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短編小説
ファンタジー
オリジナル
2015年06月05日 10:57 公開
1ページ(3663文字)
完結 | しおり数 0

北国に住むエミリーは雪が大嫌い。そんな時おばあさんが小さな童話を語ってくれた。

suzukiai

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エミリーは雪が大嫌い。そんな時おばあさんが雪にまつわる小さな童話を話してくれた。
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北の地方の小さな村に、女の子とお婆さんが住んでいました。女の子の名前は、エミリーと言いました。
「雪って嫌い」
エミリーは次から次へと落ちてくる真っ白な雪を窓越しに眺めながら、そう呟きました。
「なんで嫌いなんだい」
暖炉の側の椅子に座りながら、編み物をしているお婆さんが尋ねました。
「だって、雪が降ってるとちっとも外に出れないし、それにすごく冷たくて凍えてしまうもの。雪なんか降らなきゃいいのに」
「おやおや、そんなことを言ってしまっていいのかい。雪が降り止むと、お友達と雪合戦したり、ソリをして遊んでるのは、どこの子だったかね」
「それはそうだけど」
エミリーは眉根を寄せながら、少し大人びた口調で言いました。
「でも、うんざりなのよ。冬がとっても憂鬱なのは、あの曇り空のせいなの。暗くなると必ず雪が降ってきて、ちっともお日様が見えないんですもの。雪はずんずん積もっていって、私達いつか雪の世界に閉じ込められてしまうわ」
少し悲しそうな表情を浮かべると、エミリーはお婆さんの側へと駆け寄りました。
「まあ、そんなに雪を毛嫌いすることはないだろうよ。雪は雪でとても大切な役目を果たしているのだから」
お婆さんはエミリーの頭をなでると、そう言いました。
「大切な役目? 大切な役目って何?」
エミリーが身を乗り出して聞くと、お婆さんは笑って言いました。
「そうだね。それじゃあ、ひとつお話をしてあげよう」
お婆さんは編みかけの手袋をテーブルの上に置くと、こんなお話をしてくれました。
『昔、昔この地には大地の神の大事な宝がありました。その宝はどんな願いも叶えることができる魔法の玉だと、いい伝えられてました。宝は大地の神に仕える神官が守り、決して神官ではない人の目に触れてはならないという厳しい掟がありました。何人かいる神官の中の一人に少年がいました。彼はようやく神官になったばかりで、見ること聞くこと全てが楽しくて仕方ありませんでした。
 当然のように大地の神の宝のありかも教えてもらいました。その場所は人里離れた森の中にある井戸でした。その井戸には魔物が棲んでいると古くから言われていて、誰も寄り付く者はいなかったのです。それを知った少年は感心しました。だから今まで神官ではない者の目に触れることもなく、大事に守り継がれているのだと思いました。きっと本当に尊いものなのだろう。自分も神官として大事に守っていこうと少年は思いました。
 ある日のこと、一人の男がやって来ました。
真面目で優しそうな男で村の者にも親切でした。そして彼は大地の神のことについて、とてもよく知っていました。古くから伝わっている話や大地の神の力やありとあらゆることを知っていました。なぜそんなに詳しいのかと問うと大地の神を崇めているからだということでした。そのうち彼は、私も是非神官になりたいと言い出しました。神官達は、それはできない相談だと断りました。すると彼は前にもまして、大地の神へ祈りを捧げ、お供え物をし、神官と変わらぬ熱心さで崇め奉るようになりました。その様子を見ていた少年は、心から大地の神を崇めているこんな人こそ神官になるべきだと思いました。
そして男は少年に声をかけてきました。自分はこんなに大地の神のことを崇め奉っている、大地の神を守るためにも神の一番大事な物を守らなくてはいけない。だが残念なことに私はその大事な物のありかを知らない。もし知っているなら、教えてくれと頼まれました。少年は一瞬ためらいましたが、神官にとって宝を守ることは大事な務めでした。少年は神官と変わらぬ熱心さで奉仕しいてる彼ならば、教えても良いだろうと思いました。
 少年は彼を連れて人里離れた森の中にある井戸の前まで案内しました。二人は井戸の中をのぞきこみました。真っ暗で中は何も見えません。試しに石を投げ入れてみると、カツンと硬い石に当たるような音がしました。どうやら井戸の水は枯れているようでしたので、二人はロープを使って井戸の下へと下りて行きました。下に着いてみると、井戸の底の横側の壁には人が通れるほどの通路がありました。二人はろうそくを手にすると、その通路を歩いて行きました。通路は平坦ではなく、下へ下へと下って行く坂道になっていました。どんどん下って行きましたが、いつまで経っても通路が途切れることはなさそうでした。二人がこのまま地の底まで行ってしまうのではないだろうかと不安に駆られたその時、ついにその通路の先に大きな洞窟が現れました。その洞窟の真ん中には、岩で作られた台座がありました。その上には見たこともない炎のような色をした丸い玉が置いてありました。それは美しい玉にも見えましたが、よくよく見ると何かの目玉のようにも見えました。こちらをじっと窺っているような、不思議な気配を少年は感じました。少年が恐れおののいて一歩後ろへ下がるのと同時に男が一歩前へと踏み出しました。そしてその玉を素手でつかみました。
「見ろ!これで俺は王様にだってなることができる。どんな願いも叶えるこの玉を使っていろんなことをしてやるんだ」
彼はそう言って豪快に笑いました。その時ようやく少年は気づきました。この男は神官になりたいわけではなく、大地の神の宝が欲しかっただけだったということに。それを知った少年は男に騙された屈辱と自分の浅はかさに腹が立って腹が立ってしかたがありませんでした。男はそれをあざ笑うかのように、玉を持ったまま洞窟を出ようとしました。するとどうでしょう。洞窟は突然激しい揺れに襲われ、地響きがしました。と、みるみるうちに男の足元には巨大なひび割れが走り、割れ目の中にはぐつぐつと煮えたぎった炎の塊が見えました。次の瞬間、男は玉と一緒にその割れ目の中に落ちてしまいました。彼の叫び声とともに、辺りは静寂に包まれました。少年は慌てて割れ目を避けると、洞窟を出てもと来た通路を急いで戻りました。そして井戸の底に着くと、少年はロープを使って外に出ました。
 外に出ると少年はあっと驚きました。外はさっきまで森であったのが嘘のように炎に包まれてました。あちこちの地面に地割れができて、そこから炎が噴き出し、森を燃えつくそうとしてました。少年はまだ燃えていない背の高い木に登ると、辺りを見渡しました。見ると森だけでなく、村や山も炎に包まれているのが分かりました。少年は思いました。大地の神が宝を奪われたことをひどく怒っているのだと。彼は急いで木から下りると大地の神に祈りを捧げました。必死に宝を守れなかったことを詫び、どうか怒りを鎮めてくださいと懸命に祈りました。けれども大地の神は怒りを鎮めるどころか、ますます炎をあげ、辺りは火の海のようでした。少年は泣きながら、今度は精霊達に祈りました。自分の愚かさがこんな結果を招いてしまった、けれどもこの地に住む人々や生き物をどうか助けて欲しいと祈りました。すると雪の精霊が応えました。雪の精霊は言いました。
「あなたの祈り通り、大地の神の怒りの炎を鎮めてあげましょう。ただし、あなたの命を私にください」
少年はそう言われて、一瞬言葉を失いましたが、しばらく考えてから、静かにこう言いました。
「分かりました。私の命を捧げます」
少年の言葉を聞いた雪の精霊は少年の命をとると、約束通り大地の神の怒りを鎮めるために、雪を空から降らせました。あまたの雪が舞い落ち、大地の炎は雪の冷たさで消えていきました。優しく降る雪に大地の神の怒りも鎮まったようでした。ですが大地の神は、男とともに落ちてしまった宝のことをふと思い出しては、時々怒りがこみあげてくるのです。そんな時、雪の精霊は少年との約束を守って、大地の神が怒りの炎を出さないように、今でも雪を降らせるのです』
 お婆さんがお話を終えると、エミリーは言いました。
「じゃあ、今でも大地の神が怒って、雪の精霊がたくさん雪を降らすのね」
「そういうことさ」
お婆さんはテーブルに置いた編み物を引き寄せるとそう言いました。
「でも今も怒るなんて、神様のくせして心が狭いわ」
「何を言ってるんだい。それは大事な物だったに違いないんだよ。古くから大事にするようにと伝わっている物は、私達では分からなくても何かしら意味があったりするもんだよ」
お婆さんは諭すように言いました。
「ふーん。でもその男の子かわいそう」
「そうだね。でも少年は破ってはならない掟を破ってしまったのだからね」
「でも、かわいそうだよ」
エミリーが納得いかなそうに呟くと、お婆さんはエミリーに聞きました。
「雪はなぜ静かに降るか分かるかい」
「ううん」
「その少年の魂を慰めるために雪は静かに降るんだよ」
それを聞いてエミリーは目を丸くしました。
「だから雪が降るといつもこんなに静かなのね。少しは慰めになっているのかな」
エミリーは窓に駆け寄ると、とめどもなく降り続ける白い雪をじっと見つめました。

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  • ひな 06月22日
    このつぶやきにはネタバレが含まれている可能性があります[表示]
    優しい語りのお話ですね。雪景色が頭に浮かんでいるのに温かかったです。 (ネタバレ)
     #雪
    詳細・返信(1)
  • ルカ 06月06日
    このつぶやきにはネタバレが含まれている可能性があります[表示]
    優しく穏やかなお話ですね。
    まさに、おばあさんの昔話を聞いてるような気持ちで読んでしまいました。
    (ネタバレ)
     #雪
    詳細・返信(1)
  • suzukiai 06月05日
    小説「雪」を公開しました!雪降る村に住む小さなエミリーがおばあさんから雪にまつわる物語を聞くというお話です。  #雪
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  • ひな 06月22日
    このつぶやきにはネタバレが含まれている可能性があります[表示]
    優しい語りのお話ですね。雪景色が頭に浮かんでいるのに温かかったです。 (ネタバレ)
     #雪
    詳細・返信(1)
  • ルカ 06月06日
    このつぶやきにはネタバレが含まれている可能性があります[表示]
    優しく穏やかなお話ですね。
    まさに、おばあさんの昔話を聞いてるような気持ちで読んでしまいました。
    (ネタバレ)
     #雪
    詳細・返信(1)
  • suzukiai 06月05日
    小説「雪」を公開しました!雪降る村に住む小さなエミリーがおばあさんから雪にまつわる物語を聞くというお話です。  #雪
    詳細・返信(0)

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