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かくれんぼと北風

短編小説
ファンタジー
オリジナル
2017年11月17日 17:22 公開
1ページ(2060文字)
完結 | しおり数 0

少し不思議

ふしきの

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臆することなかれ。
いつかすべてのことがつながる日が来る。
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「ボージョレ・ヌーボー」
「ボージョレ!」
掛け声と掛け合いと何年に一度が何百年に一度が何度来たのか来るのかわからないけれど、初物大好きな私たちは迎賓館という名前の響きの大ホールで大酒飲んだわけです。
私たちは…は、言い過ぎ。
私は、そりゃ気合を入れたよ。
産毛の処理から、Yラインも永久脱毛。背中の歪みを直したり、デコルテ周りのラインをリンパマッサージや頭皮マッサージまで。
「だって、寒波来るって言ってたし」
を無視し、
デコルテ晒して胸と股間にわずかに隠れる模様を施したシースルーのロングドレスと、いつもの赤いピンヒール。
何も入りそうにない見せるだけのバックを持ち堂々と入ったわ。

でも、それだけ。
いつもそれだけ。
会場入りして逃げるように帰る私。

気がついたら、『西日本国際会議場』って文字が見えている。
ああ、泣きながら立川まで戻ったのかしら。クロークに預けたスタジオキャリートートを返してもらうのさえ忘れていた。そう、お金もカードも、コートもマフラー下着でさえ…脱ぎたてのやつが入っているあれをすべて忘れて。ん、何だかよくわからないわ。
高い天井。
真ん中の踊り場。
人っ子一人いない。
無人。
遠くで、ダンスをしているような音がとぎれとぎれに聞こえたり、とぎれとぎれに海風のぬるい臭いが漂ったり。
だけど、無人。
寒風寒波なにそれ程度には酔ってる。

大きな清掃車が入ってきていた。
若いブルーカラーの兄ちゃんは、イヤフォンで何か聞きながらハンドルを回す。まるで踊るように。歌うように。
私が大声で泣き出したいと言うのに。
本当に泣き出しても、通り過ぎてしまった。
やっぱり人って冷たい。

イミテーションパールは「それ、羊毛コットンの失敗作?」と流行りを流行りの嫌味で潰され。「赤い絨毯はあなたの先から出てるのかしら?」なんて零れそうな程の笑い声でわざとらしく赤ワインをスカートにこぼそうとされ。「花は所詮花なのだから年増はそこら辺でヘラヘラしておけ」とわざと言われたり。ギョーカイってそういうものだよね。タダ酒飲みに来てる私が言うのもなんだけど。
知ってる?今日の主催は『ピンクリボン運動』の一環もあるんだっての。それが追いやられてなんとやらかしら。
一人だけ太った男の人が、「こんばんわ」と声をかけてくれた。
私よりまつげの長い男の顔はそれだけでムッとなった。
名刺をひらりと受け取り。私は馬鹿笑いをしながら立ち去った。それだけ。
私も醜い。
そうだ、私もそこでは醜い人の一部だ。

清掃のお兄さんは、私にペンキだらけのドカジャンを着せてくれた。
私は酔っているので
「何聞いているの?」
と、とんでもないことを聞いた。
「グレン・ミラー」
とあっけらかんと答えてくれたので、また馬鹿みたいに笑って、ごめんと言った。
金髪の長髪のラーメン屋の大将のようなヘアバンドの人はニッコリとして、片耳を借してくれた。
立ち乗りの清掃車がブラシをかけながら低速で走る。
通り過ぎると水掃除した後で色が美しくなる。
グレン・ミラーの曲はそのゆったりとした速度にとてもあっていた。
でも私は「服が臭い」ってばかり言っていた。
人の汗も人の臭いも人のぬくもりももう忘れた人間になっていたのに気がつくとまた涙が出た。

私の小さなバックが馬鹿のように口が開いて中身が飛び出して散乱した。
せっかく清掃した場所に、コインや紙切れがこぼれ落ちた。
わんわん泣く私にその人は「今日だけだぞ!」と言って電照をつけてくれた。垂直に延びるイルミネーションが灯った。展示場のガラスに反射され天井まで上り詰める光を見ていた。

男の人は「ちょい電話してくるからどこもいくんじゃないよそこでまっておけよ」という。
「冷えるじゃないトイレはどうすんのよ!」
「ばーか、すぐ戻る」

その後のことは覚えていない。
ただ、「え?だって赤坂迎賓館!」
「だからしらんもんはしらんし、俺はもうすぐあがりだから」
「え・え?」
「あんたの名刺しか見つかってないし何一つないんぞ。連絡手段あんたしかね~じゃん」
「で、でも。デモジャネエエ」
「東京!じゃ、スターフライヤー乗ってこいやあ!」

目を覚ますと、あのときのきれいな睫毛をした男の人に暖かいタオルで顔を拭われ、足が痛いと騒いだ私を優しくマッサージされていた。
「汗臭い!」
彼のコートはよく見ると小さな毛玉がたくさんあった。
でもガリガリに痩せている私にもわかるぬくもりがそこにはあった。
汗ばんだ首筋の匂い。
「おっさん臭い!臭い」

『ここどこだかわかる?』
『西日本総合展示場』
『ちがうよ』
『立川?』
『違う』
その人は笑っているのか泣いているのかたまにわからない不思議な顔をした。
私は囁いた。
「夢を見たの。映画みたいなの、フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースの『トップ・ハット』のような…」
そして彼の手を握ってありがとうといった。
彼の目は私から逃げなかった。

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