Sleeping Prince / 「周防光珠」の小説 | メクる

メクる

累計 17437807 スキ
BL・アダルトの
切り替えはこちら

Sleeping Prince

短編小説
童話・絵本
オリジナル
2018年06月05日 23:18 公開
1ページ(5729文字)
完結 | しおり数 0

僕は眠る事が大好き。だって僕にはどうしても叶えたい夢があるから。

周防光珠

  • 閲覧数

    89

    1859位

  • 評価数

    0

    1590位

  • マイリスト

    0

    1307位

  僕は大きくなったら、カピバラになるんだ。十年生きたらなれるらしい。待っててな、茉菜。必ず夢を叶えてやるから!

 ペットを飼ってらっしゃる方がいたら、いつかは体験せねばならないペットとのお別れ。ペットロスにならない為に、このようなほのぼの童話は如何でしょうか?

 きっと、魂は永遠。また会える筈です。きっと……!
フォント
文字:--%
行間:--%
 そのモルモットには、どうしても叶えたい夢がありました。飼い主の茉菜ちゃんとの約束を果たす為に。

 だからひたすら努力し続けました。

 4歳の茉菜ちゃんは、カピバラさんが大好きでした。だから、大きくなったらカピバラさんを飼う事が夢でした。

 茉菜ちゃんが小学校に入学した時、お祝いに小動物が買って貰える事になりました。茉菜ちゃんは本当はカピバラさんが欲しかったのです。ですが高いしとても大きくなるし、餌代も大変だから大きくなって働くようになったら自分で買いなさい、とお父さんお母さんに諭されました。

「カピバラさんじゃないけども、同じ天竺鼠科という種類のカピバラさんの仲間だよ」

 お父さんがそう言って茉菜に指を指して見せました。その指先が示すのは、モルモットでした。

「うわぁ、可愛い。ミニチュアカピバラさんだ」

 茉菜ちゃんは沢山いるモルモットの中でも、薄茶色の子が一目で気に入りました。四カ月の男の子です。種類はイングリッシュ・モルモット。短毛種で一番メジャーなタイプだそうです。

 モルモットの男の子は「メープル」と名付けられました。毛の色がメープル・シロップに似ていたからです。メープルはこっくりとした真っ黒のお目めは大きくて真ん丸で、桜色のお鼻は小さな逆三角形でとっても可愛らしい子でした。

『可愛い女の子だな。茉菜って言うんだ……』

 メープルもまた、一目で茉菜ちゃんの事が気に入りました。

一人と一匹はこうして出会いを果たしました。

 メープルはとても活発で元気な子でした。よく食べてよく遊んでよく眠る、そんな子でした。モルモットは草食動物であるというその臆病な本能から、目を開けたまま寝たり、少しの物音でもすぐに目を覚ます傾向にあります。

 メープルも最初はそうでした。けれども茉菜ちゃんは学校から帰ったらすぐにメープルのお世話をしたり遊んだりして、いつもそばにいましたし、お父さんお母さんも時間が空けばメープルのお世話をしたり遊んだりしました。

 その甲斐あってか、メープルは目を閉じてゴロンとお腹を出しで熟睡するようになりました。お腹を出す行為は、警戒心の強いモルモットの場合、相当強く信頼し、全面的に安心しきらなけらばまずあり得ない行為です。

 メープルは皆に愛されてスクスク、ぷくぷくと育って行きました。

茉菜ちゃんはメープルを種族を超えた弟だと思っていましたし、メープルもまた、茉菜ちゃんをお姉さんだと思っていました。

 ある日、茉菜ちゃんは学校の読書の時間に童話を読んでいました。そこにはこんな事が書かれていました。

ーーーーーーー

 モルモットの寿命は三年から八年です。ですが十年生きればカピバラになれるという伝説がありました。よく眠る子ほどよく育ちます。

ーーーーーーー

(そうか! メープルが頑張って十年生きたら、カピバラさんになれるんだ!)

 茉菜ちゃんはとっても嬉しくて体中がゾクゾクしました。より一層、メープルを大切にしよう、沢山食べて沢山運動して沢山眠って貰おう、そう思いました。

「メープル!」

 学校から帰って来た茉菜ちゃんはランドセルもおろさずに真っ先にメープルのところへ駆け込みます。そしてケージの前でこう言いました。瞳がキラキラ輝いています。

「あのね、十年生きるとカピバラさんになれるんだって! メープルも頑張って十年生きてカピバラさんになろう! よく食べてよく遊んでよく寝る! 寝る子は育つんだってさ! ずーっと一緒に居ようね! メープル」

 メープルはよく分かりませんでしたが、いっぱい食べて遊んで寝ること。沢山生きることで茉菜が望む何かになれるんだ、と理解しました。

 その日その時その瞬間から、メープルの夢は「十年生きてカピバラになる事!」になりました。だから、今まで以上によく食べて、よく遊んで、よく眠りました。

「最近、メープルはよく眠るようになったね。『眠りの王子』だ」

 お父さんがそう言って笑いながらメープルを撫でます。

「まだ成長期だからよく食べてよく暴れるしね」

 とお母さんは笑いました。

(だって、メープルは十年生きてカピバラさんになるんだもん。茉奈とずーーーっと一緒だもん!)

 茉菜ちゃんは密かに思うのでした。


 月日は飛ぶように過ぎて、茉菜ちゃんは小学校二年生になりました。

「最近、メープルはポップコーンジャンプしなくなったね」

 少し寂しそうに言う茉菜ちゃん。ポップコーンジャンプは、モルモットが嬉しい時、興奮した時、ピョンピョン飛び跳ねることを言います。その子によって跳ね方は異なるそうですが、メープルはその場で高く跳ね上がり、体操選手のように体を捻りながら一回転半ジャンプします。

「大人になったら、しなくなるって言ってたでしょ、ペットショップのオーナーさん」

 お母さんが励ますように言います。

「うん……」
「どうした? 大人になったメープルはもう飽きたか?」

 お父さんはやや厳しい口調で問いかけます。茉菜ちゃんは即座にキッとお父さんを見据え、

「違う! そんな事ない! ただ、私より早く歳をとっちゃうんだな、て寂しくなっただけ。……もう一年経ったからメープルは人間で言ったら二十歳くらいだったよね」

 お父さんは優しい笑みを浮かべました。

「そうだな、メープルはお兄ちゃんだな。相変わらずよく眠る『眠りの王子』だ」

 と茉菜ちゃんの頭を撫でました。家族でそんな会話を交わしている際も、メープルはお腹を出してぐっすりと眠っています。メープルの頭の中にあるのは

『十年生きてカピバラになるんだ!』

 ただこれだけでした。茉菜ちゃんが喜び、茉菜ちゃんの笑顔が見たい。それしか考えていませんでした。

 モルモットは、人間よりも非常に速い時間の中で生きます。時の経過の仕方が人間とは異なるのです。赤ちゃんの時からお目めも開いていますし、歯も毛も生えています。生まれて一時間もしたら歩き出します。二日目にはお母さんのお乳以外の固形物も食べられるようになります。二歳でおよそ三十歳、十歳で百十歳ほどでしょうか。(※諸説ございます)

『人間は時が経つのが遅いんだな。茉菜はまだ子供だけど、僕はいつ間にかお兄さんになっちゃったな……』

 微睡《まどろ》みの中で、メープルはぼんやりと少しだけ寂しく感じました。

 それから月日は飛ぶように過ぎて、メープルは少しづつ少しずつ、体が衰えてきたことを感じ始めました。

 けれども、茉菜ちゃんとの約束があります。だからひたすらよく眠りました。

目覚めて、ご飯を食べて。少しずつ背が高く、首のあたりで切り揃えられていた髪が肩の下まで伸びた茉菜ちゃんと遊んで。たまに、少し年をとったお母さんお父さんの手からおやつのリンゴやニンジンを貰ったりして。

「寝る子はよく育つ」

 と茉菜ちゃんが言ってましたし、とにかくよく眠りました。そうしたら早く十年が経過して、カピバラになれるかもしれない。そう思うからです。

 でも、このところあまり食欲が湧きません。でも、眠ればきっと回復してる筈、だからひたすら眠り続けました。でも、どうしてでしょう? 目を開けたら、腰まで伸びた髪の茉奈ちゃんが泣いているのです。お父さんもお母さんも心配そうに見ていました。そして真っ白な壁と真っ白なシーツが敷かれたベッドの上で、白衣を着たお兄さんが難しい顔でメープルを観察していました。

「どこが悪いという訳ではなく、老衰ですね。八年。よく生きましたよ。お家で穏やかな最期を迎えてあげてください」

 白衣のお兄さんは静かにそう言いました。嗚咽を上げる茉菜ちゃん。メープルは思います。

『茉菜、どうして泣いてるんだい? あと二年、一生懸命眠ったらカピバラとやらになるじゃないか。もう少しだよ。待っててな』

 メープルは重たい頭を懸命に持ち上げて、抱いてくれている茉菜ちゃんのお手てを舐めました。

 それから目を覚ましたら、いつものケージからふかふかの牧草が敷かれた場所に寝かされていました。茉菜ちゃんは涙でぐっしょりと濡れたお顔です。そして真っ赤なお目めでメープルを見つめています。そして優しくメープルの頭を撫で続けました。お父さんとお母さんも泣いています。

『また一緒に過ごそうな。お父さんお母さん、ありがとう。少し長い間眠るね。待っててな、茉菜。必ずカピバラになるから。じゃぁ、またね』

 メープルは残りの力を振り絞って、

キュルッ

 と一声甘えた声を上げ、茉菜の手を舐めました。そのまま力が抜けるようにパタリと動かなくなりました。

「メープル? メープル!!!」
「メープル?!」
「メープル!!」

 茉菜ちゃん、お母さん、お父さんが悲痛な声を上げます。

「メープル、目を開けてよ。十年生きてカピバラさんになるって約束したじゃん。ねぇ、起きてよ……ねぇ。目を開けてよ。メープル、メープル。嫌だよ。逝かないでよ……。メープル、メープル! メープルーーーーーーーーーッ! わーーーーーーーーーっ」

 茉菜は泣き叫びます。お父さんもお母さんも嗚咽を上げました。

メープル八歳と二か月。眠りの王子は、永遠《とわ》の眠りの世界へと旅立っていきました。

 メープルは急に体が軽やかになるのを感じました。力なく横たわっている自分の姿が見えます。気が付いたら、体が透けて天井を舞っていました。背中には真っ白くてフワフワの羽がついています。

 茉菜ちゃんは自分を必死に撫でています。そして

「メープル? メープル!!!」
「メープル?!」
「メープル!!」

 茉菜ちゃん、お母さん、お父さんが悲痛な声を上げています。

「メープル、目を開けてよ。十年生きてカピバラさんになるって約束したじゃん。ねぇ、起きてよ……ねぇ。目を開けてよ。メープル、メープル。嫌だよ。逝かないでよ……。メープル、メープル! メープルーーーーーーーーーッ! わーーーーーーーーーっ」

 茉菜は泣き叫びます。お父さんもお母さんも嗚咽を上げました。

『ぼくはここだよ! ほら、こんな真っ白な翼が生えて、空を飛べるようになったんだ!』

 メープルは必死で声をかけます。ですが三人には全く聞こえないようです。しばらくそうして泣いていました。


『そうか。僕は死んだのか。約束、守れなくて御免、茉菜。でも、次は必ずカピバラになるから!』

 茉菜は、メープルがそう言っている夢を見ました。メープルは背中に真っ白でふわふわな羽が生えて、軽やかにお空を舞っていました。そして大きな大きな金色の鼠さんが、虹の架け橋と共にお空から降りてきました。

「茉菜よ、よくこの子を大切にしてくれた。十年じゃ、十年待て。約束通り、カピバラとしてこの子を巡り合わせてやろう。その為に、カピバラを生涯余裕をもって飼えるよう環境を整えておけ」

 金色の大きな鼠さんはそう言うと、メープルを従えて虹の架け橋をのぼって光溢れるお空へと消えて行きました。

 次の日、お父さんお母さんと茉菜は泣きながら涙とともにメープルをお庭に植えました。そしてモルモットのオブジェを目印に置きました。

 それから七日ほど経ったある朝、メープルを埋めたあたりに突然に青い薔薇の花が咲いていました。不思議なこともあるものです。お花の種は植えていませんでしたのに。

 青い薔薇はとても珍しいです。しかも自生するなど有り得ません。ですからきっと、メープルが天国へ行った証拠なのだと茉菜ちゃんと両親は思いました。

『青い薔薇』の花言葉は、「神秘」「夢が叶う」「不可能な事を成し遂げる」「一目惚れ」「奇跡」「神の祝福」でした。

(メープルはカピバラとして生まれ変わるんだ、十年後!)

 茉奈は確信しました。それからお勉強も部活のバスケットボールも、殊更一生懸命に頑張りました。十年後、カピバラに生まれ変わったメープルを生涯飼える環境を整える為に……。

 それから十年後……。ある牧場に茉菜はいました。大人になって一生懸命働いて、メープルを生涯お世話出来る環境が整ったのです。髪は首のあたりで切りそろえたボブヘアーです。隣には背の高い爽やかな青年が居ました。彼は茉菜の婚約者です。結婚して一緒に住む部屋が決まったので、二人の共通の夢であった「カピバラ」を買いに、牧場に見に来ているのでした。

「本当に、この子だ! て分かるのか?」

 彼は笑顔で問いかけます。

「うん、勿論! メープルと約束したもん、目を見れば分かるわ」

 茉菜は自信たっぷりに答えます。

「さぁ、ご自由にご覧ください」

 オーナーの初老の男性はにこやかに言いました。見るからに人の好さそうな方です。囲いの中に促されるまま二人は入って行きました。

「可愛い!」
「いっぱいいるなぁ!」

 二人はカピバラの赤ちゃんを見て大喜びです。ふわふわもふもふ。なんとなく、モルモットを大きくした感じで似ていました。二十匹ほどいるでしょうか……。茉菜は注意深く一匹一匹を見て回ります。彼はそんな彼女を優しく見守っていました。

 不意に、食い入るように自分を見つめる視線に気づきます。薄茶色のカピバラの赤ちゃん、黒々とした大きなまん丸の瞳。

『茉菜、大きくなったね! 僕まだ赤ちゃんだよ』

 確かに、そう声が聞こえた気がしました。

「メープル!!!」

 茉菜の目に涙が溢れました。

キュル

 その赤ちゃんカピバラは、一声甘えたように鳴くと茉菜を目指してチョコチョコ走り出しました。

「……久しぶり、メープル」

 茉菜はそう言って、抱き上げました。

サワサワサワと優しい風が二人を包み込みました。そして少し離れたところに設けられた噴水が、風に舞って太陽の光に反応し、小さな虹の架け橋を作りました。


 ~完~

スキを送る

累計 50 / 今日 0


残スキ 300

『スキ機能』とは?
『スキ機能』とは『スキ』ボタンを押すことで作品や作者を応援できる機能です。
※拍手機能に類似した機能です。

[スキ機能のルール]
※1人あたり1日に300回まで『スキ』を送ることができます。
※1作品でも複数作品でも合計が300回まで『スキ』を送ることができます。
※『スキ』は1スキ、『大スキ』は10スキ、加算されます。
※1日に与えられるスキの数は毎朝4時にリセットされます。
※自分の作品にはスキ機能は利用できません。
※『スキ』は匿名で作品に送られます。

スキ!を送りました

作品を評価する

周防光珠さんを

フォローしたユーザーの
作品投稿やつぶやきなどの最新情報を
マイページでチェックできます

マイリストに登録する

この作品につぶやく

#Sleeping Prince
 

500

みんなのつぶやき 一覧

イメージレスポンス(0) 一覧

この作品へのイメージレスポンスはありません

タグ一覧

友達に教える

  • ツイートする
  • イイネ
  • なうで紹介
  • はてなブックマーク
  • GoogleOne

この作品を見た人はこんな作品も 一覧

作者の投稿小説(18) 一覧

作品登録マイリスト 一覧

登録された公開マイリストはありません

その他


コーナー R

作品宛みんなのつぶやき

もっと見る

作者の他の作品一覧

一覧を見る

copyright (c) 2013-2018 メクる Co.,Ltd. All rights reserved.