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花売りとなにか

短編小説
童話・絵本
オリジナル
2017年09月17日 00:28 公開
1ページ(1746文字)
完結 | しおり数 0


maybePURIN

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緑や赤で華やかに飾り付けられ、暖かな明かりが灯る街に、墨をかけたように真っ黒な空から雪がふわふわと降り続けている。

花売りの幼子はそんな空を仰ぐと、ふう、とため息をついた。小さな口から吐き出された白い息が、天へとのぼっていく。
今夜花を買ってくれた客の数は、10にも満たないほどだった。
大きな数を知らない幼い花売りにも簡単に計算できるほど安価な花。
でも安いならすべて売れるというわけではないことは、幼い花売りにも分かっていた。

腕にかけた籠の中を覗いてみる。
籠いっぱいに残った花はみんな萎れていた。もう売り物にはならない。今日はいつも以上に売れなかった。

花売りはうなだれて、人通りの多い場所から離れた。
人影も見えない、雪の積もった暗い道をうつむき加減にとぼとぼと歩きだす。

30歩ほど歩いた頃だっただろうか。背後から妙な音が聞こえてきた。

しゃくしゃく しゃくしゃく しゃくしゃく

誰かが雪を踏みしめている音だということには、すぐに気付いた。
でも、音が小さすぎる気がする。子どもでももう少し強い足音が出るものではないだろうか。
それに、1人分じゃなくて4人分くらいの足音にも聞こえる。

一瞬、強盗かと身を固くしたが、見るからにたいした金を持っていない自分をわざわざ襲う強盗などいるはずもない。
じゃあなんなのか。

一歩ごとに恐怖よりも好奇心が強くなっていった。
そうだ。もしも、もしも怪しい人だったら全力で走って逃げればいい。足にはそれなりに自信があるし。
ついに意を決して、振り返った。

10数歩ほど離れたところに、2匹の生き物がいた。2匹とも同じ生物らしく、そっくりな外見だった。
花売りは名前を思い出せなかったが、よく街中で散歩しているのを見かける、毛の短い耳の立った小柄な犬に似ていた。

決定的に違うのは色だった。街中で見かけるその犬種の毛色はだいたいみんな白や黒だった。
だが、今目の前にいる生き物は目がチカチカするほどのどぎつい蛍光イエローの毛をしていた。ぼんやりと黄色い光を放っていたから、暗い中でも彼等だけが浮き上がって見えた。
えらく痩せていて、腹と背中がくっつきそうだった。
地面に届きそうなくらいに長い桃色の舌と透明なよだれをぱっくり開いた口から垂らしていた。
よだれは雪の上に落ちると、湯気を放ちながらじわじわと落ちた部分の雪を溶かしていった。
耳を凝らすとはあはあはあはあと荒い息遣いが聞こえた。

変な生き物だとは思ったが、不思議と不気味だとは感じなかった。襲われるとも思わなかった。

お腹がすいているのかもしれない、と思った。
でも、こっちも食べ物は持ち合わせていない。

ああ、そうだ。
思い立って籠の中にたくさん余った萎れた花のうちの1本を生き物たちの方に放ってみた。
1匹が飛びついた。
まず花弁を茎から一気に食いちぎって飲み込み、それから茎のはしっこを咥え、ゆっくり、ゆっくりと咀嚼し始める。はっ、はっ、はっという荒い息遣いとともに。
こうやって食べるのかと観察していたら、もう1匹が物欲しそうな顔でこちらを見ているのに気付いた。そちらにも花を1本投げてやった。
もう1匹も、待ってましたとばかりに先程の生き物と同様の食べ方で花を食べ始めた。

花売りは、そんな2匹の様子をしゃがんでなんとなく見つめていたが、寒さが増してきたのでそろそろ家に急ごうと思った。
生き物達に背を向け、早足で歩き出す。
が、10歩行ったか行かないかというところでなんとなく気になって振り向いた。

じっ

花を食べ終えた2匹は、まだはあはあ言いながらも、そんな音がしそうなくらい強いまなざしをこちらに向けていた。

花売りは、今度は花を2本まとめて2匹に投げた。
2匹は花に食らいついた。
それを確認し、花売りは今度こそ家への道を急いだ。

少し行ったところで、再び背後に視線を感じた。
前を向いたまま、でも歩く速度はほんの少し緩めて2本の花を後ろへ放った。食べ始める音が耳に届き、少し安堵して歩く早さを戻す。
それを何度も繰り返す。

先ほどよりかは、寒さが和らいだ気がした。

幸い、萎れた花はまだ手元にたくさんあるし、家までまだ遠い。

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