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親愛なる君へ

短編小説
ライトノベル
二次創作
2015年05月13日 19:11 公開
1ページ(3882文字)
完結 | しおり数 0

親愛なる君へ

遊鬼

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女審神者と大倶利伽羅の話。ショートショートです。そして自己満足。
※恋慕ではなく親愛
※書き足し⇒今の主(♂)と昔の主(♀)はご近所さんでしたので、親しいはずの関係。
よろしくお願いします。
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その日は、雨が降っていたような気がする。
いや、本当は降ってなどいなくて、後悔から生まれた靄が記憶に有る空を覆ったのかもしれない。

―――――――――――――――――――



誰も居ない静かな本丸に突如それは鳴り響いた。受話器を取ると、懐かしい声がした。

『もしもし?』
「…もしもし」
『…もしかして、大倶利伽羅?』
「そうだ」

声の主は前に仕えていた主だ。元々病弱だったようだが、力を使い過ぎたせいで身体が思うように動かなくなってしまい、引退を余儀なくされたのだ。

「主なら出かけているぞ」
『いいの、いいの。お前の声が聴きたくて電話をしたのよ、元気だったかしら?』
「…相変わらず、馴れ合いが好きなんだな。」
『貴方は相変わらず、馴れ合いが苦手なのかしら?』

そう言いながらくすくすと笑っている。近侍だった俺はよく‘‘光忠や鶴丸とは馴れ合うのね?’’とからかわれていた。

『貴方はいつも大切な部分を省いて話してしまうから、心配よ。でも元気そうでなによりだわ』
「…主も元気そうだな」
『えぇ、今日は特に体調がいいの。大倶利伽羅の声を聴いているからね。ところでとても静かだけれど、誰も居ないの?』
「あぁ、今日は非番の奴らが主を連れて出掛けているからな。それに正直今の主に俺は嫌われているようで。群れるつもりもないし、別にいいんだがな」

まぁ、と少し驚いた声を出してキンキンと耳に障る高い声で何か言っていたが、聞き取る事が出来なかった。大方、俺がぶっきら棒な態度をするからだとでも言いたかったのだろう。

「早口で聞き取れなかった」
『貴方がぶっきら棒だからですよ!』

予想的中だ。

『でも、私も電話の回数を減らすべきでした…。貴方が私に構ってばかりで、今の主と上手くいかなくなる可能性があると分かっていたのに…』
「別に、この電話が無かったとしても上手くなんていっていない。それに、電話の数本で仲が変わる関係など、俺は求めていない」

そうだ、彼女はもっと我儘になるべきなのだ。 この本丸に居た時は、睡眠時間を削って仕事をして、料理もして、短刀達と遊んで、馬や畑の世話も手伝っていた。護られているだけの、見守ることしか出来ない自分を嫌がって、彼女は総てに携わった。使命を果たした今、自分の欲求に甘えるべきなのだ。

「電話だってもっとしていい。俺だけじゃなく、皆も声を聴きたがっている、話したがっているぞ」

有難うねぇ、と震えた声が聞こえた。
途端、扉の開く音がした。出陣から第一部隊が帰ってきたらしい。

「すまない、用ができた」

留守を任されている俺は、帰ってきた者達を出迎えなければならない。これは彼女の命である。

『わかったわ。夜はまだ寒いから、ちゃんと布団を掛けて寝るのよ?』
「わかってる」
『みんなと仲良くね』
「…努力はする」
『有難う。またね、お休みなさい。』

受話器を置き、俺は第一部隊を出迎えに行った。



震えた声に違和感を持ったのは、翌日の事だった。



―――――――――――――――――――



快晴。雲一つない空だった。
光忠と出陣から帰って来た俺は主に呼び止められた。

「大倶利伽羅、よく聞いてくれ」
「……?なんだ、早く言え。これから畑に行かねば」
「前の主が」

その先なんと言われたのか記憶にない。ただ、光忠が俺の肩を揺すって急いで準備をしろと言ったのだけを覚えている。その声だけを覚えている。

「主が、危篤……?」

俺の口から出た言葉は、それだけだった。





「大丈夫かい?」
「何がだ」

間に合わなかったのだ。きっと彼女は死に際なんぞ見られたくなかったろうから、これで良かったのかもしれないが。

「何がって…」
「今思えば、昨日の電話の時の声がおかしかった気がする」

唐突な言葉に、隣に座った光忠は黙って耳を傾けた。

「昨日、声がおかしかったんだ。涙脆い人ではあったが、何か違ったんだ。震えていたんだ。何故昨日気付かなったんだろうか。何故昨日、お前らを出迎えた後にでも主の元へ行かなかったんだろうか」
「…彼女が今日亡くならなければ、そんな事思わなかった筈だよ」

俯いた光忠の声は震えていた。

「例えそうだったとしても、何故俺は気付けなかったんだろう、行かなかったんだろう」
「いい加減にしなよ!!」

そう言って睨み付けてきた光忠の瞳に俺の顔が映って、ようやく気付いた。

「その後悔は不要だよ…誰もそんな後悔望んじゃいない……彼女が死んだのは、誰のせいでもないんだ」
「誰かのせいにしなきゃ。それが例え自分だとしても、誰かのせいにしなきゃ、俺は…」

気付いてしまった。自分に感情がある事に、涙が出る事に……自分が思っていた以上に主に彼女の事を好きだった事に。

「俺は…壊れてしまいそうだ……」

人の身体を得て、初めて涙の味を知った。





涙はもう出なかった。
空へ昇っていく煙を、瞬きもせず、ただ呆然と見ていた。

「…また俺は置いていかれるのか」

人とはなんて不便な生き物なのだろう。なんて身勝手な生き物なのだろう。欲しがる癖に、置いて行くんだ。皆、置いて行くんだ。

「何か用でもあるのか、鶴丸。其処に居るのは分かってる」

少し離れた所に鶴丸は居た。

「……骨上げだ」
「もう、終わったのか。あっという間だな、人の生涯とは」
「そうだな…」

いつもは五月蝿い鶴丸だが、それ以上何も言葉を発しなかった。

不思議な事に、骨上げの最中は涙が出なかった。胸に穴が空いたような、何とも言えない虚無感が襲ってきたが、それ以外は何もない。 鼻をすする音と箸の音だけが頭の中に響く。

「…こんなに、小さかったんだな」

あの優しかった彼女はもう何処にも居ないんだと、改めて実感することとなった。



―――――――――――――――――――



「帰った」
「お帰り」

冷めた会話だ。主は、通夜も葬式も顔を出さなかった。想いがないのなら参列すべきではないのだが、ここまで彼女に興味が無いとは思わなかった。

「休みを貰ってすまなかった。明日から出陣する」
「大倶利伽羅、少し時間いいか?」

会話する気力は無かったが、『みんなと仲良くね』という言葉をふと思い出して着いていく事にした。
そうして連れられて来たのは、彼女が使っていた部屋だった。誰も使わず、そのままにしてあったのだ。

「この部屋を君に使って欲しいんだ、大倶利伽羅」

暫く使用していなかったため部屋は埃っぽい。彼女の香りが残ったこの部屋は、酷く居心地が悪かった。

「…ここは居心地が悪い。残っている私物を片付けろと言うなら、片付ける」
「そうじゃない。彼女の遺言でもあるし、僕自身大倶利伽羅に使ってほしい」

主は少し笑って続けた。

「彼女から聞いたよ。君は、僕が君の事を嫌いだと思っているそうだね?金切り声で怒鳴ったと言っていたよ。『今の主は、皆を愛している。勿論お前の事も。私がお前を嫌う人間に後を任せる訳がないでしょう?』と。聞き直されて、もう一度同じ事をいうのは恥ずかしくなったそうで、『貴方がぶっきら棒だからですよ!』と答えたそうだけど。僕はね、君を嫌っていたわけじゃないんだ。彼女を想う君の顔があまりに優しいから、そしてその笑顔を見られて皆喜んでいたから、あまり関わらなかったんだ。僕と関わると君は無表情になるからね」

知らなかった。彼女がそこまで俺達の事を想っていてくれたことに。そして、今の主が、俺と彼女との時間を優先していてくれたことに。主は悟っていたのだ。もうすぐ彼女がこの世から去ってしまうことに。

「……言ってくれなきゃ、分からない」

そうだねと笑った主の目から涙が溢れたから少し驚いてしまった。

「何故泣いているんだ、何か変なことでも言ったか?」
「…君は、もう十分に泣いたかい?彼女を想って沢山哀しんで、沢山愛しんだかい?」

十分に、かは分からないが、無気力になってしまう程涙を出した。きっとこの先これ以上の哀しみはないのではないかというくらい、哀しんだ。刀で居た時にはこれほどの感情を持つことは出来なかっただろう。

「…お前も俺をおいていくんだよな」
「いつかは分からないけど、そうなるね」
「勝手だな」
「そう、勝手なんだ。でも、その身勝手なところが好きになる。愛おしくなる。最期の時まで共に生きたいと願うようになる。……そんな相手に出会えた君は、一番の幸せ者だ。違うかい?」

どこまでも勝手だ。愛おしくならないかもしれないのに。

「そんな君へ、彼女からの手紙だよ」

薄紅色の封筒に、見慣れた美しい字で‘‘大倶利伽羅’’と書いてある。封を切ると押し花で作られた栞が入っていた。

「この部屋は好きに使っていいから。僕は自室に戻るよ」

そう言って立ち去ろうとした主をなんとなく呼び止めてしまった。

「なんだい?」
「……有難う」

悩んだ末出た言葉に、主は満面の笑みを見せて部屋を出て行った。





中には3枚便箋が入っていた。紙には涙で濡れた跡が残っている。封筒とは違い、便箋の文字は震えていたけれど、確かにそれは彼女の文字だった。
「最期まで、頑張る人だったんだな」
爽やかな風が部屋の中の空気を変える。

懐かしい彼女の香りがするこの部屋で、俺は手紙を読むことにした。



『親愛なる君へ』


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