね」と、母は満面の笑みで笑っていました。腹の底は私にはわかりません。なぜなら、翔くんはコンビニのレジの後ろにある手土産品を買ってきたことを悪びれなく渡したからです。それが、本当に翔くんのお母さんからなのか、それとも自分で買ったのかわかりませんでしたが、母のつくろった偽笑いに私はとても胸が痛かったです。
「あら、短パンなの。今時は流行っているけれど、それじゃあ、蚊に噛まれるから、二階に線香もっていきなさい」
それが、嫌味だと私は気が付きましたが、翔くんはあえて、
「お母さんが、似合うからって着ていきなさいって言ったんです。本当は長ズボンがいいです。虫取り網も持ってこれなかったのです」
「それは残念。蛇が出るから今日はお家で遊びなさい」
そういって仏間にマッチを取りに行ってしまいました。
私が、
「二階先に上がっておいて。すぐ行くから」
「お構いなく」
と、言い返すのも上手でした。

「冷たい麦茶になんてことするんだ!」
と、翔くんは、笑います。
「ダンゴムシ」
カップのふちにカールを並べて半分麦茶に浸かった状態を笑う顔が本当に嫌な顔なのです。
「食い物だいじにせんと、いけんよ」
「じゃあ食べんといけんよぉぉ」
「くそぉぉぉ」
私たちは笑って、悪口を言って、また、変な話をしたりして笑いあいました。
布団を占領された翔くんが寝たころ、片付けました。

「ねえ、あの子なんて名?」
「しょう」
「ショウ?」
「飛翔のショウって名前だって」
「しゃれた名前だけど、変な名前だね」
母独特の嫌味がここにでも出た。
名前には仮名がルール、だという線を逸脱していると。
「何かやってるの?」
「踊りのけいこをしているって聞いたよ」
ダンスのレッスンとは言わなかった。
「だから、いつも遠くまで電車で有名な先生のところに通っているんだって」
「それであの子、目の下がクマだらけで、やせっぽっちなんだね」
「うん、ちゃんと寝れたらいいのにね」
と、言っていると、上からいびきが聞こえたので母はまた大笑いしました。
「うちの布団は魔力がある。って噂がたってるんだよ」
と、姉が言ってたのを母は思い出したのでしょう。
私は意地でも言いませんでしたが。

そのあと、バトミントンを流行歌を歌いながらして、のどがかれかれになってジュースをまた飲んでさようならをしました。


翔くんは二度と、うちには来ませんでした。
翔くんのお母さんにも買い物の時にもあったことはありませんし、町内会や町でもすれ違ったり話に出たりすることもありませんでした。
「翔くんは留年するの?」
と、友達が言えば
「小学生は持ちあがりだから留年はないと思うよ」
誰もがそう信じていましたが、学校に来ることもなくなりました。


姉は海外の何とかグループの何とかが好きとかで英語の曲をひたすらイヤフォンで聞いていました。
土壁の壁に画びょうでポスターを貼り付けては、帰ってきて壁からはがれているポスターを見て激怒していました。
「また、お前が外したんだろ!」
と言いがかりをつけられたものです。
「ねいちゃん、木のところにつけないとはがれるんだよ」
といえば、「木に穴なんかあけられるか」と殴る繰り返しでした。
鴨居から少し離れた鴨居にロープを張り、洗濯ピンで固定するという方法を私が編み出したとき、
「お前は頭がええのぉ」
と、初めてほめてもらえました。

その時ふと、体育袋から出した子供プリントを思い出しました。
印刷の原紙がまだそこに入ったままでした。
翔くんの名前がマジックで書かれていました。

お話はここまでです。

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