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制約のある悪魔

短編小説
ファンタジー
オリジナル
2018年06月30日 21:33 公開
1ページ(2095文字)
完結 | しおり数 0

魂と引き換えに何かを与える悪魔のお話

なめくぢみみず

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以前、ルカさんの小説「Gift」へのリクエストとして書いてもらった話(お題は「優しい悪魔」です)を自分でも書いてみました。
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悪魔は人に名誉や金は与えられるが、真理や食べ物は与えられない。価値の変動するものほど与えやすい、そういう制約があった。
見目麗しく、声も落ち着いて優雅な、仕立ての良い服を着たある悪魔は、一人の人間を見つけた。鼻ぺちゃでそばかすだらけのその女はお針子をしていた。悪魔はその女をそそのかしてやろうと思った。なに、気まぐれを起こしただけのことである。
悪魔は優しく女に近付いた。
「お嬢さん、わたくしの手袋を繕ってくれまいか。ほら、ここに穴が……」
女は針仕事をしていて下を向いていたが、声に気付くと悪魔を見た。そして、一瞬その美しい顔に驚いた後、気を取り直す。
「いくら頂けますか」
女はぶっきらぼうに言った。悪魔は手のひらから金貨を取り出すと女に握らせた。
「これでよろしいかな?」
「嫌味ですか?金貨なんて、多すぎます」
「そんなつもりはないのだ。これを縫って我が家に届けに来てくれる、そこまでの賃料だ」
お針子は大抵、色も売っていたので、悪魔はそれをほのめかした。女は苛立った様子で言う。
「もっと顔も体つきもいいお針子はこの店にたくさんいるから、そっちに頼みなよ」
「君がいい」
「ブスからかうのもいい加減にしな。マリー、このお兄さんあんたとおしゃべりしたいみたいよ!」
顔の良いお針子が色めき立って悪魔に近付いてくる。魂は誰から奪っても楽しいものである。悪魔はマリーと呼ばれたお針子に一旦狙いを移すことをした。
その日、マリーは魂を悪魔に奪われた。
マリーの遺体の周りには金貨が散らばっていたという。お針子の女はマリーがあの男に殺されたのだと感じてひどく悲しんだ。あの男をマリーに引き合わせなければ良かった、と。
生前マリーは時々、影で女の悪口を言っていた。お針子の女は思う。私は彼女を憎く思っていたかもしれない。だから、あの嫌な感じの男に引き合わせてしまったのではないか。私の悪い心が、あの子を殺したのではないのか。
そのことを女はひどく気に病んで食欲を無くしていった。そして忘れるために夢中で仕事に取り組んだが、食欲不振から気力もなくなり突然仕事ができなくなった。
すぐに、住み込みの職場から追い出され、貧民窟へと流れていった。
悪魔が女に会いに来る。
「こんにちは。お嬢さん、具合が悪そうだが」
「あんたか」
「金に困っているだろう?金貨はいらないかい?」
「マリーは死んでいい子じゃなかった……!」
女はボロボロと涙を流し始めた。悪魔は困ったように言う。
「君は、あの女が影で君を笑っていたことを知らないのかい?」
「知ってた。でも、それなら死んでいいなんて私は思いたくない!あの子は可愛い子だった。私を頼ってくれることもあった!」
「利用されていただけじゃあないか」
「それでも……!」
悪魔は女がうつむいて泣くので頭を撫でた。それから自分の行動に驚いた。なんの利益もなしに人を慰めるなんてそんなことしたことない。
「今日は帰るよ。また」
悪魔は自身に動揺しながらそれだけ言うと退散した。
それからというもの悪魔は泣きじゃくる女のことばかり考えた。会いたいが、拒まれるのは嫌だった。あの女の魂が欲しい。どうにかして、その魂を奪いたい。そしてずっとその魂を眺めて暮らしたらきっと心穏やかになるだろう。悪魔はそう思いながらも女に会うのを躊躇っていた。何故、あの女に嫌われるのが怖いのだろう。悪魔は不思議だったが、自分のその怖いと思う気持ちに自分の悪魔としてのプライドが傷付けられていくような気もした。とうとう悪魔は思い立って女に会いに行くことにした。
悪魔は貧民窟で女に会った。女は死に瀕していた。ほとんど意識はなく、立つこともままならない様子だった。
「おい!」
悪魔が声を掛けると女はうつろな目で悪魔を見た。女は言う。
「み……ず、」
「水だな?待っていなさい!」
悪魔はそう言って井戸に走った。汲み取り桶を井戸に落として水を汲もうとする。悪魔は水の入った桶を持ち上げることが出来なかった。悪魔は真理や食べ物を人に与えることは出来ないからだ。それでも悪魔は力いっぱい汲み取り桶の紐を引いた。桶はピクリとも持ち上がらない。とうとう悪魔は井戸に入って直接水を掬おうとした。井戸に降りて水を掬おうとするが水が恐ろしい重さで手から滑り抜けていく。
「どうして……どうして……!」
どうして自分は水一つ彼女に与えることが出来ないのか。どうして自分はこんなに必死なのに水一つ汲めないのか。どうして自分はこんなに必死でいるのか。
悪魔は、水を持てずに彼女の元へと戻った。それから彼女の手を取った。
「すまない……」
悪魔は自分の行動の全てを理解した。彼女を愛していたのだ。気まぐれも何もかも彼女に惹かれたが故の行動だったのだと。
女の手は既に冷たく、最早魂がそこにないことは分かっていた。それでも悪魔は手を握りしめていた。そのうち、悪魔は動かなくなり、さらさらと砂になって崩れ始めた。井戸水に濡れた仕立ての良い服も美しい顔も全て砂になる頃、悪魔はようやく自分の心が穏やかになるのを感じた。

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