画家と或る女の譚 / 「蛍」の小説 | メクる

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画家と或る女の譚

短編小説
ホラー
オリジナル
2017年12月03日 17:14 公開
1ページ(1307文字)
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魂を、削り取られてゆくのです。
と、婦人は云った。
光が庭に溢れる春の日だった。婦人を窓際に座らせ、私は彼女の肖像画を描いていた。
何の譚からかは憶えていない。ただ、何かの譚から、写真の譚になった。
私は未だ経験が無いので、聞き齧った譚を適当に口にしていた筈だ。
それで、魂を抜き取られる、なんて譚も有りますね。と云った。
そうしたら婦人は一瞬身体を固まらせ、袖口で口を隠しながら、ぽつりと云った。
魂を、削り取られてゆくのです。と。
あの硝子板に、一瞬を写し取る為だけに、たった其だけの為に、薄く薄く魂を削り取られてゆくのです。
そう婦人は続けた。
そも、魂なぞ存在するものか。目には見えぬ、幽霊や何かと同じ類の戯言ではないのか。
そう云おうとしたが婦人の様子は尋常ではない。
その白い肌は更に血の気が引き、黒い眼を泳がせ、小さく震えている様にすら見えた。
そんな事、有る訳が無いでしょう。
婦人を落ち着かせようと云った。気休め?否、此は正しい反応だ。
魂なんて存在しない。よしんば存在したところで其が切り落とされるなんて事も有るまい。
写真機は只の機械だ。見えるものをそのまま写しとるだけの機械だ。
そんな事、出来る訳がない。
然し婦人はその黒い眼を潤ませながら、真実なのです、と小さく首を振った。
ならば試してみようではありませんか。
云えば婦人の顔が強張った。本気ですか、と。
勿論。私は頷く。近く、写真館へ行って参りましょう。そうして何事も無かった、と貴女に報告しましょう。
宛ら女王陛下に忠誠を誓う騎士の如く、胸を張る私に、婦人はただ黙って目を伏せるだけだった。






それから間も無く、私は写真館にいた。
あんな戯言を真に受けるなんて、と思う反面、内心高揚していた。
何しろ初めての経験だ。子供の様にきょろきょろとしていた。
意外と簡素な造りだと思った。鉄の函に入れられる訳ではなく、特別設えた空間に入れられる訳でもなく、何の変哲も無い只の部屋で、布の前に在る椅子に掛けさせられた。
そうして写真師が何やらして、暫し動くなと云われたのでじっとしていた。
真っ黒な丸を見詰める。まるで穴にも見える其処に吸い込まれるのではないかと錯覚した頃、写真師はもう良いですよ、と其を塞いだ。





幾許か緊張しながら出来上がった写真を見る。
此が写真か、と面白い気分になった。鏡やなんかで自分を見るのとはまた少し違う、そんな趣だった。
それにしても当然のように私は生きている。
ほうら、やはり何も変わらない。魂なんて切り落とされる訳が無い。
所詮戯言。そう思いながら帰途に着いた。
緊張して損をした、などと思いながら着替え、ふと鏡を見た。
私が透けていた。
錯覚か。錯覚だ。慌てて眼を閉じ、擦る。もう一度見た鏡の中の私は何時もと変わらない。
魂を、削り取られてゆくのです。
婦人の言葉が脳内を過る。
今のは本当に錯覚か?
ぞぞ、と肌が粟立つのが解った。つぅ、と冷たいものが背筋を伝った。
ごくり、と息を飲んで鏡から眼を逸らす。
果たして私は明日、婦人に何事も無かったと云えるのだろうか。





終.

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