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デッドヒートに焦らせて

短編小説
ホラー
オリジナル
2015年02月05日 15:38 公開
1ページ(3587文字)
完結 | しおり数 0

学園ホラーコメディ/短編/テーマは「祭り」

河野 る宇

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*その学園に響く叫び声──果たしてその正体とは!?
競演参加作品。ファンタジックホラー。
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 秋──暑くもなく、寒くもない貴重なこの季節。何故か人は芸術を志すこの季節にあるのは、そう! 学園祭だ!
 そしていま、日本の関東辺りにある私立、尾世ヶ瀬学園(およがせがくえん)は文化祭の真っ最中である。
 どこの高校にもある賑わいは、この学園にも同じく年相応の学生たちを楽しませていた。
「ぎゃー!?」
 そんな文化祭まっただ中に男子生徒の叫び声──十字の形をした建物の西は二年棟だ。その一室でお化け屋敷を催している教室がある。因みにこの学園は高等部のみとなっている。
 時刻はそろそろお昼に近づく頃、さして広くはない教室で行われているお化け屋敷の最後に悲鳴をあげる生徒や客がちらほらいた。
 外から来る一般の人までもが叫びながら飛び出してくるのだから驚きだ。
「最後に何が待ってるの……」
 見ていた女生徒の一人が喉をゴクリと鳴らした。
「匠くんがいるのよ」
 お化け屋敷の受付をしている女生徒がしれっと応える。それに他のクラスの女生徒が目を丸くした。
「どんなお化けになってるの?」
「ただ椅子に座ってるだけよ」
 怖い人にはすごく怖いみたい、匠くんが。
「ああ……そう」
 その言葉に妙な納得をした。

「ふむ、記憶している面々が反応するようだね」
 男子生徒はスマートフォンをいじりながら薄暗闇の中でつぶやく。いつもは背中まである黒髪を一つに束ねているのだが、今回はとりあえずお化け屋敷なので髪ゴムを外していた。
 しかしその容姿は恐ろしいというよりも人を惹きつけるほどに魅力的だ。切れ長の瞳と薄い唇、細身だが引き締まった体型は十七歳という年齢よりも若干、大人びて見える。
「お昼だから食べてきていいよ」
「うん、ありがとう」
 クラスメイトの女子がそう告げると、彼は上品に立ち上がって出口に向かった。外の明るさにまぶしさを感じて目を眇める。
「おう、匠~めし食おうぜ」
 バスケット部の助っ人としてパフォーマンスを披露していた健が戻ってきた。快活な少年で特定の部には入らずフリーを通している。
 周防 匠(すおう たくみ)と城島 健(きじま けん)の二人はこの学園では割と有名人だ。匠は学園で常にほぼトップの成績を誇っているし、健はその匠といつもつるんでいる。
 匠は気まぐれな性格でテストに全力を注ぐ事がない。そのため、「ほぼトップ」なのである。おかげで二位から三位の生徒は彼を抜いた五位までの生徒と成績を競い合っていた。
 彼と本気で言い合ったとしても、のらりくらりと交わされて不毛だからだ。
 ──二人は昼食を取るために食堂に向かう。食堂は学生以外の顔ぶれも多く、いつも以上の賑わいを見せていた。
 今日だけは厨房に学生がいて、調理は全て学生が行っている。これも文化祭の一環だ。
「うぃっす匠兄貴!」
 健が料理を運んでくるあいだ、テーブルで待っていると茶髪の男が声を掛けてきた。
「鴨居さん、お久しぶりです」
「そんな他人行儀な言い方やめてくださいよ~、隼人でいいっす!」
 いかにもやさぐれ方に失敗したような二十代後半の男は照れながら応えた。わかりやすく言えばこの年でもまだチャラい。
「ねえ、あれ誰?」
「匠くんの舎弟よ」
 先ほどお化け屋敷と化している教室の前で会話していた女生徒二人が食事を取りながら匠を見つめる。どうやらクラスは違えど友達同士のようだ。
「舎弟……?」
 匠と同じクラスの友達から聞かされた説明に複雑な表情を浮かべた。
「なんか以前に匠くんに喧嘩売って舎弟になったのよ」
 訳のわからない詳細にそれ以上を聞く気にはなれず黙り込んだ。顔も頭もスポーツだってこなすのに、どこかが馬鹿だと言われる匠は学園の内外から注目の的ではある。
 つまりは、好きな事にしかそれらを使わないから誰もついていけないのだ。天は二物を与えて変なものをプラスした。
 それも末恐ろしいものを──
「他の奴にも二年のお化け屋敷は絶対に行くように言ってありますんで!」
「それはありがとう」
 笑みを浮かべ、さしたる感情が見て取れない声色で返す。
「はーい、お待たせ! あ、鴨居さん」
「うっす! 健さん!」
 二つのトレイを持って戻ってきた健に腰を低く挨拶する。そもそも健をカツアゲしようとして失敗した結果がこれなのだが、隼人にとっては運の良い事だったのかもしれない。
 つまるところ、周防 匠に勝てた者は現在まで存在していない。それを踏まえればお化け屋敷での出来事は納得がいくだろう。
 二人は食事を終えて隼人をほったらかしに匠はお化け屋敷に、健はサッカー部の助っ人にとそれぞれが向かった。
「あ、おかえり~」
 とりあえず白装束を着て匠の代わりに椅子に座っていた女生徒が立ち上がる。
「ただいま」
 腰を落として暗闇に目を向けた。
「なんだい?」
「え?」
 外に出ようとした女生徒は呼び止められたのかと向き直る。しかし、自分に声を掛けたのではなさそうだ。
「ああ、それなら心当たりがあるよ。これが終わるまで待っていて」
「……誰かいるの?」
 素敵な笑顔で誰かと話していたようだけど。
「君は気にしなくてもいいよ」
 にこりと微笑まれ頬を赤らめるが、背筋に冷たいものが走った。独り言、そうよ独り言よ。周防くんなら独り言でも様になっているのよ!
 言いしれぬ恐怖と不安と天使の微笑みに混乱し、訳のわからない理由をつけて無理矢理に納得し足早に外に出た。
 文化祭は二日あり、最終日である今日は十六時で締め切られ後片付けが始まる。全ての片付けが終了する頃には夕日が校舎をオレンジに染め上げていた。
「健」
 匠は帰る準備をしている健を呼び止める。
「なに~?」
「ちょっと付き合ってもらえるかな」
「いいよ~」
「確か新しい七不思議が出来たよね」
 話しながら東棟に向かう。廊下はまだ電灯が点いているとはいえ、窓の外は薄闇が迫っていた。東には職員室や部室、特別教室などがある。
「うん、東棟に徘徊する女の霊ね」
「つい先日になくなったと思ったら早かったね」
「だね~」
 以前まであった七不思議は彼らが全て解決してしまっていた。それで平和が訪れたと思っていたら、すぐに別の七不思議が現れたという訳だ。
「なんで学校に集まってくるんだろ」
「居心地がいいんだろう」
「勉強するところなのに?」
 健は眉を寄せて嫌な顔をした。
「彼らは勉強をしなくていいからね。場と考えると広くて静かだ」
「ああ、なるほど」
 妙な納得をして東棟に向かう匠の後ろをついていく。
 この季節になると夜は早くにやって来る──外の暗闇にぽつりぽつりと街灯の明かりがぼんやりと浮かび、さしもの人魂のようでもある。
 十字の形に建てられた校舎は街の呪いかお護りなのか。きっと気まぐれなんだろうと思いつつ、暗い廊下を二人は歩く。
「主にどの辺?」
「えーとね。ああ、あっちの方に歩いていくみたい」
 三階の職員室前で立ち止まり健に尋ねると、少年は建物の中心を指差した。
「なるほど、戻ってくるかな?」
「校舎の東棟だけぐるぐるしてるらしいから、戻ってくるんじゃないかな」
 そんな情報を誰がどう知ったのかは謎だが待ってみる事にした。
「来たね」
「え、どこ?」
 笑みを浮かべて東を見ている匠に同じく顔を向けるが健には見えない。
「さあ、行きなさい」
 匠はそう言って何も無い足下から何かを東に促した。
「なに?」
「あれは実はお母さんの霊だったんだよ」
 徘徊していたのは自分の子供を捜していたから。
「あ~、親子の霊だったの?」
 子供の走る足音だけを聞いてそちらに顔を向ける。なんとなく薄ぼんやりとした光が見えるような見えないような、気のせいのような気もする。
 足音から察するに十歳以下だろうか。
「うん。その子供の霊が迷子になっていたんだよ」
 子供の霊は親を捜してずっと西棟を徘徊していた。
「それじゃあ出会えないはずだよ」
 健は呆れて肩をすくめた。お化け屋敷に引き寄せられて匠に出会わなければ互いに迷い、悪霊化していたかもしれない。
 この親子は父親を病気で亡くしその後、買い物帰りに事故で命を落とした。
 つまりは──
「父親もどっかにいるってこと?」
「この敷地内にはいるかもね。明日から他の七不思議を調べてくれないかな?」
「え~?」
 不満げな健に人差し指を立てる。
「明日の学食は私のおごりだ」
「交渉成立!」
 嬉しそうに歩き出した健の背中を追うように足を進めてふと立ち止まる。
「生憎だけど、私は連れていけないよ」
 振り返ってつぶやく。
「もちろん、健も連れていかせない」
 ここに入ったら自由には出来ないからね。
 匠の言葉は闇に消えた──



 fin

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