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金魚の恋と白鷺の愛4

短編小説
ファンタジー
BL オリジナル
2017年08月16日 00:16 公開
1ページ(8391文字)
完結 | しおり数 0


空原きいち

表紙提供:by Exact
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△オメガバースです△


王聖宮。海の上の小さなその場所に眠るαの中のαが長い眠りから覚める時、世界には束の間の平和が訪れる。
Ωのコウは世界が王を繋ぎ止める為に差し出された贄だった。
そんなコウとαの王のおはなしです。




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の続き
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『速報です。王聖宮庁は先程、贄のΩが重篤な状況に陥ったと発表されました』

『……贄のΩといえば先日、平和王より《番》とすると発表があったばかりですが』

『とある王聖宮庁関係者によると贄のΩを襲ったのは女官だったとか』

『続報が入り次第お伝えします』

『やはり王聖宮内にも贄のΩを《番》とするのに反対する者もいるのでしょうなぁ』

『速報です。王聖宮庁は本日午後四時から、平和王自らの記者会見を開くと発表致しました』

『本日は番組内容を変更してお届けします』

『王聖宮庁の○○さん、予定の時刻となりましたが』

『……ええと、はい……王聖宮庁の○○ですが……』

『会見の内容をお届けします』

『……私は今……とても悲しい……これからもこの悲しみを越えることはないだろう……ぐすっ』

ボロボロと滝のように流れる涙すら美しいけれど、誰もが困惑して目を見合わせているのが見なくても分かる。
深緑色の幕の前、記者団に対峙するのはαの中のα、世界の王様だ。白い髪は涙で濡れ、白い肌は感情の昂りにほんのりと赤く色付いている。
鼻をすすれば鼻水で噎せ、もうまともな様子ではない。この数百年の内、こんな平和王を誰が見ただろう。この世界はとても貴重な光景を目の当たりにしている。

『王君、しっかりとなさってください』

見兼ねた翁が声をかければ、それを睨んで、平和王は差し出されたティッシュで鼻をかむ。

『私のΩは腹部を刺されたが命に別状はない。おぞましい犯行に及んだ女官を案じ、床の中で助命を嘆願している』

僕は手術後のお腹に手を添えて傍に立つ隊長さんを見上げた。
確かに命に別状はない。腹部を刺されたのも事実だけど、刃は帯で殆ど食い止められ、傷自体が大したことがない。術後も安静だけどベッドからは出て良いといわれているし(それでも平和王が騒いで彼のいる所ではベッドにいるけど)助命嘆願なんてする暇もなかった。
あの瞬間、襲撃を受けた僕の目の前で、女官は隊長さんに斬り伏せられた。
隊長さんを責めることは出来ないし、してはいけないのだろう。この方は職務に忠実に僕を守ろうとしてくれたのだから。
刺されたと騒ぎになって直ぐ、担架より早く駆け付けた平和王が顔色を変えて大騒ぎしたせいで騒ぎは更に大きくなってしまったけど。

『だが連日の報道を見ると、世界は私から片割れを奪うことを望んでいる。それが、私は悲しく涙が止まらないのだ』

ああ、あんなに泣いてしまったら目が腫れてしまう。そんな平和王は見たくないという人がいるだろう。僕は見ていたいけれど。

『……で、では、報道にある重篤な状態というのは』

勇気のある記者が問えば、平和王は激しく首を振った。

『世界は私の幸福を祝ってはくれないのか』

滅相もないと画面越しに否定した人は一体、どれくらいいるのか。
呆然と記者会見という名の平和王の号泣を見ていた僕は、急に消えた画面に驚いて傍らの隊長さんを見上げる。端正な顔は身が竦む程、冷たいのに、どこか気不味さが見えた。
僕は映像の消えた画面を見て、隊長さんに視線を戻す。

「……ごめんなさい」

「……何を謝られることが」

「あの、平和王があんなに泣いてしまうとは思わなくて」

口を閉ざした隊長さんが視線を逸らす。小さく「自分もです」と答えてくれた声は力がなくて、近寄り難い印象のこの方を少しだけ身近に感じた。ほんの少しだけだけど。
僕は刺された腹部を摩る。

「痛みますか」

「え、あ、少し違和感が」

「お休みください」

「……はい」

きっと記者会見を終えた平和王は僕の部屋に来るのだろう。直ぐにベッドに入れるように僕は単衣に羽織だけで過ごしている。
怪我が完治して歩けるようになれば、前のような装束に戻るのだろう。その時に帯に鉄板を入れるとか物騒な言葉を聞いたことがある。けれど、あの女官が僕を襲い、今日までの間に重篤の噂だとか王聖宮内にも贄を《番》にすることを反対している人がいるということを聞いたから、鉄板があってもなくても同じようなことが起こるのかもしれない。それも、世界の意思なのかもしれないな。
ベッドに入り枕に凭れながら、窓から見える庭の木を見つめる。
隊長さんは静かに入り口付近に移動して、気配を消す。無言の空間は慣れた物で、僕は小さく欠伸をすると少しだけと目を閉じた。
不意に冷たい手が僕の手を握る。
それに誘われるように目を開けば、平和王がベッドに腰かけて僕を見つめていた。その目許は少しだけ赤い。

「……目を冷やしましたか」

「うん。ああ、でも思い出させないで。また泣いてしまう」

僕に会えるからと一生懸命、涙を抑えたのだといった平和王に袖で目許を拭う。

「僕のことで泣くなんて」

「違う、私のことで泣いたんだ。世界は私から金魚を奪おうとしているのだと思うと、悲しくて」

泣くことなどないだろう。僕はそういったけれど、平和王がそれでも良いと、そんな世界から守ると誓ってくれたのだから。
平和王は僕の肩に顔を埋める。すんと鼻を啜るから、僕は背中に手を添えて小さく摩った。
守ってくれるといわれて、それが嬉しいなんて、僕は世界中から叱られてしまうだろうな。平和王が泣く原因となってしまったのだから。
平和王は僕に凭れると、そのままベッドに倒れこむ。薄く背丈も変わらない体に、僕は押し潰される。

「ぅ」

「!ごめん、まだ完治していないのに」

慌てて離れた平和王に、僕は首を振る。苦しかったけれど、痛くはないから。
小さく息を吐いた平和王は、僕の隣に寝転がって前髪を擽る。

「金魚、守ると誓って直ぐに命の危機に陥らせてしまった。私は謝っても謝りきれない」

「……これも受け入れるしかないと思っています」

「そんなことをいわないで」

「僕は、世界から王を奪った罪深いΩです。だから、怒られるのは仕方がないんです」

「金魚」

「そんな顔、しないでください。それでも、僕は平和王が良いと仰るのなら側にいたいと思ったのです」

「白鷺と呼んでくれないの?」

悲しそうな顔を浮かべて僕の頬に手を添えた平和王に、僕は自分の手を重ねる。

「……僕、だけの特別な名前ですか?」

「勿論」

「でも、エリックさんが呼んでました」

「申し訳ない。エリックと彼の祖父達の話をして、箍が外れていたんだ。貴方のことを考えず、ただ《運命の番》から貰った宝物を自慢してしまった」

「……四十二年前の贄が、エリックさんの大伯父だとシャーマンからお伺いしています。どんな方だったのですか?」

平和王は苦笑を浮かべる。その目は昔を懐かしむ色を浮かべていた。

「とても強くて、弟思いの方だった。友人のような人で、私が眠る前に母国に帰るよういったよ」

「僕も帰れといいますか?」

「とんでもない。……貴方にはこの世界は酷かもしれないが、ここに残って欲しい。その命が終える時は、ここに墓をたてて欲しい。何時か私もそこに入り、ずっと共にいたいと願っている」

「……同じ墓に入って欲しいって、僕の国ではプロポーズに使われます」

口に手を当てた僕に、目を丸くした平和王は子供のように晴れやかな笑顔を浮かべた。
それから僕を優しく引き寄せて、額と額を合わせる。
トクトクと鳴る僕の心臓に、平和王の心臓も忙しなく鳴っていることだろう。忙しないけれど、幸福感で満ち足りて穏やかでいられるのだ。
平和王が僕の首に嵌る首輪を指先で撫でる。

「プロポーズを受けてくれる?」

それは、僕の項を噛むということだろうか。
僕が平和王の《番》となれば、世界はもっと怒るのかもしれない。それを素知らぬ顔なんて出来ないし、迷いだってあって僕の足を竦ませる。
だけど、平和王は僕の手を取りこっちにおいでと引っ張るのだ。
僕は視線を逸らし、迷わせてから、平和王に焦点を戻す。首輪に添えられた手を握り締めた。




†††††††



『王聖宮庁の発表です』

ブラウン管の向こうでは、無表情の……否、少しだけ嫌そうな顔でアナウンサーがニュースを伝える。
それを見ていた僕は、ニュースの直前に消された画面に目を丸くした。薄暗い画面にはチャンネルを置く隊長さんがいて、分かりやすく嘆息した。
平和王が目覚めてから三年。最長で十年という記録があるから、それを抜くのではないかというのが専門家の意見。僕という《番》を持ったことで今までのようではなく、様々な記録が更新されるのではないかと期待を寄せている人もいる。その人だって、《番》が僕でなければと零すのは今も変わらないけれど。

「あの、今日は」

「変わりありません」

そうきっぱりといった隊長さんは、入り口で控えている武人――剣のひとりに仕度をするよう命じる。
僕は袖広の口から覗く指先でドレスの裾を摘み立ち上がる。
三年。僕という世界中から嫌われる《番》を少しでも受け入れてくれるようにと、平和王は毎日のように惚気という近況報告を行うようになった。恥ずかしいし申し訳ないからやめてほしいと懇願しても聞いてくれやしない。
シャーマンが毎日、お腹を抱えて笑い、翁がうんざりと平和王からの報告を記者団の前で読み上げている光景は、過去に見ないと世界中も困惑しているそうだ。
王聖宮に集めたΩは年々、数を増している。《番》がいるのに関係がないのではと思うけれど、平和王が行っているのは文字通りの《Ωの保護》でαが《番》を求めて訪れる場所としているそうだ。何故、ここでやるのかと聞けば、平和王は『αがΩを守らないのならば、私が守ろう。世界の意識が変わればαも考えを改めるだろう』といった。どういうことか難しい話は僕には分からないけれど。
母国からの取次の連絡はなくならないけれど、僕に届く前に官吏が握り潰しているとか。
これも平和王が『私達を守る武人が剣であるのならば、お前達は盾となれ。《番》を悲しませることのないよう、世界の王が命じる』といったそうだ。
全てシャーマンから聞いたことだけど、未だに打たれ弱いなんて嘘みたい。
それから、エリックさんは昨年、《番》との間に子供を授かったそうだ。平和王がとても喜んでいた。

「失礼致します」

かけられた声に扉を見れば、侍医が深く頭を下げていて。
今、お伺いしようとしたのだといおうとするよりも先に、侍医は僕に近付いて来ると肩に手を置いてソファーに座らされた。
隊長さんが目を眇めて僕を見る。

「ぁ、あの」

皺の目立ち始めた厳格な顔に怯んでいると、侍医は失礼を詫びてから何時も通りの検診を始める。
無駄のない言動に応えている間にあっという間に終わったそれは、几帳面な字でカルテに書かれて行く。

「大事ありません」

そう告げた侍医に小さく頷いて礼をいう。と、賑やかな気配が近付いて来て、平和王が飛び込んで来た。慌てふためいた様子で飛び込んで来た平和王は頭を下げる侍医や隊長さん達に構わず僕の側まで来ると、目の前で膝をついた。
遅れて入って来た官吏達も頭を下げたものの不服そうで。
平和王は僕の手を握り、黒檀の瞳に不安そうな色を浮かべる。

「金魚、私の《番》。どうして今日も侍医を?どこか悪いの?どうして私には教えてくれないのか」

侍医が物言いたげに僕を見た。
僕はそっと平和王の手を握り締める。
今日を含めて三ヶ月。僕は平和王に告げることはなく侍医の検診を受けている。その理由を知っているのは侍医と、隊長さん達僕を守る剣の武人達だけだ。絶対に漏らさないよう極秘のそれに、今日、告げても良いと侍医が判断したのが『大事ありません』という言葉で。

「……悲しまないでくださいね」

白い顔を更に青ざめた平和王に、侍医が僕を睨む。
慌てた僕は、首を振る。

「決して、体が悪いという訳ではないのです」

「では何故?」

「あの、来年の夏の前なのですが」

「うん」

「小さな金魚が増えているかもしれません」

「……え」

言葉を失う。まさにその様子に、僕は下唇を噛み締めて平和王から手を外す。
《番》となり三年。遅いと思っていた懐妊に、僕は喜んで、安定期に入るまで報告を控えて貰っていたのだけれど、失敗しただろうか。平和王は、子供がいらないのだろうか。
涙まで滲んだ僕に、平和王は侍医を振り返る。その顔は見られないけれど、侍医は真摯な顔で頷き懐妊の報告と喜びを口にする。
逸らした視線の先、官吏だけではなく女官もあんぐりと口を開けていて。

「父となるのか、私が!」

突然、大きな声を上げた平和王に驚いていると、彼は頬に朱をさして歓声をあげ、侍医と隊長さんに抱き着いた。
何故、そちらなのだろうと呆然としていると、平和王は官吏や女官にまで抱擁し、歓声をあげ、それから思い出したように僕の側に駆け戻って来るとやっと抱き締めてくれた。

「金魚!私の子供がいるのだとどうしてもっと早く教えてくれない!ずるい!」

「ず、ずるい……ですか?」

「そうだとも!もう安定期に入ったのか?そうなるまでひとりで喜んでいたの?ずるい!」

「……その……いなくなってしまったら悲しくなってしまうかもしれないって」

「私達は夫婦だ。片割れ同士だ。悲しいことも嬉しいことも分け合おうと何度もいっているのに」

そういって拗ねた様子を見せた平和王は僕の両頬を抓む。僕がこういうことをすると罰だといって抓んで来るのだ。
呻くと、平和王は口に手を当てて喜びを殺しきれない息を吐き、だらしなく笑みを浮かべて僕を抱き締めた。

「……僕との子供を喜んでくださいますか?」

「もう、どうしてそう弄れるんだ。何人でも欲しいくらいだよ」

「野球が出来るくらい?」

「やきゅう?なぁに、それ」

野球を知らないのだろうか。でも、それだけ生んでしまうと僕は疲れてしまうかもしれないな。
平和王の肩越しに隊長さん達を見ていると、翁が飛び込んで来て、報告を受け、バタン!と倒れてしまった。官吏達が「翁!」と叫んで慌てて快方をする。きっと朝一、ううん、速報で僕の懐妊が伝えられることだろう。
それが世界にどういう影響を及ぼすのかは分からないけれど、せめてこの子は歓迎されて欲しい、祝福を多く受けて欲しいと薄いお腹を撫でる。
きっとこの子はαだ。平和王の後継になるかは分からないけれど、αが消える未来を少しでも回避出来る可能性になれば良いな。
平和王に凭れた僕に、平和王は嬉しそうに何度も頬擦りをした。

「ああ、幸せだ!」

「……僕も、幸せです」

本当に幸せだと、出会った頃よりも少しだけ広くなった背中に手を添えて甘えるように擦り寄れば、平和王は腕の力を強くし、慌てて離れる。その様子に吹き出して笑った僕に、平和王も笑って。
きっと、世界中が手放しで歓迎はしないけれど、今の僕は幸福感に浸れるだけこの方の愛を受け入れる余裕が出来ている。その愛はこれからもっと増えるのだろう。
それを思うと、僕は不相応にも未来を楽しみにしてしまうのだ。
その日の夜、世界中がその速報に驚き、僕の不安をよそに歓喜で沸いた。
一生、忘れられない夜に、僕は嬉しくて泣いてしまい、平和王の惚気は翌日から更に酷くなったとか。







金魚と写真


シャーマンから渡されたのは携帯端末だ。

「これで写真を撮って投稿サイトに載せてみたらどうだろう」

そういって楽しそうにいったシャーマンに、僕は端末を弄ってみる。アプリは入っていて、使い方を教わる。
どんな写真でも良いから投稿してみてといわれ、悩んだ末に最初に撮ったのは剣の隊長さんだ。訝しそうに僕を見ている顔が少しだけ間抜けだなと思いながら、それを指示通りに投稿してみる。
僕の名前でプロフィールにも僕の情報が出ていて、現在地には『王聖宮庁』と出ている。
誰が見ているかは分からないけど、それからも写真を撮って載せるを繰り返す。
娯楽の少ない王聖宮で(僕は苦にも感じていないけれど)それは直ぐに僕の日課になった。

「金魚は最近、新しい趣味を見付けたそうだね」

そういって携帯端末を取り上げた平和王に、僕は事情を説明する。シャーマンがやってみたら良いというのならば、やった方が良いのだろう。そう思って続けていると。
平和王は苦笑を浮かべて端末を返してくれる。

「楽しいのなら良いよ」

「……はい」

楽しいのかもしれないな。
僕は写真を撮る技術がないから上手にはいかないけれど、剣達や女官、風景や中庭に迷い込んだ猫や小鳥を投稿し続ける。不意に、僕は平和王を撮ってみたいと思って欲求通りにやってみた。
きょとんとした顔の平和王に、上手く出来たかなっと聞いてみたら、照れたように笑われる。僕はそれを投稿してみた。
と、今まで大してアクションのなかった投稿写真に、沢山のハートがつく。プロフィールにも僕をフォローする人が増えて、驚いてシャーマンに助けを求めてしまった。

「僕は悪いことをしてしまったのでしょうか」

「寧ろ喜ばれることだよ。どんどん投稿したら皆が喜ぶからね」

「……良いのですか?」

「翁にも止められていないのだから良いよ」

「……はい」

皆が喜ぶのなら良いのかな。
シャーマンは僕が平和王を撮って投稿するのを狙っていたらしくて、それから色々な表情を撮って投稿したらニュースにもなった。
記者会見だって平和王自身が出ることは稀だし、公の場に出ることも多くはないから、こういう写真は喜ばれるのだといわれた。
剣達の稽古を観察する姿とか、欠伸をする瞬間とか、翁に小言をいわれて拗ねている顔とか、時々、周りから叱られることもあるけれど、皆が平和王の姿に喜んでくれるのが分かる。勿論、撮ったらいけない瞬間とか、流石に恥ずかしいからやめてと平和王自身からいわれたら辞めている。そもそも投稿する前に平和王に見せて許可を貰わないと投稿はしないけど。
そんなある日のこと。
中庭で日向ぼっこをしていた僕は、隣に座った平和王を見る。

「今日も良い日和だ」

「はい」

「写真は撮ったの?」

「あ、あの、これを」

さっき、中庭に出る前に撮ったのは大樹を見上げる官吏達の背中だ。こういうのは勝手に投稿してはいけないと教えられていて、だけど許可を取る為に声をかけるのも嫌がられるだろうから平和王に見せて消そうと思っていた。
平和王は写真を見て「良い写真だ」と呟く。

「最近は腕も上がって来たね。私の金魚は天才だ」

「うぅ」

「ほら、今日は私を撮ってくれないの?」

澄まし顔の平和王に、僕は端末を向けて写真を撮る。
ピントも合っているし、きっと皆が喜ぶだろう写真だ。それを投稿すれば、直ぐにハートが付く。
それを見ていた僕は、頭を引き寄せて髪を撫でる平和王に凭れる。

「どうかした?」

「……世界中がもっと王の顔を見たいと望むのでしょうけれど、僕だけの特別が欲しいとも思ってしまったのです」

「!」

息を飲んだ平和王は、次の瞬間には嬉しそうに僕の頭に口付けた。
特別を貰っておきながら、まだ独り占めしようとしているなんていえない。酷いバッシングを受けるだろう。写真には撮れない顔を目に焼き付けて行かなければ。黙っていれば、僕のこの欲深さは誰にも気付かれないかもしれない。
そんなことを思っていたら、平和王が隊長さんを呼ぶ。
側で控えていた隊長さんに端末を渡し、僕の肩を抱いて背筋を正す。何が起こっているのか分からずきょとんとしていると、平和王は構えろという。だから慌てて身構えると、隊長さんは無言で端末を弄り、直ぐに端末を見せて来た。
そこには蕩けるような笑顔を浮かべる平和王と、緊張の面持ちで身構える僕が写っていて。

「あの」

「つーしょっとってやつかな。これを写真にして部屋に飾ろう。金魚、これは投稿してはいけないよ」

私達だけの特別だといった平和王に、僕は頬を緩めて頷く。
こんな素敵な特別を手に入れられるなんて、これ以上の幸せがあるだろうか。
後日、シャーマンに頼んで待ち受けにしてもらった写真を、僕も紙に写して部屋に飾った。
世界中の誰も知らない、僕の宝物はこうして増えて行く。それは平和王も同じらしい。
久し振りに部屋に訪れた僕は、写真立てだけでは収まり切らない写真や些細なことで平和王にあげた物を大事に保管されていて。
驚くやら恥ずかしいやらで真っ赤になると、平和王は僕を抱き締めて、翁に怒られたのだった。

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