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ココロが動く、その瞬間まで

短編小説
恋愛
BL オリジナル
2017年09月10日 19:03 公開
1ページ(7963文字)
完結 | しおり数 0

チャラ男と冷めている平凡の話

藤里ほうり

表紙提供:by neco
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受け溺愛のチャラ男美形×冷めている平凡。
あがたふーこさん主催の美形×平凡アンソロジーに参加させていただいたお話です。
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「俺、かんざきのこと、好きなんだぁ。俺と付き合ってください!」
 放課後の体育館裏。漫画なんかでも、もう古いシチュエーションなんじゃないだろうか。そんな場所に俺、神崎一稀は呼び出されて告白を受けた。学年でも有名な美形グループにいつもいる、もちろん美形な山嵜浩太という男に。
「だ、だめかなぁ?」
 目の前でもじもじする山嵜をじっと見上げる。背が高い。俺なんて170満たないのに多分180近いんじゃないだろうか。そして、高校に入ってまだ2カ月というのに金に近い茶色に染まっている髪。シャツは第二ボタンまで空いているし、ズボンは腰パン。はっきり言ってチャラい。山嵜は隣のクラスだけど、俺のクラスに仲の良い奴らがいるらしく、しょっちゅう教室に来ている。けど、会話なんてしたこともないし、いつも賑やかな人たちに囲まれているから、自分で言うのもあれだが、平凡な容姿に加え根暗な俺は近づいたこともない。そんな俺がそんな人物に告白をされてしまった。
 どうしたものだろう。正直に言うとお断りしたい。けど、ここで断っても後々面倒だということがわかっているので、結局のところ俺に残された選択肢は一つしかないのだ。
「わかった。付き合う」


* * *


「かずき~、一緒に帰ろう~」
 山嵜と付き合い始めてはや一週間。放課後になると山嵜は教室まで俺を迎えに来る。それを見て、山崎とつるんでる奴らが陰でニヤニヤ笑っているのを、俺は知っている。
「今行く」
 長めの前髪に黒縁眼鏡、漫画でいじめられっ子によくなってるような見た目の俺と、派手でアホそうだが見目麗しい山嵜が一緒にいることを、クラスの男女ともあまりよろしく思っていないようだ。なんであいつなんかが、とこそこそ言っているのを聞いたことがある。けど、陰で色々言われるだけで別に嫌がらせをされているわけじゃないので放置している。今日も若干鬱陶しい視線を背に受けながら、山嵜と一緒に教室を出た。
「ねぇねぇ、かずきは今日どこ行きたい?」
「別に、特にない」
付き合い始めてから、山嵜はこうやって俺に行きたいところを聞いてくる。曰く、放課後デートだそうだ。俺は放課後なんて、図書室で勉強するか直帰するかくらいしかしたことないから、周辺にどんな道草場所があるかなんて知らない。だからいつも答えは決まっているのに、山嵜は毎回聞いてくる。かなり面倒。
「も~せっかくだから、かずきが好きなところ行きたいのに…どこでもいいんだよ?」
唇を尖らせてぶうぶうと文句を言う山嵜を横目で見て、こっそりとため息を吐く。行きたい場所なんて今は一つだけだ…自宅の一択。でももう少し付き合えば解放されるのだから、と本音は我慢する。
「じゃあ…この間行ったコーヒーショップがいい」
 歩き回らずに済むからと言う本音も飲み込んで、笑顔で「うん…!行こう!初めてかずきが行きたいとこ言ってくれたぁ」と、横で喜ぶ山嵜を置いて先に歩き出した。


* * *


 山嵜と付き合い始めて今日でちょうど二週間。俺は山嵜を告白されて付き合うこととなった体育館裏に呼びだした。
「かずき?どうしたのこんなとこ呼びだしてー?」
 へらへらと、でもちゃんと呼び出しに応じた山嵜。そもそも本来なら山嵜が俺を呼び出すはずだったろうに、昼休みが終わるころになっても一向に言いださないから俺が切り出してやったのだ。
「いや、おまえ俺に何か言うことあるだろう」
 「言うこと?」と首を傾げる山嵜を前に、今まで我慢していた溜め息を堂々と盛大に吐き出す。びくっと山嵜の肩が跳ねたが、もうそんなの気にしてやるつもりはない。
「今日でお前と付き合って二週間が経つ」
「う、うん!えへへ、かずき覚えててくれたんだぁ、嬉しい」
 何故、こいつはこんなにへらへら笑って喜んでいるのだろう。もっとほっとしたような表情をするか思ったのに。よく分からないが、ちゃんと二週間経ったのなら、もう良いだろう。
「もう別れてもいいよな」
「え…?」
 ようやく表情を崩したと思ったら、なんでそんな蒼白な顔をするんだろうか。やっぱり、俺にはよく分からない。


* * *


 中学2年の時、クラスで可愛いと人気の女子から放課後教室に残っててほしいという手紙をもらった。当時から俺は自分を根暗と自覚していたし、呼び出される理由なんて、嫌なものしか想像できなかった。けど、放課後に俺が言われたのは「私と付き合って下さい」と思いもよらぬ告白だった。告白なんて初めてで、しかもクラスで美少女と呼ばれてる子。返事に困惑してたら「ダメかな?」と上目使いをされて、気付いたら「は、はい…っ」と承諾してしまっていた。
 それから、放課後一緒に勉強したり帰ったりとしていた。クラスの男子からはなんでお前なんかがと僻まれて仲間外れにされたりしたけど、初めての彼女に浮かれていた俺はあまり気にしていなかった。次第に流されていただけの関係から笑顔の素敵な彼女にちゃんと恋をして、付き合ってから二週間経ったとき初めて手を繋ごうとした。でも彼女の告白から二週間目になった放課後、数人の女子とともに彼女に言われた。
 俺と付き合ったのは、罰ゲームだったと。好きでもなんでもなくて、ただクラスで人気のない俺が選ばれただけだと。
 始めは何を言われているか分からなかったけど、女子たちから「好かれてるなんて勘違いすんなよ」とか「付きまとったら許さないから」など散々言われてるうちに、色々理解できた。一人で納得しているうちに彼女と女子たちは消えていて、教室に残ったのは惨めな俺だけだった。
 それからクラスでの俺の立ち位置が、何故か罰ゲームの対象になっていた。あの後、特に彼女や周囲に対し何も言ったり行動を起こしたりしなかったから、俺は何をしても平気な奴と甚だ迷惑な評価をされたらしい。迷惑だったけど、もう何もかもどうでも良くなって、とりあえず色んなことに対し適当に流されていた。彼女のことが原因だったようにも思うけど、それより前から「もういいや」と思う癖はついていたと思う。罰ゲームの対象は卒業するまで続いて、中学までで不本意ながら元カノ、そして何故か元彼まで、多分合わせて10人くらいできたと思う。ほんと不本意だか、まぁ特にどいつとも特に何もしてないし、ただの肩書だけの関係だったからどうでも良かった。


* * *


「かずき…別れるって、どういうこと…?」
 情けない顔をして、俺の肩を掴み揺さぶる山嵜に首を傾げる。
「だって、おまえらの話じゃ罰ゲームは二週間じゃなかったか」
 聞き間違いはしていないと思うんだがと告げると、山嵜の顔が少し青くなった気がする。
「な、んで…」
「放課後、忘れ物して戻ったとき教室で山嵜とその友だちたちが話してるのを聞いた。おまえが罰ゲームで俺に告白することになったこと。おまえで落ちなかったら、その次に負けた奴がまた告白に来るってこと。何回も呼び出されるのが面倒で、お前の告白に頷いた」
 事実を淡々と述べるたびに「や、え…」とか「ちが…っ」とか、言葉になってない相槌を打ってくる。俺が気づいていたことは黙っていた方がよかったのだろうか。でも今日一日、別れを切り出す素振りを全然山嵜が見せないから、俺から切り出すには知ってると言うことを話す方が手っ取り早いと思ったのだ。肩に乗る山嵜の手を下ろし、青白い顔の山嵜の目をしっかりと見据える。
「十分に付き合ったからもういいだろう。好きでもないやつと毎日出掛けるのもめんどうだったろうし。俺も……面倒、だった。それも、もう今日で終わりだ」
とにかく、俺が言いたいことは全部言い切った。「じゃあな」と言ってこの場を去り、たかったが、急に後ろから伸びてきた手に引き寄せられて背後にいた人物の胸に抱き留められた。背後の人物なんて山嵜しかいないのだが。
「やま…」
「やだ!!」
 突然の大声にドキッとした。それから「やだやだやだよぉ…」と抱きしめる山嵜の力がどんどん強くなる。どういうことだろう。罰ゲームはまだ終わってなかったのか。それは面倒事がまだ続くということかと顔を顰めていたら、山嵜の腕の中で身体を回転させられた。悲痛そうな顔で、瞳に今にも溢れ出しそうな涙を溜めて、山嵜は言った。
「かずきのこと、ほんとうに好きなんだよぉ…」


* * *


 かずきのことを初めて見たのは、中学卒業間際のときだった。漫画によくありがちな出会い。といっても、一方的な出会いで、かずきは俺のことなんて気付いてもなかったと思う。
 その日は雨が降っていて、俺も傘を差しながら早足に帰宅途中だった。ふと何気なく路地裏に目がいって、そこで気だるげな表情をする他校の生徒を見つけた。そいつが見つめるのは、段ボールに入れられた子犬だった。犬を捨てる瞬間を見つけてしまったかぁと眺めていたら、そいつが差していた傘を段ボールが濡れないように置いてあげて、「可哀そうにな」と呟いたのが聞こえた。
 勘違いをしてしまったと恥じてたら、そいつは子犬の頭を撫でながらとても慈愛に満ちた表情を見せたんだ。あんな気だるげそうで、どうでもよさげな顔からの優しい表情に、俺は心臓を鷲掴みにされた。「うちじゃ飼えないけど、あとで何か持ってきてやるよ」と、声を掛けて立ち上がった姿が目に入り、俺は何故か隠れなきゃと思ってその場を急いで離れた。
 離れてから、声をかけとけば良かったって後悔しちゃったけど、明らかに男のそいつにドキドキしちゃってた俺は、気持ちを落ち着かせたかったからしょうがない、と言いきかせてそのまま家に帰った。帰ってから、またあの子犬のところに行けばあの子に会えるかなと楽観的に考えていたけど、結局それからあの子に会うことは出来なかった。次の日の放課後に同じ路地裏に行ってみたら、傘もなく、子犬もいなくなってた。代わりに塀に、「大切に育てます」と丁寧に貼り紙がしてあった。あの子もこの手紙を読んだのだろうか。傘もちゃんと持ちかえったかな、なんて考えながら、一瞬だけ感じた恋心に蓋をした。
 結局、その蓋はすぐに外れてしまったんだけど。まさか、高校が同じで、隣のクラス。出会えるなんて思ってなかった。同じクラスじゃないのは残念だったけど、ダチがかずきと同じクラスだったから、遊びに行く体でかずきを観察してた。名前はダチからすぐ聞いたし、あの時と同じで気だるげそうだなぁ、うるさいの嫌いそうかもとか思いながら話しかけるタイミングを窺ってた。
 タイミングは思いもよらぬ方向からやってきた。ダチたちとゲームをして、俺が負けた。そして、罰ゲームが何故かわからないけど、かずきへの告白だった。これは俺のダチのダチが提案した内容だった。罰ゲームで男に告白なんて良く思いつくなぁなんて思ったけど、かずきのことが好きだった俺からすれば好都合だった。断られたら冗談だよって笑って、友だちから仲良くなろうって考えてた。付き合えたら二週間は恋人として過ごすことという約束も付け加えられた。男からの告白をいきなりオッケーしてもらえるなんて思ってなったけど、もし仮にオッケーしてもらえたら2週間なんて言わず、ずっと恋人でいたいと思ってた。断られたら次に負けた奴がもっかい告白な~という言葉は、「ダメ~、罰ゲームの内容はちゃんと新しいの考えなきゃ~」と笑い飛ばして、俺はかずきに話しかけるチャンスを手に入れた。
 まさか、かずきが告白を受けてくれるなんて思ってなかったから、ほんとに嬉しかったんだ。俺のこと知らないはずなのになんでだろうと思いながらも、付き合ってもらえるならちゃんと好きになってもらえるよう頑張ろうと一緒に放課後デートをしたり、お昼ご飯を一緒に食べたりした。かずきはいつも一緒にいてくれたから、うまくいってるんだと思ってた。でも、自惚れもよいとこだったんだね…。
「かずきのこと、前からほんとうに好きだったんだ…罰ゲームっていうきかっけで告白したけど、俺の気持ちはウソじゃないよぉ…」
「……」
 俺の告白を、いつもと同じ冷めた目で聞いてるかずき。そういえば、あの時見た優しい表情は一度も見れてないやって考えながらも、せめて俺の本気だけは伝わってほしくて縋り付いてしまう。どうかお願い、信じてほしい。
「かず…」
「俺、かずきじゃないんだ」
「……え?」
「俺、かんざき かずきじゃない」
 そう言って溜め息を吐いた想い人は、至極気だるげだった。
 

* * *
 

 山嵜の真剣な告白を聞いて、俺が感じたのは「そうか」、とその程度の感情だった。悲しいかな、俺の感情は山嵜の熱意を受けてもあまり動いてくれなかった。申し訳ないなとは思うけど、それしか感じないのだから仕方がない。そしてこれから言うことは山嵜を傷つけてしまうんじゃないかとも思ったけど、伝えてあげた方が知らないよりはいいかと、山嵜を見上げる。
「よく読み間違えられるし、むしろちゃんと認識してるのは先生くらいだと思うけど、俺の名前、『かんざき かずき』じゃないんだ。『こうさき いっき』って読むんだ」
 幼い頃から色んな人に間違えられてた。多分、ここらから俺の「どうでもいい」癖は片鱗を見せ始めていた。漢字を使うようになった中学あたりからは「かんざき かずき」が何故か定着してた。多分嫌がらせの一環だったんだろうけど、どうでもよく思っていた俺は特に訂正をしなかった。名前を呼ばれること自体少なかったし。随分捻くれてしまったけど、誰に迷惑をかけるわけでもないだろうと気にしないでいた。
 山嵜にも何でもないことのように告げたけど…なんでこいつは、瞳に溜めていた涙を流しているのだろうか。
「なんで泣くんだよ」
 美形の流す涙は絵になるな、なんて一瞬考えてしまい、そしてほとんど無意識に手を伸ばして流れる涙を掬っていた。でも次から次へと流れてくるから、拭うのはすぐ諦めた。ぼーっと見つめていると山嵜は俺の肩口に顔を埋めてきた。
「ごめんなさい…ごめんねぇ…」
か弱い声が耳を擽った。
「なんで謝るんだ」
「好きなんだ、好きなのに、好きな人の名前ちゃんと呼んでなかった…それに、俺は罰ゲームなんて思ってなかったけど、結果的には罰ゲームで告白したぁ…」
「別に…気にしてない。慣れてる。山嵜のグループにいたやつ、同じ中学のやつだから俺が罰ゲームに最適だってわかってたんだろう」
「待って…なにそれ…」
 なにそれと言われても。面倒だったが、顔を上げた山嵜が涙でぐちゃぐちゃの顔で「言って」と圧をかけてきたから中学時代の話を掻い摘んで話した。そしたら更に泣くもんだから、さすがの俺もこんなに泣かれるとめんどくささを通り越して困惑する。それからずっと「ごめんねぇ」と繰り返し、縋るようにまた抱きしめてくるからどうしたらいいのか分からない。
 気にしていないのは本当で、今までのことだって特に悲しいとは思わなくなってた。でもこんなに全身で申し訳なさを訴えられると、胸が少しだけざわざわする。こいつは、本当に俺なんかのことを想ってこんなになっているのか。なんとも言えない気持ち。でも、これ以上涙を流してほしくないとは思ってしまった。ずっとだらんとしていた腕を持ちあげ、肩口に埋まる頭をそっと撫でてみた。一瞬びくっとなったけど、すぐに更に力を入れて俺を抱きしめてきた。腕は疲れるけれど、とりあえず早く泣き止めと、染めているはずなのにあまり傷んでいない、柔らかな髪をひたすら撫で続けた。
 

* * *


 辺りはすっかり薄暗くなり、下校時刻も迫ってきていた。それだけの長い時間、男同士で抱き合っていたのだと思うと、変な光景だったなと呆れてしまった。
 山嵜はまだ鼻を啜っているけれど、泣き止みはしたのでとりあえず肩口から引きはがした。カーディガンがたくさんの涙でびちょびちょ。まぁ仕方ないと受け止めながら、真っ赤になってしまった山嵜の目元にそっと手を伸ばした。でもその手は、目的地に届く前に山嵜の少し冷たい手に捕まった。そのまま両手で握り込まれる。それはまるで、俺に懺悔をしているようにも見えた。山嵜にとってはその通りだったのかもしれないけれど。
「こうさき、いっき、君」
 久々に呼ばれた正しいフルネーム。君付けなんてらしくないなと思いながらも、「ん」と返事をしていた。
「今まで、名前を間違えていて、ごめんなさい。罰ゲームで告白して、ごめんなさい」
「別に、気にしてな…」
「俺は気にする。だって大好きな人を傷つけてたんだから…」
 別に傷ついてないと言おうとしたけど、泣き腫らした目でもしっかりと見つめてくる山嵜に口を挟むことは出来なかった。
「俺、調子良いし、自分のことばっかりだったけど、これからはちゃんと一稀のこと第一に考える。だから、神崎一稀くん、俺ともう一度、一から恋人になってください」
 間延びした告白じゃなくて、最初のより真剣みを帯びた告白。山嵜の本気が伝わってくる。伝わってくるからこそ、俺も、真摯に答えなきゃいけないんだろうと思った。
「俺は、恋愛とか、よくわからない」
「うん…」
 俺の言葉を、山嵜はちゃんと受け止めてくれる。
「正直、好きだと言われてもめんどうだと思ってしまう」
 更に小さな声で「うん…」と山嵜は頷いた。
「俺は、捻くれてるし、めんどくさがりだし、キラキラした山嵜の隣にはふさわしくないと思う」
「そんなこと…っ」
「でも、山嵜には、久々に、なんか感情を揺さぶられた」
「え…?」
 最後まで聞けと山嵜の言葉を遮ると、ぽかんと間抜け面をした。その表情を、少しだけ可愛いと感じてしまった。本当に、こんな感情は久々な気がする。
「本当、自分でも俺はめんどくさいやつだと思ってる。恋とかはよくわかんないし。でも、そんな奴でもいいなら、もう少しだけ山嵜の傍にいてみたい」
 なんて我儘な言葉だろう。自分でも呆れてしまうけど、山嵜はどう思っただろうか。未だアホ面をしている山嵜をじっと見つめていれば、止まっていたはずの涙がまた一筋零れては、どれだけ流せば気が済むんだというくらいまた溢れ始めた。
 「おい」とまた目元を拭おうとしかけたら、それより先に力強く抱きしめられた。今までの比ではない力を加えられ、勘弁しろと言いかけたところでぐずぐずと情けない声が耳に届く。
「少しなんかじゃなくて、ずっと傍にいてぇ…っ!!」
 それからずっと「大好き」だの「ごめんね」など要領を得ない発言を繰り返しては俺の正しい名前も連呼している。
 高校生にもなってこんなに人前で泣けるのものなのかと呆れながらも、それほど想われているのかと思うと感慨深い。本当に今までになく心を揺さぶられて、慣れない感覚に戸惑ってしまうけれど、ほんのりと温かくなった心は心地よい気がする。それを伝えたら、こいつはきっと喜んでくれるのではないかと思ってしまった。
 どうなるか分からない、俺とこいつの関係だけれど、少しずつ前に進んでいけたら良いかと、泣き止まないこいつをそっと抱き返してみた。
 山嵜が見たがっていた、曰く優しげな表情をこの時俺がしていたなんて、山嵜も俺も知らなかった。いつか自然と山嵜にそんな表情を見せられるようになったら良いなと、柄にもなく思ってしまったのだ。



『ココロが動く、その瞬間(とき)まで』

(山嵜浩太:やまざき こうた×神崎一稀:こうさき いっき)
 

end.

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