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魂の双子

短編小説
純文学
オリジナル
2014年10月06日 11:12 公開
1ページ(2058文字)
完結 | しおり数 0

いつか自分が誰かを殺すのではないかと、怯えている。

鷹見

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送るつもりのない手紙。

ひっそりブログから再録。

初出:2012.2.24
再録:2014.10.6
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 杉田君は自分を「ダメ男」と呼ぶ。


 私は時々杉田君に「大丈夫か」と連絡を入れる。

『なんでいつもいつも、俺が落ち込んでるってわかるの』

「理屈じゃないよ。みんなを楽しませたかっただけなのに、途中から何言ってるんだかわからなくなって、焦っても自分を止められなかったんだろ。それなのに、自分の言ったこと全部覚えてるから、自己嫌悪で死にたくなってる」

『アンタ、すごい』

「杉田君は魂の双子だからな。キミがどんな野郎でも、誰かがキミをどう言おうとも、キミを嫌いになったりしない。それだけは忘れるなよ」

『アンタはいつも俺の欲しい言葉を欲しい時にくれる。俺も。俺もアンタが好き』


 その頃の杉田君にはちゃんと彼女がいたし、お互いそういう「好き」ではない。

 本当は全くダメ男なんかではない。学もあるしルックスもいい。すごく優しい男なのに、人も自分も踏みにじってどうにかしたい欲求に苛まされている。


 杉田君の母親は心を病んでいた。

 彼女は彼に過大な期待をして、失望して、いつしかそれが憎悪に変わった。

「アンタなんか生きてる価値がない」

 そう言い続けた。

 母親が大病で入院した時、杉田君は数年ぶりに生まれ故郷に帰った。

「早く死ねばいいのに。生まなきゃ良かった。アンタはいつか誰かを殺す。人殺しの目をしてる」

 それが彼女の最期の言葉。

 杉田君は、いつか自分が誰かを殺すのではないかと、今でも怯えている。


 キミの魂の根っこの部分がひからびている。

 重い枷である母親がこの世から消えたのと同時に、キミの心までが壊された。

 キミは母親のために生きていたのに、結局報われることはなかった。

 呪いの言葉だけが残されてしまった。

 心だけではなく、いつしか肉体までが病に冒されていった。


 もしも杉田君が私を「欲しい」と言ったならば、この肉体を差し出したかもしれない。

 でも、お互いそれは地獄への道だと知っていた。

 キミも私も死ぬことばかりを考えていたから、もし甘えて手を取り合ってしまったら、躊躇うことなく死へと向かっていただろう。

 だから、誰にも言えない苦痛を少しだけ分かち合うためだけに、あの頃の私たちはどちらからともなく電話をかけていた。

 多くの言葉はお互いを傷つけるだけだったから、語ることもなく、ただ息づかいを聞くために。

 お互いが生きてることを確認するためだけに。

 馬鹿馬鹿しいかもしれないけれど、あの頃の私たちには必要なことだった。


 私が結婚して、もう何年も経つ。

 絶望の中で本当に生きていたのかどうかも曖昧で、あの頃の記憶はひどくおぼろげなのだけれど、たった一人、何もかもを捨てる覚悟で私を引き止めてくれた人がいてくれたから、私は今でも生きている。


 ある日、杉田君からメールが届いた。


--------------------

……俺はね

地面に根っこがはえてるようなあの人が、アンタを捕まえてくれて

本当に安心したんだ。

これで、アンタは救われるって。

頼りない風船みたいに、どこかに飛ばされて割れたりしないって。

結婚式に行けなくてごめん。

おめでとうって、ずっと言いたかった。

ようやく言えるよ。


結婚おめでとう。

--------------------


 本当に。

 今さらだな、馬鹿野郎。

 遺言みたいに語るんじゃねぇよ。

 まだキミは生きているだろう。

 寒さを感じるなら、身体にはあたたかい血が流れているだろう。

 生きるのがつらいのは知っている。

 その身を苛む病で苦しんで死ぬのが怖いのも知っている。

 私のエゴだと知っていても、それでも、少しでも長く生きていて欲しい。


「キミが死んだら私は泣くからな」

「アンタが死んだらもう俺はどう生きていいのかわからない」

 ……馬鹿たれが。


 この世で一緒になることは叶わないけれど、今でも変わらずキミが好きだ。きっと、それは永遠に。

 たとえ罰が当たろうとも、私は右手で彼を、左手でキミを掴む。

 だから、たったひとりで地獄へと沈んでいかないでくれ。

 キミを捨てることのできない私を、そのままでいいと言った人だからその手を取った。

 彼と一緒に、キミを地上へと引っ張り上げるんだ。

 あの頃と違う今ならきっと、キミの重荷を少しは背負えるだろう。


 キミを自分から抱きしめる資格は私にはないけれど、ただ、両手を広げてキミが振り向くのを待っている。

 あの頃に見た青い海を、またいつか見に行こう。

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