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エバミールのまどろみ

短編小説
童話・絵本
オリジナル
2018年03月17日 05:35 公開
1ページ(2164文字)
完結 | しおり数 0

コンテスト「猫が出てくる話」より

二色燕丈 暫く不在

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先生、先生。
いい加減、起きてくれよ。
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ねえ ねえ センセー。
俺が側にいるからさ。
頼むからアルコールで死んだように寝ないでくれよ。

ねえ ねえ 先生。
その小さなヤツ、飲んだらよく寝れるんだろ?
原稿をくしゃくしゃにしたまま突っ伏さないでよ。

オレは先生の髪を爪に引っ掻け撫でるように話しかける。

「春先だからってうるせぇな、しゃらく」

オレをしゃらくと先生は呼ぶ。洋種と和種っぽいだろ?と。
冬の夜中に、Tシャツとコートにサンダルをはいて、猫じゃらしみたいな、雲みたいな細いのを口から吐いて指元の火を見ながら、ボサボサ頭は言ったんだ。

コートの中に入れられて、
人間とはオレたちみたいになまぬるく、とくとくと動くんだと知った。

しゃらくは英語と、日本人の画家なんだと、先生と呼ばれた男、この、机で突っ伏した男は言ったことがある。

オレが餌を求めて哭けば、「腹減ったのかしゃらく、」やら、「うるさいしゃらっぷ」だの、低い声で言うこの人間は、しかしたまに水で体を洗い流してくれるし、一緒に寝てくれる。

家族がいないオレには、初めての布団だった。たまに出ている羽で遊ぶと怒られる。

「目は青っぽいのに黒くて尻尾は短いのな、お前。モテなかっただろ」

と笑った先生に、

「うるせぇんだよ、お前だってひとりみじゃん」

と引っ掻く。大体は「はいはい」と撫でられるのが癪だ。

さっきまで泣いてたこいつの髪で遊んでみる。異常に泣いていた。しかし人間はどうやら、猫のように声を出しては哭かないらしい。

そう言えば先生、昨日朝方出て行った、猫のように泣く女はどこに行ったんだい?あれからずっと、あんた、静かだったけど。

「俺にも家族が欲しいよしゃらく。お前はどうだい?」

と、溜め息を吐いて紙に字を書き、くしゃくしゃに丸めたあんたには、到底家族なんて出来ないなと思ったよ。

…それにしても起きないしマタタビ臭いな。
近寄りたくないがなんだ、オレがその顔引っ掻いたら起きてくれる?いい加減布団で寝たいんだけど、先生。

そうして先生の顔をバシバシやってたら、先生が伸ばしていた右手の空き瓶が転がてしまった。中身は全部、こいつがさっき食ってた。そんなんで腹一杯になるのか、美味いのかなって、
コートの中に入れられた時の、腕の中で感じた肉付きの悪さを思い出した。あのごつごつとした心臓あたり。

けどね、それ、鼓動が眠くなるようで、好きなんだよ。先生。

いつもならこの机に乗ったら怒るのに、空き瓶を転がしても起きてくれない。

先生、疲れたのか。
あれからずっと、カリカリカリカリ、何か空気を眺めたりしながら、手を動かしてたもんな。

「締め切り間に合わない」

とか言ってな。最高の物語を書くって、数日意気込んでたもんな。

痺れを切らして先生の、首筋のシャツに頭を突っ込んでやった。背中が見える。電気はちょっと、薄くなるけど、トンネルみたいだ。

先生、今日は少し、鼓動がゆっくりだね。人間はそんな日、あるんだね。少し身体も冷たいね。

怒らないんだね、先生。
なんだよ、つまんねぇな。

「先生腹減ったよ、マジで」

けど動かない。なんだよ、本当に腹減ったんだよ。

頭を出して顔を覗いてみる。
瞼、腫れてんじゃん。
てか、やっぱり日の光を浴びないからじゃないの?少しむくんだね。

「うるせぇなぁ、しゃらく」

低くゆっくり言うときの、
あの、暖かい気持ちになる垂れた目元や上がった口元と違う。もう少し、硬いなあ。

「ホントにどうしたんだよ先生。
なんだよ、女にフラれたくらいで。元気出せよ」

家族ならいるじゃないか。
「愛されたいなぁ」とか言うけどさ。
オレ、あんたの暖かさ、好きだよ。なのになんだよ。今日は構ってくれないの?まだ飯も食ってないよ?

仕方ないなぁ。

開きっぱなしで部屋が寒い。外へ、出ていって。

とりあえず飯を探そうかな、先生と出会ったあの辺りで。

それでも起きないなら、オレは最近ちょっとムラムラしてるし、女の子とイイコトしてきちゃうかもしれないよ?先生が言うとおり、あんたと同い年くらいで若い男だもん、オレだってさ。
それでも起きなかったら。

先生、昼寝の時間は終わったんじゃないの?
ねえ、本当に知らないよ?布切れ一枚で寒そうだし、病気になっても知らないよ?

ずっとオレが声を掛けても目が開かない。
「うるせぇ、腹減ったのかしゃらく」が聞こえない。

一人でずっと、あそこにいたときに降ってきた低い声がない。どうして?オレはこんなに高い声で泣けるんだよ、先生。

まぁ、じゃぁ散歩してくるよ。
夜の街は寒いけど。暗闇に紛れるように、歩いてみるよ。

風にあの丸めた紙がゆらゆらと、木の地面でそよいでる。
風が吹く方へ歩いていく。いつも先生が煙を吹かす場所。

「これは猫じゃらしじゃねぇよ、タバコだよ」

そう言った場所。ちょっと高いんだ。でもまぁ、煙は白いから上に登るけど、オレは黒いから下に着地出来るんだ。

足場から、草むらへ。

ひんやりと少し湿った土と草。生まれた場所、こんなんだったかも知れねぇなと。

綺麗で静かな月に、柄になく黄昏て微睡みながら、取り敢えず、何か食べようと歩き出した。

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