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油蝉の道

短編小説
純文学
オリジナル
2018年07月24日 14:00 公開
1ページ(2897文字)
完結 | しおり数 0


vrymtl

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この世に生きていれば、この世に居る何年に一度は、今みたいな猛暑と言う酷い天気にぶち当たるのだろう。自然災害も、近年にない数を今年の夏は経験している‥。

幼い頃から暑さは苦手で、家を出る前に冷蔵庫の製氷機から角の尖った氷一つを取り出して口に頬張って
行ってきまーす!
と家を出て、通学路で少し涼を愉しんで学校へ向かった頃を回想する。

今は大人、月極駐車場へと向かう‥
履き慣れてヨレたスニーカーを履き玄関を出る、
行ってきます‥と。

油蝉の死骸が道端に転がる頃は、
戦没者を追悼する時と重なる‥

「お前は、この世にそんな姿を現すために何年も土中で耐えてきたのか?」
そう独り言を口ずさむ。

どんな国のどんな人種でも命が終わった亡骸を見れば思うこと‥心で手を合わせ道の隅へやりそこを通りすぎる。

まだ暑さも続いているこの時期に、
木々の頭上には懸命に鳴いている蝉たちも居る‥眉間にシワを寄せないと灼熱の光量で目が焼けそうになり、アスファルトの照り返しが背の低めのぼくを容赦なく攻撃する。

玄関を出ると通りの激しいこの道、
東側の交わる十字路を右の裏路地へ‥壁は民家の古びたブロック塀、両手をやっと広げられる道幅の狭い路地。
壁からは、ぼくの背丈ほどある菱形の通風口から飛び出た笹の葉に撫でられる。
振り向きざまに歩きながら頭を払う、
そろそろ虫が盛んに出回る季節だな‥
毛虫も多いから気を付けないと。

おまけにココは、雨の日になると交互に並ぶマンホールの周りに深めの水溜まりが出来る、年甲斐も無く大股で軽くスキップ程度に避けないと足元が水没してしまう。
最近は、ここを通るためだけに長靴を新調した。価格も安く、気には留めていた物だったから思い切りの買い物だった。

少し進む‥ブロック塀も無くなり拓けてくると、風の音色が聞こえてくる‥
納涼のための民家の風鈴も、蝉のザワつきを感じると思い風を欲しがる身体に変わっていく。

太陽光発電や風力発電、水力と同じようにこのザワつき音力も活用出来ないのかね?などと無駄な思考も働くも、少量だけど暑い中に風を感じるのはとても心地いい‥
両脇に平家が連なる場所へ来るとその欲求を満たせてくれるが、先があるからと束の間に眉が緩んだ一時を通り過ぎる。

「こんにちはー」
「あ、こんにちわー‥」

暑さ寒さや雨や雪に関係なく、毎回同じ時間に玄関先を履き掃除している実母くらいな年齢の人に通りがかりに挨拶する。夕方頃に通りかかると、娘さんらしい声と親子で仲良く会話して居るのが聞こえてくる。
毎度通るけど、喧嘩口調を聞いたことがないな‥見習わないとか?

途中に家の前を駐車場にしている半分庭の様な更地の石コロが道端へはみ出ているのを蹴飛ばしながら、暑くて上も見られないのをよい事に「お金でも落ちていないかな?‥」と、暑さに負けそうな自分を慰めながら気を紛らわし進む。

細い裏路地もT字路にぶつかり、正面の駐車場らしき空き地のバンのガラスに反射してる光量を睨みながら左の曲がりくねった道を行く。ここは上り坂で、雨の上がった後には必ずミミズが出ている。

両側の民家には少しばかりの畑があって、向かい側にはガーデニング好きな住民が住んでいるからそこの土から逃げ出したんだろうと考える、途中で干からびてしまうくらいの方向音痴で命をかけて這った跡の様子だった‥
小さいながらも哀れんで、心で手を合わせ先を急ぐ。

道幅も少しだけ広くなり、傾斜のアスファルトをアキレス腱を伸ばす様に上ると分かれ道に出くわす。
左へ道なりに進めば新幹線の側道と、右側はガード下のトンネルがある‥
この辺りから南の風を受けられる事が出来る、少し高い位置にある場所。

新幹線ガードの高低差は土地によって違うと思うが、ココは新幹線と南風がぶつかり合うそんな所になる。
今より寒い時期には、家からもここでの風と新幹線が喧嘩する音が聴こえてくる、長らく走ってきた新幹線が、目に見えない冷たい空気をどけどけと、突き進む鋭い音が遠くから徐々に鳴って、この辺りでゴーッと南風にぶつかり合う。空気も澄んでいる時だからこの一帯に響き渡る。

西向きより東向きの方が轟音に聴こえるのは気のせいか?
南北の差だけでは数メートルしかないのに、音に注聴すれば今、通過したのは東京へ‥これは大阪へ向かっていると風の音だけでわかってしまう。
人間の五感に感謝する時と、今とは反対の寒い時を羨ましくも懐かしく思いながら側道沿いを歩く‥。

違う五感も擽られる‥、
今年初めてのガード法面の除草作業をした後で、南風に煽られて緑の匂いが鼻を擽ぐる。
数日前に刈られたばかりで、もう生え始めている雑草を見ると自然の中で生きる事の強さを確かめる、この猛暑でも立派に育とうとしていると思うと、自分たち人間の弱さも痛感してしまう気の小さな自分を思う‥こんな程度の暑さに負けそうになっている自分を。

側道沿いを数十メートル東へ向かうと、違うガード下が現れる。
これを右へ曲がって直線に歩けば月極駐車場へ辿り着く‥。
このガード下には鳩が住み着いている、鳴き声は風の音には、負けていない重い存在感がある鳴き声だ。
たまに時期になると山から下りてくる山鳩とイザコザを起こしているのを見かける‥彼らの縄張りなのだから真剣そのものだ。
諍いがある時は必要以上に鳴かないのは自然のルールなのか?
負けた方が鳴きその場を離れるのは犬の世界と共通している。

ガード下を抜けると、車が交互通行出来る道幅になる。ここの風は強く吹くが、とても生暖かい。空からの陽射しとアスファルトの照り返し、そしてこの生暖かい風でまた負けそうにフラつく自分を意識して歩く。
この辺りの民家は、新幹線のガードで社会的階級が分かれているような、高級車が停めてある家が建ち並ぶ、
三階建ても殆どだ。

それぞれ個人の趣向だからあまり気にしないようにしていると、中途半端に数台家の前に停めてある民家が在る。
高級車ではないが、水上バイクらしい物を牽引する車もあったり、アウトドア用品も無造作に置かれている‥
見ているだけで、圧迫感を覚えるので先を急ぐ。

坂道になって、道幅もこの辺りの民家の空気にも後押しされ大通りにぶつかる、左角には何時も繁盛していそうなコンビニと、右角には5階建てのマンションが有る、この裏が駐車場になっている。
マンション沿いの大通りの歩道を右へ向かってやっとの思いで辿り着く‥
車に鍵を挿し、熱い車内のシートに座ろうとした時‥

「あ!財布を忘れてきた‥。」
少しばかりか動作も止まり、車に鍵をかけ直し、ここまで来た道のりを北へ向かい引き返した‥往復半だから今日は千八百歩になってしまうな。

来た道は詰まらないと思い、遠回りだが、迂回して歩道を歩き側道の分かれ道のあったガード下に向かい歩いて行くと途中、歩道の植え込みの木がザワついて油蝉が飛び立った後、小便が頭上にかかるが気にせずに南風を背に受け歩き続けた‥。






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