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跡を継ぐもの

短編小説
ファンタジー
オリジナル
2018年05月07日 16:54 公開
1ページ(2672文字)
完結 | しおり数 0

茶太郎、この界隈はお前に任せたぞ!

周防光珠

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スノウイはこの辺りを取り仕切るボスだ。更には飼い猫としても王者の如く君臨している。そんな彼に、茶太郎はずっと憧れていた。
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「兄貴、今日もカッコイイなぁ」

 茶太郎は憧れの眼差しでスノウイを見つめた。こっくりとした大きなまん丸い琥珀色の瞳が、研磨された琥珀のように輝く。その瞳の先には、自宅のブロック塀の上に悠然と腰を下ろす……

 それは雪のように白く輝く毛並み、長くしなやかな肢体、一部の無駄な肉もついていない細身の筋肉質の体。細面の顔の輪郭に整った顔立ち。その瞳は切れ長のクリアブルーの瞳を持つ白猫だった。その瞳は宝石のアクアマリンのようだ。彼は優雅な仕草で、塀の下で自らを見上げる子猫を見下ろした。そしてフッと優しい笑みを浮かべる。

「さ、部屋に戻るぞ茶太郎」

 と声をかけた。さながらクリスタルボウルのように不思議な癒しの鳴き声である。彼の視線に移る茶太郎は、ふわふわの茶トラの子猫であった。

「うん! スノウイの兄貴!」

 茶太郎は鈴のようにコロコロと澄んだ声だ。元気よく答える。
 ヒラリと塀から飛び降りササッと家に走るスノウイの後を、ポテポテと追った。

 スノウイは茶太郎の憧れだった。
 

 スノウイは元々はこの辺りの界隈を取り仕切るボスであった。

「うわぁ、真っ白な猫ちゃん綺麗ー!」

 ある日、幼い少女に一目で気に入られ、抱きあげられた挙句そのまま彼女の自宅へと連れて行かれてしまう。頃合いを見て逃げ出そうと思っていたが、

「お願い、パパ、ママ。絶対責任持って面倒見るから! 餌も、沙織のお小遣いから出していいから!」

 少女が余りにも泣くので、そのまま飼い猫として居つく事にした。

……まぁ、私もそう若くは無い。余生を人間にぬくぬくと守られ、穏やかに過ごすのも悪くないさ……

 と沙織の腕の中でそう感じた。

「ね、猫ちゃん。雪みたいに真っ白だからお名前はSnowy(スノウイ)ね!」

 ほどなくして彼の名が決まった。少女の家の近辺では、かなりの確率で猫が飼われていた。その辺りを散歩している内に、飼い猫とその界隈にいる決まった家を持たぬ猫達のリーダーとして君臨して行った。

「あらぁ真っ白。美人猫、いや、イケメン猫かな?」
「わぁ真っ白なニャンコだぁ!」

 自宅の前の道で寛いでいたり、縄張り周辺の見回り兼警護をしていると道行く人が声をかけて行ったり、二度見して行く。

 いつしか、この地域の名物猫としてもその名を馳せて行った。


 スノウイが茶太郎に初めて会ったのは、ある晴れた日の昼下がりだった。はるか彼方から

ミャーミャーオミャー

 と子猫の鳴き声がする。それは笑顔の沙織と共に徐々に近づいて来た。

「スノウイ、この子は茶太郎。今日からスノウイの弟だよ」

 と目の前に置かれたのだ。まだ目がやっと開いたくらいの、小さな小さな生き物だった。明るい茶毛がふかふかとして、迂闊に触れたら壊れてしまいそうだ。艶やかな琥珀色の眼差しが、うるうると潤ませて己を見つめる。

ミャー(お兄たん)

 と子猫はスノウイの胸に甘えて来た。その瞬間から

……この子は私が一人前の漢《おとこ》に育ててやる!……

 そう決めたのだった。その時から茶太郎は、何をするにもどこに行くにも

ミャー(お兄たん)ミャー(お兄たん)

 と後をついて回り、何でも真似をしたがった。時に一人になりたい衝動に駆られたが、幼い茶太郎が完全に眠ってしまう時以外は外出は控えた。そして外出しても、弟が目覚めるまでには帰宅した。

 茶太郎に取ってスノウイは永遠の憧れだった。それは初めて会った時の朧気な記憶からずっと変わらない。彼のようになりたいと、ずっと思って来た。それは、自分が大人になり、スノウイに少しずつ衰えが見えて来る頃も変わらない。

……兄貴みたいに、カッコイイ大人で。カッコ良く歳を重ねたい……

 そう思っていた。

「この辺りは、三毛の小母さんが取り仕切っている。あの青い屋根の家で飼われている。名前は『みーこ』だ。面倒見がいいから、困った事があれば相談すると良い」

 スノウイは茶太郎を連れて説明しながら歩いている。ちょうど家の門から三毛猫が出て来た。ふっくらした体型の可愛らしい雌猫だ。赤い首輪がよく似合っている。彼女はスノウイの姿を見るなり親し気に話しかけ、視線を茶太郎に移した。

「コイツは茶太郎だ」
「宜しくね、茶太郎君。何か困った事があったら、相談においでね」
「宜しくお願いします!」
「私からも頼む」
「任せなさい」

 三毛猫は大きく頷いた。スノウイはその場を立ち去った。後に続く茶太郎。三毛猫は全てを悟ったようにスノウイを見送った。

「この空き地には、沢山の猫が集まる。会議の時はこの場所を使う」

 蓮華草やハルジョオン、タンポポやクローバーが咲き乱れる小さな草原だった。更に歩みを進める。アパートやマンションが立ち並ぶ場所だ。

「ここは、飼い猫や野生猫、様々な猫が行きかう。この辺りを仕切るのは黒猫のアーサーだ。見かけは怖いが、気の良い奴だ」
「誰が怖いって?」

 笑いながら、大きな黒猫がやってきた。左目は怪我で無くしたようだが、右目は大きな丸い翡翠色だ。見事な艶を誇る黒毛、野性味溢れる堂々たる黒猫だ。

「初めまして。茶太郎です。宜しくお願いします」
 
 礼儀正しく挨拶をする。

「おう、アーサーだ。宜しくな。おーい、お前ら。こっちへ来い!」

 彼は右奥に向かって声をかけた。するとミャー、二ャーと鳴き声と共に、5.6匹ほどの子猫達が集まって来た。

「誰?」「おにいちゃん遊んで」「あそぼ!」

 子猫達は口々に言って茶太郎の周りに集まる。少し照れた。その様子を優しく見守るスノウイ。

「任せな」

 とアーサーはぽつりと言った。

「有難う。頼む」

 スノウイは穏やかに笑みを浮かべた。

「あの人間の少女は寂しがり屋だ。時々慰めてやると良い」
「あの老女は猫好きだが、マンションでは飼えないそうだ。撫でたり抱っこされたりするが許してやれ」

 続いてスノウイはこの界隈の人間達の説明をした。

その日の夜を境に、スノウイは姿を消した。死期を悟って永眠する場所へと旅立ったのだろう。茶太郎は家の前の塀に登り空を見上げた。白い雲がスノウイの形をしているように見える。

「兄貴みたいになれるよう、頑張ってみるよ」

 と呟いた。

『お前なら出来るさ。私以上にな。沙織を頼む』

 朝日が茶太郎を照らすと共に、スノウイの声が響いた気がした。

~完~

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