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ぬいぐるみ彼氏

短編小説
ファンタジー
オリジナル
2017年11月26日 16:09 公開
1ページ(4135文字)
完結 | しおり数 0


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私の彼氏はぬいぐるみです。
何を言っているのか分からないと思いますが正直な話自分もよく分かりません。
でも、ぬいぐるみなのです。
「ただいまー……」
「おかえりなさい。ほら玄関で力尽きない。せめてリビングまで移動して下さい」
「はい……」
もふもふとした黒猫のぬいぐるみ。いわゆる靴下を履いたような、手袋をつけているような黒猫。それも四足歩行ではなくきちんと(?)二足歩行だ。
身長は私の腰くらい。その割に声は低い。青年なのだろう。多分。薄いクリーム色のエプロンを着けて、とことこ歩いて寄って来る。
「お風呂沸いてますから先にどうぞ。お弁当箱も出して下さい」
「はぁい……」
ぬいぐるみに言われるがまま動く私は端から見たら頭のおかしい人だろう。けれども彼に、クラウドに逆らう気にはなれない。
逆らったところで懇々と説教をくらうということを既に学んでいるからだ。それも反論出来ない綺麗な正論でもって私を追い詰めてくる。……何で私ぬいぐるみに言い負かされてんだろう……?
お弁当箱をクラウドに渡してお風呂に向かう。今日の入浴剤は柚子のようだ。脱衣場まで柚子の香りが漂っている。急に寒くなったもんなぁ。
「……あー……」
ちゃちゃっと体を洗って湯船に浸かる。おっさんじみた声が出たけど気にしない。どうせ誰も聞いてない。
少し熱めにしてあるお風呂はとても心地良かった。
お風呂から上がればテーブルには晩ご飯の支度。つくづく気が利くぬいぐるみだ。
そも、どうしてこんなことになったのか。それは一年程前に遡る。
あの日、何度目か覚えていないが失恋して、やけ酒を飲んで。
何歳だかの誕生日に買ってもらった黒猫のぬいぐるみ、クラウド(大好きだったマンガの王子様の名前を付けたのだ。当時私はだいぶ子供だった)に抱きつきながら泣いた。泣きじゃくった。
これがもし人間だったらもういい加減に離せと言われるくらいにはしがみついて泣いた。このぬいぐるみが地味に大きいのも要因だったと思う。寝転がって抱きつく分にはとても丁度良いサイズだったのだ。
しがみついて泣きながら、私は酔っぱらっていたのだろう。どれだけ泣いても文句を言っても表情一つ変えずじっとしている(当たり前だ。何せ彼はぬいぐるみなのだから)クラウドにこう言った。
「私もうクラウドと結婚するー……。クラウドさえいればそれで良いー……」
酔っぱらいの戯れ言。狂人の戯言。それでも神か仏かはたまた悪魔か何かがその願いを聞き入れてしまったらしい。
「本当ですね?」
と、クラウドが起き上がり喋ったのだ。
一瞬驚いたもののやはり私は相当酔っぱらっていたらしい。見かけによらない優しい声に、「うん」と頷いてしまったのだ。
今でもあの時のクラウドの顔は覚えている。ぬいぐるみなのだから変わる訳がないのに、妙に幸せそうに笑っていた。そんな風に見えた。
それから翌朝起きたら当然のような顔をしてクラウドは動いていた。
昨日散らかしまくって以降ちょっと記憶がないテーブルの上には朝ご飯の用意がされていた。
洗濯物もしてくれたらしい。ベランダにはタオルやらTシャツやらがはためいていた。……どうやって干した!?身長足りないでしょ!?
ベッドの上で呆然とする私にクラウドは気付き、言った。
「おはようございます。……朝ご飯、食べられますか?」
「あ、はい」
「失恋して悲しいのは分かりますが我を忘れる程飲むのは如何なものかと」
「す、すみませんでした」
「まぁ、おかげで貴女の夫になれたので良しとしますが」
「あの」
「はい?ご飯冷めてしまいますよ?」
「い、いただきます。…………あ、美味しい。……じゃなくて何で、あの、……ぬいぐるみ、ですよね?」
「はい。貴女が十歳の時に某玩具屋で買って貰ったぬいぐるみ、クラウドですよ?」
「ですよね……。……何で、その、……生きてるの」
「………………」
クラウドの動きが止まった。じ、とこちらを見ている。
「……とりあえず、ご飯どうぞ」
「あっはい」
……いや誤魔化されたな、今。え?
仕方ないので大人しく朝ご飯をいただいた。美味しかった。
「……で、何で生きてるの?」
「……知りたいですか?」
「すごく」
「私にもよく分かりません」
「え」
「元々意識はありました。今でも覚えています。玩具屋で貴女が私を見て、どうしても欲しいと駄々をこねていた様子」
ちょっと待って何それ恥ずかしい。え、じゃあかれこれ十数年この子ずっと意識あったってこと?ってことはまさか?
「テストの点数が悪くてお父さんに叱られて私にしがみついて泣きじゃくったり初めての彼氏とデートに行く前の日一人ファッションショーしてたり」
「ごめん待ってちょっと待ってその辺の話は掘り下げなくて良いと思うの」
「それもそうですね。……そういうわけで元々意識はあったんです。それが昨夜、貴女が必死に願ってくれた。だから」
「動けるようになった、と?」
「はい」
「ごめんね今一つ納得がいかない」
「でしょうね。でも貴女好きじゃないですかこういうファンタジー。妖精とか魔法とかそういう
感じの。小さい頃はステッキやコンパクトや」
「お願い黒歴史掘るの止めて。本っ当止めて」
「誰もが通る道ですよ。どうぞご安心を」
「ぬいぐるみなのに世の中に詳しいの何なの」
「テレビを点けっぱなしで外出されるのも如何なものかと」
「すみませんでした」
思わず土下座した。どうしよう勝てない。いや全面的に私が悪いんですけど。
「と、まぁそんな感じで納得して下さいませ」
「…………ごめん無理」
「諦めが悪いですね。けれどそんなところも好きですよ」
「……は?」
「私は貴女の夫です。妻の嫌いなところなんてあるわけが無いでしょう」
胸を張りながら、いとも容易く言われてしまった。ぬいぐるみなのに妙に男前だな……。
変わらないはずの表情。けれどやっぱりその顔は幸せそうに見えた。
十数年一緒にいたぬいぐるみ。一人暮らしを始めても社会人になってもこの子だけはどうしても手放せなくてずっと一緒にいる。
そのぬいぐるみが起きて動いて喋って、その上私の旦那。そう思うと何ともよく分からない気持ちが湧いてくる。
「……私で良いの」
「嫌ならこうして動いてなんかいませんよ」
「…………そう」
「納得していただけましたか」
「…………納得はしてないけど受け入れる気にはなったよ。なったけどごめんとりあえず恋人くらいから始めない?」
「往生際が悪いですね」
「だってぬいぐるみじゃん」
「まぁそうですけど。ぬいぐるみはお嫌いですか」
「嫌いじゃないけど……」
「では結婚を前提にお付き合い、で。いわゆる婚約ですね」
「…………破棄はアリ?」
「事情次第ですかね」
「……分かった」
「それは重畳」
「……ところで何であんたそんな喋り方なの」
「貴女がこういうキャラクターが好きだからです」
「何を言い出してんのっていうかどんだけ私の事好きなの。あとあんたの名前の由来は王子様だよ。そんな喋り方……」
「してたでしょう?」
はっとしたように黙る私。満足そうに笑うクラウド。そういやそうだ、確かにこんな感じの喋り方だった。
弟王子のやんちゃをにこにこ眺める、そんな兄王子様が好きだった。ああ、もう全部知られてるのか恥ずかしい。
「画面の向こうなんて見なくても、私が側にいるのにと思っていました」
「見た目果てしなく違うからね」
生憎と元ネタの王子様はちゃんとした人間だ。別に猫要素は欠片も無い。しかも金髪碧眼だったはずだから黒要素も無い。……何で私クラウドなんて付けたかなぁ……。
「それではこれから宜しくお願いします」
「……うん」
もふもふとした手をついて頭を下げる彼。その仕草は人間より人間らしく見えた。
ほんの少し、悪くないかも知れない、なんて思って早一年。何だかんだでクラウドは普通に動いて私の世話を焼いている。
ぼんやりと思い返しているとクラウドに声を掛けられた。
「ご飯、冷めますよ」
「いただきます」
炊き立てのご飯におみおつけ。肉じゃがに卵焼き。……和食だなぁ。ていうか何で普通に料理出来るのかしらこの子。普通王子様って料理とか出来ないでしょうよ。百歩譲っても洋食作りなさいよいや作れるけどこの子。
「……クラウドってさ」
「はい」
「何で料理出来るの?」
「今更聞きますか」
「何となく」
「以前からやってみたかった事ではあります」
「そうなの?」
「貴女と一緒にキッチンに立ってみたいと思っていました」
あー。私が割と料理してたからか。料理番組とかも見るしね。一緒に見てたのか。……その割に私より上手い気がするけど。
休みの日なんかはたまにクラウドと料理をする事がある。けど私より妙に手際が良いんだ。何故
か。
「だからこうして貴女に料理を振る舞えるのはとても幸せです」
「……そっか」
得意げなクラウド。そんな風に思ってくれていたんだな、と温かい気分になる。
とはいえクラウド自身はご飯を食べない。まぁ口開かないしな。何で声聞こえるのか謎だけど。
ただ“気”のようなものは摂っているらしい。クラウドの前には少しだけ彼の分が取り分けてある。最終的にそれは私が食べるのだが、それはどうも味が落ちている。
お供え物みたいな感じなのだろう、と勝手に思っているが実際のところはよく分からない。いや何もかもがよく分からないけど。
「……ごちそうさまでした」
「お粗末様でした。明日は休みですよね」
「うん」
「何かご予定は?」
「無い……けど」
「けど?」
「……クラウドをもふもふする予定を今立てた」
「……それはとても大事な予定ですね」
「クラウドは?何か用事ある?」
「ええ」
「あれじゃあごめん」
「いえ、貴女にもふもふされるために少し陽に当たっておこうと思いました」
「……一緒にひなたぼっこしようよ」
「……そうですね」
ベランダに机と椅子を出して飲み物を用意して。一緒にのんびりしようじゃないか。
そう言えば「はい」とクラウドは嬉しそうに頷くのだった。




終.

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