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雨女の夢

短編小説
ファンタジー
オリジナル
2018年07月02日 00:21 公開
1ページ(5449文字)
完結 | しおり数 0

雨女は太陽を見たことがなかった。

周防光珠

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 一度でいいから、太陽が煌めく蒼天の下を歩いてみたい。それが彼女の夢だった。
 
 雨が降る。雨が降る。こんな日は決まって思い出すことがある。
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 【第一話 雨の降る日は】

 
雨だ。灰色の空から降り注ぐ。それは限りなく優しく感じる時もあれば、鬱陶しく感じたり、憂鬱になったりと色々だ。それは季節により、また気分によりその時々で感じ方は色々と変わる。

 この雨は翡翠の雨だ。草木を優しく育む。それは植物が持つ本来の翠色をより鮮やかに、より艶やかに魅せる。初夏の翠雨《すいう》だ。

 こんな雨の時、決まって思い出す事がある。

ーーーーーーーーーー

「やーい、あーめおんなー!」
「こっちみるなよー。あめふるだろー」
「つゆいりがはやいの、あのこのせいよ」
「あめばっかりふるの、あのこがわるいんだよ」

 5.6人に囲まれて囃し立てられ、えーんえーんと声をあげて泣きじゃくる私。幼稚園の頃だ。私は雨女と呼ばれていた。

 雨女。何故か私がいると雨が降るから、らしかった。でもそんな事はない。確かに出かけようとすると雨になる確率は高かったけれど、曇りの時だってあったし、晴れてる日だってあった。

 私が「雨女」と呼ばれる切っ掛けとなったのは、初夏の日、幼稚園の教室から窓の外を眺めていた。私を雨女と呼ぶ事になる5.6人と共に。青々とした草木に降り注ぐ雨。私にはそれが限り無く優しく、慈愛の雨に見えた。

「あめ、やさしいね。草や木がげんきになるね。こういうあめ、翠《みどり》はだいすきなんだ」

 ただ、思った事をそのまま口にしただけだった。穴の開くように私を見つめる彼ら。

「こいつ、あめがすきなのか? きもちわるいやつー」
「あめおんなじゃね?」
「あめがすきだなんてへん。おかしい」
「きっとあめがふるのはこのこのせいだよ」
「やーい、あめおんなー」

 あっと言う間に他の子達も寄ってきて、

「翠ちゃんてあめおんななんだって」
「なにいそれキモい」
「うちのバラからしたの、翠ちゃんのせいでしょ」
「うちのサボテンからしたのあいつのせいだな」

 こうして私は雨女と呼ばれ、毎日揶揄われるようになった。

 クラスに元々「晴れ男」と呼ばれる子がいた。別に彼がいると雨が上がるとか、晴れるとかではない。単にその彼の名前が「太陽《たいよう》」という名前だからだ。その子は何故か、先陣をきって積極的に私を虐めた。ちょっとカッコイイな、なんて思ってだだけにショックだった。
 二人ほど見張り役がいて、先生が来たらすぐに辞めるように徹底していた。だから先生はこの事を知らない。

 虐めと言っても、ただクラスの子たちに囃し立てられて、せいぜい髪を引っ張られたり、つつかれたり押されたりして転ばされたりするくらいだったから、そう大したものではなかったのだと大人になった今ならそう思う。

 けれど、当時は辛かった。先生に絶対知られないようにやっているから、両親に話しても信じて貰えないだろうし。だから家では何事もなかったように明るく楽しそうに振る舞っていた。

「今日は誰々ちゃんと遊んで」
「誰々君がこんな事いって面白かった」

 両親にはこうなったらいいな、という願望を話して聞かせたものだ。話している間はとても楽しかった。その間は、あたかも本当にあった事のように感じられたから。

 クラスでは相変わらず太陽が「晴れ男」として君臨していている。その時は自分の気持ちをうまく言語化出来なかったけれども、雨が駄目で太陽が良いだなん人間が勝手に主観で決めたものだ。ただ、雨が降り過ぎても、陽でりが続き過ぎても農作物を始め地球上の生物にとって都合が悪い。要はどちらも必要という事だ。みんなにそう叫びたかった。


  【第二話 雨女の夢】

 
 梅雨の長雨が続くある日。その日は母親が友達の結婚式に呼ばれていてお留守番の日だった。近所の小母さんが代わりに送迎バスの停留所まで迎えにきてくれて。それで家玄関口まで送ってくれた。家の鍵を預かって一人で過ごすのは誇らしい気がした。玄関に鍵がかかっている事を確認して、お母さんが用意してくれたシュークリームを食べながら、リビングで窓の外を見る。

「あめさん、きらいじゃないよ。みんなどうしてきらうんだろうねぇ。バラもあじさいも、お花も草も、ぬれてとってもきれいなのに」

 誰に言うとなしに、問いかけていた。

『ありがとう。そんな事言って貰ったの初めてよ』

 不意に、後ろから濡れたように艶やかな、落ち着いた声が響いた。ドキッと心臓が飛び跳ねた。驚いて後ろを振り返る。

「あ、あの……」

 そこには、やや灰色がかった淡い水色の着物に紺色の帯を身に着けた綺麗な女の人が立っていた。アーモンド型の瞳が濡れたように艶やかだ。髪も、濡れたようにしっとりと艶やかで、髪も目も、こっくりした黒だ。それを漆黒とか、烏の濡れ羽色、というのだともう少し大きくなって知った。髪は低い位置でアップスタイルにしている。肌の色が青みがかった白で透き通るみたいに綺麗だ。整った顔立ち、真っ赤な唇も、やはり濡れたように艶やかで、まるで夜露に塗れた椿の蕾みたいだった。あまりにも浮世離れした美女で、瞬間的に足を見てしまう。白い足袋を履いているようだ。足はついているらしい。

……良かった、幽霊ではないみたい……

 そんな事にホッとしている自分が不思議だった。けれどもその人はきっと、人間では無い。そう直観した。

「あなたが雨女と呼ばれて虐められているのを空から見ていて。いたたまれなくなって来てしまいました」

 その人はそういって寂しそうに微笑んだ。

「どうして?」

 何となく、その女の人は好感が持てた。どうしてその時、深く考えずに信用してしまったのか。きっと、幼稚園児である私の事を見下したり、変に子供扱いしないところが気に入ったのだと思う。大人として扱って貰えることが訳もなく嬉しかった。それに、虐められているところを見ていたたまれなくなって、て言ってくれた。気遣ってくれたの事もとても嬉しかったのだ。

「私は雨女なのです」
「え? ほんとうの、ほんとうにあめおんなさん?」
「ええ、本当の、本当に雨女なのです」

 濡れたように、匂い立つようにしっとりとした風情のその美女は、そう言われればそうかも、と納得させるような現実感の無さ。興味深々で女の人を見つめ、何を言い出すのかワクワクして待った。

「本当の雨女は、晴れの日を見たことがありません。風の精霊や雲さんにお話を聞くのみ。青い空も見た事がないのです。だから私は、あなたは雨女なのではない。正真正銘の人間の女の子なのですよ。そう伝えたくてやってきました」

 雨女はそう言って、私のそばにスーッと浮くように近づくと、私の目線に合わせて腰を下ろした。まさに、浮くような、という表現が相応しい。例えるなら、動く歩道に乗ってゆっくりと歩いているような、そんな感じだ。そしてその人は、右手を伸ばし、私の頭を撫でた。

……ぬれた花のかおりがする……

 その時はそう感じたが、その花の香がなんであったかは分からなかった。後にそれは、雨に濡れた藤の花の香に似ているのだ。その手がとても優しくて、やっぱり私は人間だったんだ、と再確認し、とても安心したことを今でも覚えている。

「翠、にんげんだよね。そうだよね」

 雨女が、霞んで見えない。あ、泣いているんだ、そう思ったら、彼女はそのまま右手で私の肩を抱き寄せ胸に抱きしめてくれた。そして右手で優しく頭を撫でながら、

「あなたは晴れの日も、体験出来る。お日様が煌めく中、青空を見上げてキラキラの世界自由に歩ける。風の囁きや、小鳥や虫の歌声を聞ける。咲き誇る花々を味わえる」

 まるで子守歌を歌うように囁いた。涙はどこから出てくるのかと思う程溢れた。

 涙もだいぶ落ち着いた頃、彼女の言った『晴れの日を体験した事がない』という言葉が気になった。

「ほんとうに、いちども太陽さんをあびたことないの?」

 素朴な疑問を口にした。

「ええ。一度も。雨女だから、雨しか体験しないのですよ」
「おてんきあめも?」
「ええ。自然現象として人間の目に虹として映るのみで。私は次に雨を降らせる場所へと移動しますから。ですからお天気雨は私の足跡だと思ってくれだれば」

 雨女の話は難しくてよくわからない部分はあったけれど、なんとなく感覚で言おうとしている意味は伝わった。

……晴れた日を体験したことがないなんて……

 気の毒に感じた。なんとかしてやれないかと思案して、ふと閃いた!

「じゃぁ、翠《みどり》のからだをかしてあげるよ!」

 それはとても良いアイデアだと思った。

「え……でも……」

 雨女は困惑気味だ。

「いいからいいから。そのかわり、ぜったいからだをかえす、てやくそくしてね。そのままからだをのっとっちゃうわるいお化けがいるんだ、てこのまえ
アニメで見たんだ」
「……勿論、そんな非常識な事しません。でも、あなたはなだ子供だから体を貸すのはとても負担がかかります。ほんの30分ほど。本当にお借りして良いのですか?」
「うん。でもきょうはあめだね。はれた日……はだめか。あめおんなさんだから出てこれないのか」

 せっかく良いアイデアだと思ったのに、自分にがっかりだ。でも彼女は嬉しそうに笑っている。

「大丈夫です。あなたに体をお借りすれば、太陽さんにお願いしたら30分だけならきっと出てくれると思います。だって、体をお借りしている間、私は雨を降らす事は出来ませんから。必然的に晴れるんですよ」

 難しくてよく分からなかったけれど、こうして私は雨女に体を貸す事になった。彼女は何度も何度もお礼を言ってくれて。とてもくすぐったい気分だった。どうやって借りるのだろう? 魔法の杖でも出すのかな。呪文を唱えるのかな……。ワクワクし待つ。

でも……

「30分だけ、お借りしますね」

 と私の額と雨女の額を合わせただけだった。額はひんやりしてしっとりしていた。

『……あれ?』
「肉体だけお借りしました。あなたの意識はハッキリとあります。これから私と一緒に晴れの世界を満喫しましょう」

 というと彼女は家を飛び出した。

『あ。まって。げえんかんのかぎをしめて!』
「ごめんなさい。これね」

 彼女は私のバッグから鍵を取り出した。体は私のままだから、なんだかおかしな気分だ。雨女はスキップするように家の裏側原っぱを目指す。

『すごーい。ほんとうにカラっとはれたね』
「私が雨の力を使えないから。有難う。あなたの体をお借りしたお陰で、眩しくて目が開けられず、目を開いたら瞳が焼けてしまった、なんてことにならないし、一度も太陽にあたったことのない肌も、焦げてしまう事もない」
『え? なにソレ、いたそう。たいへんじゃない』
「ええ。だから雨女の宿命だと諦めていました」

「うわぁ、キラキラな世界……綺麗な青空。蒼天ね。ポカポカして暖かい、てこういう感覚なのね」
『うわぁ、太陽ってこんなにまぶしくてこんなにキラキラしていたんだ。あったかいなぁ。うわぁ、あおぞらってこんなにきれいだったんだ!』

 当たり前過ぎていままで素通りしていた自然の美しさを再確認した。

「……良い香り。なんて艶やかな色かしら。紅《くれない》ね。あぁ、甘くて上品な香り」
『のバラだね』
「素敵。草もほら、こんなに元気に青々として。お日様に照らされてキラキラ輝いている。露が光って宝石みたい!」

 雨女は珍しそうに原っぱに咲く草花を見て居る。知らなかった。世界はこんなにキラキラしていただなんて!

「耳を澄ませてみて。風の囁きや、鳥のおしゃべりが聞こえてくるから」

サワサワサワ チュンピ

 本当だ、普段気づかないだけで、こんなに自然からの音が聞こえる……。

「有難う。もう、時間になるわ」
『え? もう?』
「約束は守らないと、二度と戻れなくなるから。お互いにね。お家まで送ってくわね」

 そう言って、スタスタと雨女は家を目指した。体は私だけど……。

「お礼に、素直じゃないあの子に、素直になるよう魔法をかけるね」

 雨女は悪戯っ子みたいに囁いた。

「あれ???」

 気づいたら、家のリビングのソファー。雨音を聞きながらシュークリームを食べていた。

 夢だったのかな……。

「ごめん! おまえのこと、かわいくてついからかっちまった! もうしないから。みいんなにもやめるよういったから」

 次の日、幼稚園に言ったら太陽君が深々と頭を下げた。そしてクラスの皆も。


ーーーーーーーー

 初夏に降る雨を「翠雨」と呼ぶらしい。限り無く優しく大地に降り注ぎ、草木を潤す。大地に命の水を与え、植物を育む基礎の雨だ。言わば「命の水」だ。

 こんな日は決まって「雨女」を思い出す。


「ただ今!」

 主人が帰ってきた。第二土曜日は昼過ぎに帰宅だ。

「お帰りなさい、あなた」

 私は笑顔で主人を出迎えた。そう、彼はあの「晴れ男」、太陽君だ。

雨女は晴れ男の結婚した。本物の雨女の魔法だと今も信じている。

「あっちの空に虹が出たぞ」

 私たちは揃って玄関に戻った。

「綺麗……」
「でかい虹だな」

 雨女の足跡が空に架かった。そう感じた。


~完~

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