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無題

短編小説
ファンタジー
BL オリジナル
2017年10月05日 00:20 公開
1ページ(9996文字)
完結 | しおり数 0


空原きいち

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今回も文字数の関係で《終》が書けませんでした


突発SSです
題名が決まったら変えるかもしれませんが無題です、すみません

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薄い雲を貼り付けた青い空。冷たい風に乗ってどこからか漂う金木犀の香り。
ああ、秋だ。天高く馬肥える秋だ。朝夕の冷え込みも厳しく、起きるのも辛くなって来た秋だ。
『奥山に もみぢ踏みわけ 鳴く鹿の 声きく時ぞ 秋は悲しき』そう詠ったのは猿丸太夫とかいう人だ。情緒あり味わい深い一首に昔の人も感じ入る所があるのだろう。
うん、良い季節だ。食べ物も美味しいし何かこう頭が良くなるようなそんな気がする。当社比。

「ぅぅっ」

そう、だからこの紅い髪のイケメンさんがボロボロになって倒れているのも秋だから。

「秋関係ねぇ」

現実逃避は出来ないぞ。
齢二十二歳。失われた二十年。超就職氷河期。募集しているのなら雇えよといいたくなる企業面接は既に四十を越え、内定はひとつもなく貴殿をお祈りするという返事ばかりの封筒に祈るな雇えと貴社を燃やしたくなる日々。友達は次々と内定をもらい焦りもあるけれど、四十ならまだ良い百を超えても見付からない人もいると自分を鼓舞していたけれど、もう疲れた。
どうでも良くなってリクルートスーツで川で水遊びをしていた俺は、ススキの茂みの中に紅いのを見付けて近付いたのだ。そしたら着物を着たボロボロの兄さんが倒れていたと。しかもイケメンと来た。

「あのぉ、大丈夫ですか?」

イケメンでも不審者相手に警戒をしつつ声をかけると、お兄さんは呻いてこちらを見た。紅い前髪の下の顔は泥と血だからけなのに息を飲む程、整っていて。

「……ず……」

「え?」

「水……」

水?水ならわんさか流れているけど。でも確かこの川は上流に施設があってそこからも何か流れていたような話を聞いた。生活排水?汚水?汚水は流石に流さないよな。というかそこで遊んでいた俺はもしかしなくても汚いのではないだろうか。
急にげんなりした俺は、川岸に投げ捨てた鞄を拾って中からペットボトルの水を取り出す。飲みかけだけど良いか。

「どうぞ」

じゃぶじゃぶと飛沫をあげながらお兄さんの所に戻ってそれを差し出す。キャップを外すあたり優しいな。
お兄さんはそれを見て、俺を見て、首を振る。

「はぁ?いらないの?水が欲しいっていったのお兄さんじゃん」

溜息を吐いた俺は、喉の渇きを覚えて一口飲む。もうこうなったら救急車を呼ぶか。警察でも良いかな。
そう思っていた時、俺はススキの中から伸びて来た手に腕を掴まれて引き倒された。悲鳴をあげて倒れた俺は痛みに呻き――陰った視界に広がる顔と塞がれた唇に目を見開く。
息がかかる程に近付いた顔はもう密着していて、瞬きをしても目の前にあるお兄さんの顔は離れない。
……あれ?俺の口は自由に息を吸えない物だったっけ?
ん?んん?俺、まさかキスされている?誰に?そんなの目の前のお兄さんしかいないのだけど。

「んんんん!?」

キスされている!?見ず知らずの、しかも不審者に!?イケメンだけど不審者にキスをされている!!?
抵抗して肩を叩くけれど、その手を掴まれて地面に押し付けられる。ああ、肩ではなくて頬を殴るべきだったか!!足はお兄さんが押さえ付けているせいで動かせないし。
顔を背けたけど、器用に片手で俺の手を押さえ付けたお兄さんに顎を掴まれて引き戻されてしまう。

「水をくれ」

「水なら……ぁ」

さっきあげようとしたじゃんか!そう続けようとしたけれど、口を開いた隙に再びキスをされて、しかも今度は舌まで捩じ込まれて頭が真っ白になった。
口内を舐め回し、歯列をなぞり、引っ込む舌を絡め取られる。啜られ、舐られ、最初は嫌悪感と恐怖で抵抗していた俺は段々とその力を失った。
耳を覆いたくなる粘着質な水音とお互いの荒い息、鼻にかけた声が羞恥心を増す。
お兄さんが手を離したことにも気付かずに、俺はされるがまま貪り食われていた。
熱い、けれどどこか甘い唾液が入って来て、口の中に留めるのも堪らず飲み込めば、腹の底が熱くなる。
ああ、どうしたことだろう。それなりに経験をしたこともあるけれど、こんなに熱くて、気持ちが良いのも初めてで。
不意にお兄さんが顔を離した。何時の間にか空は茜色に染まり、赤とんぼが飛んでいる。それを背にしたお兄さんはお月様のような黄金色の瞳を細めた。互いの唇からは名残を惜しむように銀の糸が引いて切れる。

「……ぁ…はぁ……はぁ……っ」

舐られた舌が痺れる。唇も痛い。けど、お兄さんのキスがもっと欲しい。
無意識に手を伸ばし、頬に触れる。そのまま指先でお兄さんの形の良い唇に触れた俺は。

「あ――っ!」

甲高い鳴き声に我に返りお兄さんを突き飛ばしていた。
俺の手を受け入れて気持ちが良さそうに目を細めていたお兄さんはいとも簡単に吹っ飛び、川に水柱をあげて倒れる。
俺は乱れたシャツを整えて起き上がると、急いでその場を離れようとして。

「まぁぁぁぁ!」

泣きじゃくる裸の赤ん坊に目を瞠った。
白い肌に丸々とした体。真っ赤になって泣きじゃくる赤ん坊の髪は柔らかな紅い猫毛。涙を湛える瞳は揺れる琥珀色。どう見てもお兄さんの子供だろう。いや、どうして裸なの!?
固まってそれを見ていた俺は、水を滴らせて立ち上がったお兄さんに悲鳴を上げる。
殺される?俺、この人を突き飛ばした!殺される!?
がくがくと震えて涙を浮かべる俺の後ろではぎゃんぎゃんと泣きじゃくる赤ん坊。どうしたら良いんだ、こんな場所で就活生とずぶ濡れの和装イケメンと裸の赤ん坊って、通報されても仕方がない。無関係ですといって逃れられるだろうか。この騒ぎを聞いて就活に関わったらどうしてくれよう。

「ご、ごめんなさい、着物のクリーニング代は出しますから許して……っ」

近付いて来たお兄さんは濡れた前髪を掻き上げ、手を伸ばして来る。
捕まる!そう思った俺はしかし、その手が後ろに伸びて赤ん坊を抱き上げたことに無駄に涙をひとつ零した目を瞬かせた。
お兄さんは猫の子を摘むように赤ん坊を持つ。そんな持ち方だと、当然のことながら赤ん坊は悲鳴のように泣き叫んだ。
土手では犬の散歩をさせている人や部活帰りの高校生など人が行き交っていて、何事かとこちらを見ている。
俺は慌ててお兄さんから赤ん坊をひったくった。

「そんな持ち方は駄目ですよ!」

首はすわっている。すわってなかったら一大事だ。
裸で寒いだろうと脱ぎ捨てたスーツで包んであやす。見よう見まねだけど。
ぎゃあぎゃあと泣いていた赤ん坊は段々と落ち着いて来た。ほっとひとつ息を吐き、隣に座っているお兄さんを睨む。

「首がすわっているってことは三ヶ月は過ぎているんですよね。でもあんな持ち方は駄目ですよ。児童虐待で捕まっても言い訳出来ないし、そもそもどうして裸なんですか。秋は日中と朝夕の寒暖差が激しくて風邪をひくでしょう。大人の風邪と赤ん坊の風邪を一緒にしたらいけませんよ。奥さんは?」

こんな人に大事な赤ん坊を任せるなんて!幸いにも警察を呼ばれた様子はなく、薄暗くなる世界の中で赤ん坊が冷えないようにきちんと抱え込む。
小さな小さな手がスーツを掴み、親指を咥えてすんすんと鼻を鳴らす姿は愛らしく、お腹が空いてやしないかと心配になる。

「妻はいない」

小さく呟かれた言葉に、俺は面食らう。
イケメンと赤ん坊を置いて逃げてしまったのだろうか。それとも亡くなったのだろうか。どちらにせよ、聞き出すなんて無粋なことは出来ない。
俺はお兄さんに赤ん坊を渡す。勿論、抱き方を教えて。

「お腹が空いているかもしれないからミルクとか用意しないと」

「乳が出るのか」

「出ねぇし!いや、出ませんので!この子が着ていた物は?」

「ない」

「ない?家は」

「ない」

「ない!?」

イケメンなのに!?赤ん坊がいるのに!?火事で焼けたか、追い出されたか……。
お兄さんは赤ん坊を見つめながら、「孵ったばかりだ」と零す。

「かえったばかり?」

「そう。孵ったばかりだ」

帰った?返った?変えった……孵った?日本語って難しい。
俺は周りを見回す。お兄さんの私物もこの赤ん坊の物も何もない。

「……そもそも、どうしてそんなに傷だらけなんですか?」

危ないご職業の人?人にはいえないご職業の人?ヤのつくご職業の人!?
脂汗を掻いた俺に、お兄さんは一瞥をくれることもなく優しく赤ん坊を揺すった。

「襲われた」

「お、襲われた……」

まさか本当に危ない人!?凄い勢いで首を回して辺りを確認するけれど、襲撃をしそうな人影はない。ススキの茂みの中だけど開けた場所だし、周りの高い建物といったら車が行き交う橋しかない。そこにも襲撃をしそうな人はいない。
ということは今は大丈夫なのか……?いや、油断はならないぞ!
警戒をする俺に、お兄さんは「雀」と小さく呟く。

「雀」

襲撃犯の渾名とか隠語だろうか。ごくりと唾を飲み込んだ俺に。

「雀に襲われて……撒き餌も確保出来ず……うっ」

肩を震わせたお兄さんは赤ん坊に顔を埋めて嗚咽を漏らした。ん?

「……ぐす……これでも卵は守ろうとしたのに、天は俺を見捨てて……この子が孵る前に戻ろうとしたのだが腹が減って……路傍で鳩に餌やりをしていた翁に擬態して近付いたが襲われて……!畑に行けば雀の猛攻に遭い、もう死ぬしかないのかと……うぅっ」

……この人はやばい人なのかもしれないな。赤ん坊には悪いけれど、俺は黙って立ち上がるとその場を去ろうとする。
危ない人には近付いたらいけない。いや、そもそも出会い頭にベロチューをして来る人に普通の人はいない。
さっさと逃げようとしたけれど、お兄さんは目にも止まらぬ速さで俺の手を掴んだ。

「は、離せ変人!」

「このまま逃すと思ったか」

「俺を巻き込むな!!」

「ぉぎゃあああああ」

ああ、ごめんねごめんねごめんね!大きな声を出したからびっくりしてしまったね!!
慌ててあやした俺は、顔を覆って崩れ落ちた。くそ、こんなことなら知らない人を助けなければ良かった!!
お兄さんは赤ん坊に「可哀想にな」とか「捨てられたくないな」とかいって頬を摺り寄せている。何が可哀想だこんちくしょうが。
俺は座り直すと、お兄さんを睨む。

「で、鳥に負けたお兄さん」

「うぅ」

落ち込んだざまぁみろ。

「どこに行こうとしたんですか」

というか、イケメンが鳩に混じって撒き餌を食べるとか畑で雀に攻撃をされるとかどういう光景だ。動画サイトにでも載せるのか。
お兄さんは鼻を啜った。
そういえば、もう夜になるのに不思議と寒くはないし明るく感じる。どうしてだろうと空を見て、街灯の灯る橋を見て、それからお兄さんを見る。どうしてお兄さんはこんなにはっきりと見えるのだろう?うん?仄かに光っている?んん!?

「え、お兄さん、LEDでも纏っているの?」

「えるえーで?」

おい、まじかこの人。
首を傾げてハテナマークを飛ばすお兄さんに、俺は体を触って仕掛けを探すけれどそれはない。というかこの人、熱いな。熱でもあるのか?
困惑していると、お兄さんは「ああ」と気が付いたのかひとつ頷いた。それから。

「俺は朱雀なんだ」

「すざく?すざく……あの朱雀?」

「どの朱雀かは知らないが朱雀だ。ほら」

そういって、俺に赤ん坊を預けると瞬く間に大きな紅い鳥になった。
孔雀のような羽に不思議な光沢を放つ羽毛。極彩色の翼。立派な鶏冠。象より大きな体。
直ぐに光を放って元の姿に戻ったお兄さんは「ね」といって赤ん坊を抱き寄せた。

「でも俺は出来損ないの朱雀で、これではいけないと天から代替わりの卵を孵すようにいわれたんだ。でも悪い奴に下界に投げ捨てられてしまって、急いで取りに行ったけれどご覧の有様だ。……だけど無事に孵ってくれて良かった」

目の前で人が大きな鳥になった。

「直ぐに天に戻るだけの力がないのは、やはり俺が出来損ないだからだろうなぁ」

目のまえで、人が、おおきな鳥になった……。

「でもお前に会えて良かった。不思議だ、陰の気が強いのかな俺は陽の気が強いのだけど混じり合って気持ちが良かった」

めのまえで、ひとが、おおきな、とりになった……。

「それにこの子は生まれて初めてお前を見た!鳥は卵から孵って一番最初に目にした物を親と思うんだ!」

ひとが、とりに……。

「この子はお前を親だと認識した、暫くは世話にならなくてはな!」

ひと、とり……。
暗転する視界の中、お兄さんが憎たらしい程に晴れやかな笑顔を浮かべていて。
誰が誰の世話をしろだって?そう問いただす間もなく、俺は気を失ったのだった。


この世界、この国には八百万の神様がおわす。
米粒ひとつ石ころひとつにも神様が宿るといわれている国で、一番偉いのは太陽の神天照大神という女神だ。その女神が治めている神様の国高天原(たかまがはら)には名だたる神から名もない神がいて、それらの神様を天津神(あまつかみ)という。その逆に大国主など、天孫降臨以前からこの国土を治めていたとされる土着の神(地神)を国津神(くにつかみ)という。
朱雀とは四神の一柱で、南方を守護する霊獣だ。日本のかつての都、京都ではこの四神が遷都する際に関わったと授業でも習った。詳しくは知らないけれど。
と、まぁ、どちらにせよそれは歴史の話で神話や伝承だ。目の前に現れるなんて思ってもない。筈だった。

「んぁー」

見事な寝返りを決めた赤ん坊はまろい頬を赤くして自慢げにこちらを見る。くりんとした目にとさかのように立った髪。

「おお、上手上手」

拍手をする朱雀と名乗ったお兄さん。それを携帯端末で動画に残す。
衝撃な出会いを果たした秋の夕方。気を失った俺が次に目を覚ましたら、高級ホテルの一室に寝かされていて、これまた高級スーツを身に纏った男の人達がいた。
その人達はとても偉い神職の人だったりその関係者だったりで、普通に生きていたら俺は全く関わりのない人達だった。

『朱雀様が地上にいらっしゃったと神託は受けておりましたが、次代の朱雀様が孵られるとは』

『朱雀様にお戻り頂くだけの力はなく、次代の朱雀様も天へ還られるにはまだ早く。さすれば地で育てよとのお達しでごいます』

『そこで貴方様に育ての親となって頂くこととなりました』

『神やそれを取り巻く問題は知らずに結構、貴方は時が来るまで朱雀様方のお世話をすれば良いのです』

『報酬は出します。勿論、時が過ぎた後もそれは出します。まずは月給100万で』

『社会保障に終身雇用ということで如何でしょう』

『夏や冬にはボーナス、年に一度は昇給も』

『退職金はこれで』

差し出された小切手には数字は書いていない。言い値を出そうということか。
怪しい。危ない。けれど、内定もなく卒業後の進路も決まっていない俺には面倒を見るだけでこんなにお金を貰えるのならとふたつ返事で受けてしまった。だって月給100万な上にボーナスも昇給もあると来た。しかもしかも社会保障や終身雇用だ。退職金なんて言い値だ。こんなうまい話は詐欺しかない。
俺は契約書にサインをし、そこである程度の知識も身に付けさせられた。
お兄さんと赤ん坊は朱雀だと。それを世間には隠しながらも、お兄さんの力が回復するか赤ん坊が成長して無事に高天原に還る日まで面倒を見ることを誓わされる。
それからそれから、神職の人達には毎日動画を撮って送ること。一週間に一度は抜き打ちで監査を入れること。コンシェルジュのいる高級マンションに移り住むこと(別に今の場所でも良いけれど神域になってしまって新たな霊地になるといわれた(良く分からないけどやばいのだろう))。まぁ、それさえ飲めば何をしても良いとのことだ。何て楽なお仕事。そう、思っていたんだけどなぁ。

「ぶふぅ」

不思議な声を上げた赤ん坊……声というか音だな……が床を叩くと、途端に花が咲き誇る。

「ああ、駄目駄目!」

赤ん坊は不思議な力を持っている。神様パワーか。そのコントロールが出来ないから、急に花が咲いたり炎が現れたり鳥が窓に突っ込んで来たりするのだ。
お兄さんは徐々に力の使い方を覚えるというけれど、神様の国なら問題のないことでもここでは人間が営みを行う世界。下手なことをすれば途端に騒がれる。このマンションは神職の人達の息がかかっているからって、鳥が突っ込み犬猫が騒ぎ庭の花が咲き誇り不思議な植物が一瞬で生えると不気味がられているのだ。マンションの価値が下落しても仕方がないけれど、そこは人間様の不思議な力、何とか持ち堪えている。まぁ、見物客はどうしようもないけれど。
慌てて赤ん坊を抱っこする。

「駄目。メッ!」

「駄目という言葉は理解をしていないからなぁ」

うんうんと頷いたお兄さんに嘆息する。
すっかり傷も癒えたお兄さんは残念なイケメンだ。テレビを見ては泣き、ベランダに現れた雀には警戒をしている。雀に至っては毛を膨らませただけでガタガタと震えてへっぴり腰になっているけど。

「人間の世界で住むからには普通でいなくちゃいけないんです」

「何故?」

「何故って、騒がれるし、こんな可愛い子が見世物にされたら可哀想でしょう」

「それもそうだな」

それに、出る杭は打たれる。特にこの国では皆と同じであることが求められる。目立てば立ち直れなくなるまで叩かれてしまうのだ。そんな目立ち方はしたらいけない。
赤ん坊は俺を見てきゃらきゃらと笑う。ああ、可愛い。神獣だけど。人間じゃないけれど可愛い。

「本当に卵から孵ったんですよね」

「うん。これくらいの卵」

お兄さんが両手を差し出す。何もないけれど包むように置かれた手に、大体、野球ボールくらいとあたりをつけた。

「そういえば、他にも四神っているでしょう?」

「青龍、白虎、玄武か」

「他の神獣も卵から孵るんですか?」

「うん。四神は四柱揃ってひとつの存在だ。俺がいなくなっても、この子がいれば他も安心するだろうなぁ」

「……他の四神と仲が悪いんですか?」

「いいや?青龍とは砂場で遊ぶ仲だし、白虎とは良く賭け事をするし、玄武とは昼寝をすることが多いからなぁ」

待て待て待て。砂場で遊ぶ?賭け事は置いておいて昼寝仲間?四神ってどんな生活を送っているんだ?
お兄さんは懐かしいなぁといいながら目を細めた。

「そういう遊びをこの子にも教えないとな」

「賭け事は駄目!」

こんな可愛い子がギャンブラーになったら俺は悲しい!断固反対!
お兄さんはきょとんと瞬きをした後に晴れやかな笑顔で「お母さんがいうなら」という。誰がお母さんだどたまかち割るぞ。
お兄さんは他の神獣とも仲は良いけれど生まれながらに出来損ないで、力も弱く、飛ぶのも苦手なのだそうだ。それを由々しく思った天の神様達が次代の朱雀を求め、卵が現れたから温めていた。孵っても直ぐに代替わりではないそうだ。良く分からない神様事情。そのまま温めていたけれど、悪い奴に卵を奪われて下界に捨てられたので、慌てて取りに行ったけれど力を使い果たし、鳩に擬態して餌を求めたけれど鳩の逆襲に遭い、ならばと畑に行けば雀に襲われてボロボロになってしまったそうだ。それで今に至る。
あまりにも哀れに思ったのか、それとも神獣が子供を連れて人間界に留まることになったことの問題性か、絶対に後者だけど天の神様達は神職の人達に『一時保護せよ』と神託を下し、気絶した俺と赤ん坊を抱えたお兄さんを見付けて事情を話し、赤ん坊の刷り込みもあるのでこの人間に協力させよう見たところ就活生だしうまい餌を出汁にしようとしたのだとか。まんまと乗っかったけど。
そんなこんなでお兄さんと赤ん坊(どちらとも朱雀という神獣)との生活。順調に進んでいるかといえばそうでもなく。

「ね、そろそろお腹空いた」

あいむはんぐりー!なんて笑顔でいったお兄さんが俺の唇に啄むようなキスをする。

「何でキスなんですか」

「だって、地上の物はくっそ不味くて毒になるけれど、お前を介すると仙桃のように甘美で清らかで、この上ないご馳走になるんだ」

「何だそりゃ」

神獣様はどうも地上の物が合わないらしく、俺が食べたり飲んだりした物しか受け付けない。しかもキスで取り込むというのだ。
お兄さんは端正な顔に笑みを浮かべると、俺の頬に手を添えて甘やかなキスをする。それを受け入れて、俺は目を閉じた。
優しく倒され、右手を取られる。長い指が俺の指に絡み、白く毛足の長いラッグに縫い付けられる。俺はもう片方の手でおむつのされた赤ん坊のお尻を撫でながら、啄むキスから舌が絡む濃厚なキスに変わるのを待った。
お兄さんのキスは気持ちが良い。不服だけど。俺も男だしお兄さんも男だし、決して恋愛対象が同性という訳ではないけれど。

「ん、ふぅ…っ」

蕩けるような甘くて、情熱的なキス。これは栄養補給であり他意はない。
けれど、お兄さんが満足して離れると物足りなさを感じるし、もっとして欲しいと強請ってしまいそうになる。
お兄さんは口の端から垂れた唾液を親指で拭うと、美味しそうに舐めた。

「ん、ごちそうさま」

「……はぁ……他の方法を探したい……」

「何で?気持ちが良かったでしょう?」

「――!デリカシーがないんじゃないですか!?」

「でりかしー」

教えてやるか、辞書でもひけ!
お兄さんを押しのける。赤ん坊を抱え直して唇を拭いながら、俺はお兄さんに背を向けた。赤くなった顔を見られたくない一心で。
お兄さんは気にしてないのか、ごろんと横になると大きな欠伸をする。

「眠くなって来たな。お昼寝でもしようよ、しえすた!」

「勝手にしてください。今から赤ちゃんのミルクの時間なんで」

「んー」

「……そういえば」

赤ん坊をラッグに寝かせた俺は、今にも寝そうなお兄さんを見る。

「同じ朱雀って名前で良いんですか?」

「ん?あ、そういえば」

そもそも朱雀って名前なんだろうか。いや、神様なのだからそれ以外に名前は必要だろうか。でも、同じ朱雀だとこんがらがるし。勝手に名付けて良いものか。
お兄さんは寝返りを打って、赤ん坊を見る。

「もうチビで良いんじゃないかな」

「もっと真剣に」

「えー。というか、俺だって君の名前を知らないのに」

「そうでしたっけ」

「そうですぅ」

そういえばそれもそうかも?契約書にサインをした時はお兄さんはいなかったし、衝撃の出会いから今日まで名乗る機会もなかったし。
名前も知らない人にキスをするお兄さんもどうかとは思うけど。

「俺は和歌っていいます。和歌の和歌」

「綺麗な名前だね。俺のことは好きに呼んで良いし、この子も好きに呼んで良いよ」

「だからそれで困っているのに」

からからと笑ったお兄さんは、赤ん坊のお腹を撫でる。

「お兄さんは朱雀でしょう?それ以外に名前って」

「この子は名前が付けられるのに俺にないのは気に食わない」

なんだそれは、子供か。
嘆息して、俺は赤ん坊の為にミルクを用意する。それまで相手をしてくれているお兄さんは、本物の人間にしか見えない。あれでも象より大きい鳥の神様なんだよなぁ。
ミルクを持って戻り、赤ん坊を抱える。神職の人が用意したミルクはちょっとお高めだ。まさか月給百万から家賃やら光熱費やら諸々諸費を出すことになろうとは契約を交わした時の自分にいってやりたい。うまい話には裏があるんだぞって。手元には大して残らないんだぞって。

「あ、(あか)ってどうでしょう。朱雀の字にもあるし」

「じゃあ、俺は?」

「雀」

「和歌の意地悪、何が雀だ」

嘆き悲しむお兄さんに笑う。
んくんくと元気にミルクを飲みきった赤ん坊を抱えて、背中をトントン。げっぷが出たら、寝かせる。元気に動いていたけれど、少しすると可愛らしい欠伸をして重たげに瞼を閉じる。よく寝てよく食べて早く大きくおなり。それから立派な神様になるんだよ……。
何時の間にか寝こけているお兄さんに膝かけをかけて、ふたり並んだ寝姿を写真に撮ってさっきの動画と共に送る。その先で神獣親子ブロマイドが作られているとも知らずに。
さて、今のうちに買い物に行こう。それから掃除をして。ああ、でも少し眠いかも。お兄さんへの栄養補給はとても疲れるから。
欠伸をして横になり、目を閉じる。外はすっかり冬に向かっていた。

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