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ファニー・スイート・デイ

短編小説
SF
オリジナル
2015年02月02日 16:01 公開
1ページ(8396文字)
完結 | しおり数 0

テーマは「家族」/短編/SFコメディ

河野 る宇

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*めくるめく宇宙の片隅に大型宇宙船で駆け回る者たちがいる。たまにはこんな時間もいいもんだと、彼は馬鹿騒ぎしている仲間を見回した。
 第六回競演参加作品。
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 何千年経っても人類は人類だし、人間は人間だ。例え故郷から遙か遠くにいようとも、それだけは変わらない。と、思う。
 宇宙歴3054年──地球から遙か遠く離れたウィンストレイジーン銀河を大型宇宙船が航行していた。円形をした宇宙船は目的地を定めないままエンジンを切って進むに任せている状態だ。
 人類が宇宙に生活の場を広げたのは宇宙歴から遡ることさらに2000年ほど昔である。地球人は5000年をかけ、宇宙を自由に闊歩するまでになった。
 全長およそ100mほどの船は、輸送船じゃないのかと思うほど無骨な外観をしていてデザインなど知った事かという雰囲気を全力で押し出している。
「ぬうう~、暇じゃのう」
 ナナンはテーブルにつっぷし不満げに発した。椅子からはみ出している尻尾と床についていない足をパタパタと振って暇をアピールする。
「いいじゃん。こないだ大きな仕事終わったばっかりなんだし、のんびりしようよ」
 そんなナナンを見下ろしながらディランは水を飲む。
「それはそうじゃが~……」
 ナナン・セリオルは、トカゲのような顔をした頬を膨らませた。老齢な彼はスナイプ人である。
 リビングルームの中央には大きな円形のテーブルが置かれていて、みんなの憩いの場となっている。
 スナイプ人とは、二足歩行の髪の毛のあるトカゲに似た容姿をした種族だ。故郷のスナイプ星はすでに亡く、その意思をわずかに心に秘めるに留まっていた。
 彼らは生まれついての「エナジー・ブレイン」で、大体はその能力を使って仕事をしている。エナジー・ブレインとは、今で言う超能力や霊能力の類だ。
 そのナナンに応えたのは地球人のディラン・ウォレストマンである。以前は銀河連邦に所属していたが、故あって今は親友と寝食を共にしている。
 現在は船の点検、修理、運転と宇宙船のほとんどを任されている。
「お師さまは落ち着きが足りません」
「お前に言われとうない」
 長い白髪から目を覗かせ若若しい弟子に眉を寄せる。引き締まった体格の同じくスナイプ人のリャムカはナナンの弟子だ。
 スナイプ人は師匠と弟子が共に暮らす習慣がある。緑がかった肌は神秘的でもあり、基本は常に心身を鍛える種族なのだ。
「エイルクはまだ寝とるのか」
「こないだ盾にされたからスネてるんだよ」
 ナナンはそれに生温い笑みを浮かべた。
「それくらい役立ってもらわねばどうする」
「がっつりズバッと言うよね」
 リャムカのしれっとした言葉に同じくディランがしれっと返す。カーセドニック人は半鉱石で出来ているため、とても硬い。
 とはいえ、エイルクという少年は土のゴーレムよろしくな見た目をしていた。カーセドニック星は生まれながらに地位が決められていて、それが嫌で少年は星から出るべく彼らにすがりついたのである。構成される物質で地位はすでに決められている。
 エイルクは最下層である「ダート」の地位にあり、星にいてもロクな生き方は出来ない。どんなに頑張ってもそこから這い上がれる可能性はゼロなのだ。
 そんな体をしているために、ナナンたちは盾にしまくっているという訳だ。まだ経験の浅い少年には、それが精一杯の手伝いでしかない。もちろん、少年はそんな使われ方に納得はしていない。
「しばらくすれば機嫌を直すじゃろ」
 これまたしれっと発して絵画や地球のカレンダーが貼られている壁を眺める。この船の主人もディランと同じく地球人だったりする。
「あぁっ!? 忘れておった! そうじゃそうじゃ」
「どしたの?」
 ディランは勢いよく立ち上がったナナンに小首をかしげた。
「よく見ろ。明日はシルヴィの誕生日じゃ!」
 小さく駆けてカレンダーを杖で差し示す。
「あ、そうだったっけ」
「ほう?」
「何かお祝いをせねば!」
 ナナンは慌てるように部屋をうろうろする。しかし、リャムカにはよく解らないのか師匠の動きにいぶかしげな顔をした。
「ああ、スナイプ人には誕生日を祝うってことないの?」
「いや、祝うには祝うがそわそわするような事はない」
「そか~。まあじいちゃんは元々は地球の天使だったしねぇ」
 人間になりたくて数千年前に神様に懇願したのはいいが、記憶を残したまま生まれ変わりを続けるという罰ゲームも与えられ時々は苦悩しているらしい。
 そんな人物がそわそわするのだから、船の主人であるシルヴィと呼ばれる人間には何かしらあるのはおわかりだろう。
「あやつは何が好きなのじゃ。何を欲しがっておった」
「え? さあ~。船の部品をほしがってたけど。この船もあちこち修理しないとだから」
「それでは誕生日プレゼントにならぬではないか」
「おはよ~。どしたの?」
 ドシドシと部屋に入ってきた土くれ──もとい、エイルクはナナンの様子に顔をしかめた。
「明日はシルヴィの誕生日なんだよ」
「へええ」
「とにかく何か買おうではないか。ケーキも用意したいのじゃが……」
「そりゃ無理だよ。近くにケーキがある惑星がない」
 ディランが諦めるように両腕を広げる。
「むうう、仕方ない。では降りるぞ」
「どう言って降りるつもりなんです?」とリャムカ。
「気晴らしとかなんとか言えばよいのじゃ」
 ナナンはさっそく準備を始めたがふと、
「そうじゃ! あやつも呼んでみるか」
 そそくさと通信機に向かった。
「誰?」
 眉を寄せたディランにリャムカが肩をすくめる。
「おーい、おるか? ベリル~」
「え? ベリル? いまどこにいるの」
 近くにいたとしても祝ってくれるかなぁとディランは怪訝な表情を浮かべた。ベリルはまだ仲間になって日が浅いし、クールな性格である。
 こちらの仕事は優先して受けてくれるそうだが、行動を共にしている訳じゃない。
「お師さまは彼に会いたいだけでしょう」
 溜息混じりにリャムカが発するとエイルクもディランも納得を示す。ナナンにとっては懐かしい地球を知る唯一の人物でもあるためか、やたらとベリルに会いたがる。
 彼との出会いは偶然だが、いつしか仲間の一人となっていた。ナナンが懐かしがるということは、当然のごとくベリルという人物も特殊な経歴である。
 ベリルは地球人にはあるまじき不死者(マクロディアン)であり、戦闘能力がずば抜けて高い傭兵だ。
<ナナンか、どうした>
「おお、おったおった! 実はの、シルヴィの誕生日が明日なんじゃ。一緒に祝ってはくれぬか?」
 よく通る声に嬉しそうに返した。よほど遠いのか声に多少の遅れがある。とはいえ、この時代の通信は今とは違って次元を結んで飛ばすため最高でも数秒ほどの遅れしかない。
<どこにいる>
「カナッカル星系じゃ」
<遠いな>
「だめかの?」
<超空間航法(ハイパードライヴ)でも7時間はかかるが良いか>
「おお! 構わぬぞ! よし、降りるぞ皆の衆!」
 約束を取り付けたナナンは両手を挙げて近くの惑星に向かう準備を始めた。

***

 コックピットで一人の青年が小さく唸りを上げている。背中まである白銀の髪には翡翠の髪飾りが左側に飾られ、鮮やかな緑の瞳は神秘性をにじませてその面持ちは中性的だ。
 シルヴェスタ・アークサルドは、次に受ける仕事を思案していた。仲間が多い分、内容にも慎重にならなければならない。
 とはいえ「なんでも屋」を生業としている手前、そうそう選んでもいられない。元々、彼は確かな腕前として評価を上げていた。仲間が増えた事により、その評価はさらに上がっている。ベリルも加わって鰻登りだ。
 シルヴィはその髪色から、「白銀」という通り名が付けられている。
 依頼リストから視線を宇宙空間に移す。コックピットから見える風景は相変わらず美しい。
 エナジー・ブレインとして不安定だった力をナナンが導き、その正しい使い方を学んだ。内に秘めている力はさらに強大だとも教わったが、それを覚醒させる気などない。
 父から受け継がれた血と人間との血のせめぎ合いが力を不安定にさせている。覚醒すればそれもなくなるのだろう。
 しかし、母の血を消し去る事など出来ない。
「めんどくさい」
 言ってシートに体を預けた。上位天使である父はいまどうしているのかとふと考える事もあるが、自分にどうこう出来る訳でもなし。とりあえずは病弱な母のために入院費は稼がないとと画面に映っているリストを視界全体に捉える。
「たまには気晴らしもいいだろ」
 ナナンたちが近くの惑星に降りた事をつぶやく。

***

 第35番惑星カナルワッツ──ナナンたち一同はその観光名所に降り立った。
「こんなとこにシルヴィが喜ぶようなものあるとは思えないけど」
「仕方なかろう。もう考えている時間はないのじゃ」
 だからってお土産とか貰っても嬉しいとは思えないんだけどとナナンの言葉にディランは顔をしかめる。
「わあ~、なんかいっぱいある!」
「ストラップにスノウドーム……。とても誕生日のプレゼントにはなりそうもありませんね」
 嬉しそうにはしゃぐエイルクを尻目にリャムカがぼそりと発した。この惑星はお土産に力を入れているらしい、広大な店内にひしめくように土産物が並べられている。
 とはいえ、お土産レベルのクオリティなのは当然で、誕生日プレゼントとしては残念な質だ。
「仕方ないじゃろうがぁー!」
 わしだってそう思うよ!
「何かあるかもしれんじゃろ!」
 そうして一生懸命にいくつもの棚を物色した。
「おおお!? これは!」
「なにこれ」
 ナナンが手に取ったものにディランとエイルクの二人はこれでもかと眉を寄せた。
「知らんのか? ペナントじゃよ!」
 懐かしいなぁと横長の三角形をした布を広げる。刺繍されているのは観光地の名前と名所であるクレバスの絵だ。
 この惑星の観光名所の一つに深さ数千メートルの巨大なクレバスがある。
「地球の日本という国で昔に流行っていたんじゃぞ。それがまさか今になってこんな所で見るとは!」
「何千年前の話だよ……」
「それをどうするのです?」
「こ、これはわし用にじゃな」
 どんだけ懐かしがっているんですかとリャムカは頭を抱えた。この惑星に住む種族は地球人ともスナイプ人とも違い、彼らにとってはとても複雑な気持ちになる容姿をしている。
 海老のようなザリガニのようなフォルムはどういう心境で見ればいいのか悩む事がしばしばだ。
「あ~、伊勢エビ食べたい」
「聞こえるぞい」
 ぼそりと店員を見て言ったディランにペナントを持ちながらナナンがつぶやく。今や地球は食の一大観光名所となっており、高価だった食材も安い値段で食べられるようになっていた。
 地球全体が食材確保のために自然たっぷりとなっているためだ。歴史の中には家畜虐待が問題視されていた時代もあったが、今では笑い話にされているほどそれぞれの農場や飼育場は広大で穏やかである。
 人間の居住区域を無理に確保する必要がなくなった事が一番の要因だろう。住む場所は宇宙全体にあるのだから。
「おお!? 木刀? ぶふぉ!? しゅ、手裏剣とはこれまた!」
 どうやらナナンが喜ぶ商品が目白押しらしい。昔を懐かしむおじいちゃんよろしく、その様子を三人は生温く眺めていた。
「とにかく何か探そう」
 ディランがそう言うと、みんなはそれぞれ売り場に散った。

***

 三時間後、
「ロクなの無かった」
 カナルワッツから戻ってきた一同は、疲れからガックリとうなだれる。
「お師さまは嬉しそうですけどね」
 リャムカは大きな荷物を抱えているナナンに目を据わらせた。
「なんとか見つけたけどあいつが喜ぶかねえ」
 土産物屋から離れて探していたら、いい感じの店があったのでディランはそこでプレゼントを購入した。
「親友なのだろう。以外だな」
 そんなリャムカにディランは眉を寄せる。
「あいつは何でも屋してたし俺は連邦にいたろ? 誕生日なんて祝うこともなくなってたしさ、そんな親密なお付き合いもしてなかったんだよ」
「なるほど」
 確かに男同士ならそういうものか。
「おぬしら早く来んか。これからパーティの準備じゃぞ!」
 よく言うよと三人は肩をすくめて小さな背中を追う。
 ひとまず見つからないようにとプレゼントは各々の部屋に隠し、リビングの飾り付けをどうしようかで話し合う。
「やっぱ誰かがシルヴィをリビングに入らせないようにしなきゃだめなんじゃない?」
「だったらお前の他に誰がいる」
 引き留めておくなど不自然極まりない。
「え、俺?」
 言ったリャムカにディランは目を丸くした。しかし、同じ地球人で幼なじみと言っていい関係の彼に白羽の矢が立つのは至極当然ではないだろうか。
「仕方ないなぁ」
 ゆっくり立ち上がり、彼のいるコックピットに渋々向かった。
 シルヴィが仲間と一緒にいる事を嫌っている訳ではない。今日は特別、彼にとって忙しいというだけだ。
「よし! では今の内に飾り付けじゃ! その後は料理じゃぞ!」
「おー!」
 意気込むナナンに乗っかるようにエイルクも拳を掲げた。

***

 さらに四時間後、
「お、来たぞい!」
 船体に伝わる振動にナナンは通信機に手を伸ばした。船に接近する微かな振動も感じ取れるエナジー・ブレインならではだ。
「よく来てくれた。リビングに来るんじゃ!」
<うむ>
 久しぶりの来客にナナンは心が弾む。これでは誰の誕生日なのか解らないとリャムカは溜息を吐き出した。
「ん? 誰だ?」
 振動と視界に入った船体にシルヴィは立ち上がる。ディランはベリルだなと灰色の宇宙船を見つめた。
<元気かね>
 聞き覚えのある声にシルヴィの緊張もほぐれ、画面に映るベリルの顔に溜息を吐く。金のショートヘアにエメラルドを思わせる瞳は相変わらず神秘的な存在感を放っていた。
「どうしたんだ?」
<お前の船体が見えたのでね。声をかけた>
 ディランは一瞬、強ばったが相手はちゃんと理解してくれているようでホッとする。
「ああ、なるほど」
 納得して後方にあるハッチを開くボタンを押した。流線型をした美しい小型宇宙船は開いたハッチから呑み込まれるように格納される。
<あとでそちらに行く、まずはコーヒーを飲ませてもらえないか>
「ああ」
 通信が切られて真っ暗になった画面にディランは上手いと笑みを浮かべた。パーティはリビングでやる事をちゃんと解ってくれている。察しが良くて有り難い。

***

 ベリルの到着を待ちわびていたナナンは、現れた彼に両手を広げて歓迎した。
「久しぶりじゃなー! 元気にしておったか!」
「うむ」
 エイルクはいつものように無表情に応えるベリルを見やり、むしろ不死でどうやったら病気になるんだよと心の中でツッコミを入れた。
「これはなんじゃ?」
 ベリルの両手にそれぞれ大きな箱と細長い箱がさげられていた。ベリルは大きい方の箱をテーブルに乗せ、リャムカが小首をかしげながら横にある箱の口を開いた。
「ぬお!? これはもしや!?」
 取り出された丸いものにナナンは声を荒げる。それはまさしく──
「生クリームのストロベリーで良かったかね。地球のものではないが」
 さすがに地球産のストロベリーを手に入れる事は出来なかった。
「まさしくケーキ! ケーキじゃああ!」
 ナナンのテンションは一気に上がる。
「ベリルが作ったの?」
 綺麗にデコレーションされたケーキにエイルクは驚嘆した。彼が過去に見たケーキはこんなに白くなく、美味しそうでもなかった。
 しかし、目の前にあるケーキはとても美味しそうで腹が減ってくる。
「ということは、それはおぬしからのプレゼントかの?」
 細長い箱を示され、そうだというように笑みをこぼす。
「よし、そろそろいいじゃろう」
 ナナンは飾り付けられた室内とテーブルの上を見回して通信機に手をかけた。
<おーい二人とも、リビングに来てくれんかの>
「うん? なんだ?」
「いいから行こうぜ」
 ナナンからの声に怪訝な表情を浮かべるシルヴィを促す。彼が来る間にナナンたちは部屋に隠してあったプレゼントを取りに行き、今か今かと扉が開くのを待った。
「シルヴィ、誕生日おめでとうー!」
 扉が開いた瞬間、シルヴィは大きな声に驚いて体を強ばらせる。そうして、飾られた部屋とテーブルの上にある料理やケーキにようやく今日が何の日だったのかを思い出した。
「そうか、今日だったのか」
「入って入って!」
 ディランに背中を押され、照れながらリビングに入る。みんなが自分の席の前に立つと、ナナンはコホンと一度咳払いした。
「あー、うむ。シルヴィ、いつもありがとう」
「なんだそれ」
 冷やかしに手を振りながら気を取り直す。
「とにかくじゃ。おめでとう!」
「おめでとう~!」
 グラスを掲げて彼の誕生を祝った。そうして馬鹿騒ぎは始まる──
「ちょっ、おま!? これ酒じゃねえの!?」
 ディランはエイルクのグラスに入っている液体の匂いを嗅いで奪い取った。
「なんらよー! おいらのだぞお~」
「ここでは地球に合わせるの! エイルクはまだ未成年だろ」
「ケチ~」
「うむむ……糖分は摂取し過ぎると~。しかしう~むむむ」
 残っているケーキを睨みつけてリャムカが唸っている。そんなに食べたいなら食べればいいのにとナナンは呆れて弟子を見やった。
 大きなケーキはすでにほとんどなくなっていて、一人分しか残っていない。
 そしてシルヴィはみんなから贈られたプレゼントに撃沈していた。ナナンはペナント、エイルクは鉱石、リャムカはトレーニング器、ディランはドラゴンの置物と一番マシなものだ。
 そんな青年にベリルは喉の奥から笑みを絞り出し、細長い箱をついと差し出す。
「あん?」
 いぶかしげに見つめながら箱を開いた。
「うお!? こいつは──いいのか?」
「こういう時のものだろう」
 琥珀色の液体を閉じこめた瓶にシルヴィの顔が映り込む。ベリルが大切に保管していたウイスキーだ。
 地球で作られる多くの酒のうち、量産が難しく高価な部類に入るものである。希少であるため、手に入れるのも容易ではない。
「そか、シルヴィはお酒が好きだったんだな」
 みんなのプレゼントに嫌な顔もせず受け取っていた親友のほころぶ笑顔を見てディランはぼそりとつぶやいた。
 そのウイスキーをグラスに注ぎ、騒ぐ一同をベリルと共に眺める。
 たまにはこんな時間もいいもんだな……。喉を潤し口の中で発した。仲間の馬鹿騒ぎが心地よい。

***

 パーティも終了し、ベリルはみんなと別れて自分の宇宙船に乗り込んだ。彼にとっても騒がしいのは久しぶりのようで大いに楽しめたようだ。
「楽しかったね~」
 細かい後片付けをしながらエイルクは余韻に浸る。
「あ、そういやシルヴィの誕生日って結局いつなの?」
 日にちまで聞いてなかったと今更ながらに尋ねた。
「ん? 地球時間で5月28日じゃよ」
「ああああぁっ!?」
 それを聞いたディランは声を上げた。
「どうしたんじゃ」
 あまりの大きさにナナンたちが振り返る。
「そうだった! 確かベリルも同じ日だよ!」
「なんじゃとお!?」
「前に訊いたことあったんだ」
「ええぇ~? どうすんの」
 呼び戻しても残っているものなど一つもない。
「あいつもだったのか?」
 シルヴィはプレゼントされた酒を見つめ、しばらく思案するようにあごに手を当てた。

***

 ベリルは依頼先に向かうため宇宙船を飛ばす。その表情には相も変わらず色は示されてはいないが、時折思い出したように口の端を吊り上げて彼なりに楽しかった事が窺える。
 まだ人類が地球のみで生活していた時代の事を思い出しているのかもしれない。あの頃は仲間も多く、年に何度かは馬鹿騒ぎに参加していたものだ。
 今の方が仲間は多いが、世界は広すぎる。馬鹿騒ぎ出来るほどの集まりはほとんどなくなった。
「ん?」
 軽い電子音が鳴り、通信が入った事を知らせる。通信をONにすると、画面一杯にナナンたちが映し出された。
<Happy Birthday!>
 手に手にグラスを持ち、満面の笑顔を向けてぶつけんばかりにグラスを画面に近づけていた。ベリルはそれにやや驚きつつも柔らかに微笑んだ。
<Thanks>
 返ってきた言葉にナナンたちは嬉しそうに声を上げて笑い合った。



 fin

*最後までお付き合いありがとうございます。
 少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。

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