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さよならイエロー

短編小説
青春・友情
オリジナル
2015年07月15日 20:07 公開
1ページ(2331文字)
完結 | しおり数 0


ヤヅキアオ

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拝啓、親友殿。

君がこの手紙を読む頃。僕はいつもの電車に乗ってこの地を離れていることでしょう。
ずっと同じ制服を着て乗った、あの電車に、独りで。

思えば、初めてかもしれません。物心ついた頃からずっと傍には君がいましたから。口では1度も告げたことはありませんでしたが、僕にとって君は、欠け換えのない存在でした。例えるなら酸素、水、当たり前のように傍に在ると当然のように思えるもので。

いつもと同じ場所から独りで見納める生まれた土地の風景はきっと違うものに見えていることでしょう。

何も言わずにこんな置き手紙1つで消える僕を君がいつものように怒って呆れる、そんな姿が見えます。けれど、謝りません。謝ることは出来ません。

僕にとって意識せずとも特別な君は、この別れによって一生のものになります。君にとっては過ぎた思い出になるでしょう。

それを望んだのは、他でもない僕なのです。

ここら辺でケータイに手をかけたでしょう。電話して罵声を浴びせようと思ったでしょう。でもその番号にはもう繋がりません。メールも届かないし、アプリのメッセージも届きません。君の知る僕の連絡先は全て消えています。

どうしてそんなに徹底的にと疑問に思うことでしょう。その疑問にお答えします。

白状します。僕はずっと君が好きでした。特別で、当たり前のように、ずっと。愛していました。

それを自覚してからの年月は地獄でした。

君の全てが見える位置からただ指をくわえているだけの日々は、僕に飢えと渇きを与え続けたのです。
それでも僕は判っていました。君は僕には一生手にすることの出来ない潤いであったことを。

これ以上、誰かの隣で笑う君をただ眺めることは出来ません。平然とした態度を取り続けることはとても残酷な時間なのです。
けれど君に面と向かってこの思いを打ち明ける勇気もありません。

臆病者と罵ってもいい。意気地無しと呼ばれてもいい。

けれど君は知るべきだ。そう思う君は僕の思いを受け入れることもなければ、本気では僕に対して憤ってなどいないこと。優しさ故に、傷つけることもあるということ。

君の優しさという美徳にもまた、毒があるのです。

この事さえ気付いてくれたなら、もう今の僕の人生に悔いはありません。
きっと君はこれまで以上に周囲から愛されるでしょう。

僕は、君の世界の一切が届かない場所へ、行きます。

そうして、君から僕を遠ざけるのです。
君は、自由になるのです。

さようなら、お元気で。

僕のいない世界が、君にとっての幸せになることを、僕は確信しています。






***********************************************






手紙を読み終えた瞬間、プァーと電車が声をあげた。顔を上げると民家の屋根の向こうを行く黄色の電車が見えた。
その電車には彼が乗っていない。判っているのに家を飛び出した。

奇声を上げながら走った。
闇雲に、ただひたすらに、走った。
ホームから出ていく電車を追いかけた。

本当はきっと、どこかで気付いていた。
けれど、彼が優しくて、その優しさを失いたくなくて、甘えた。彼はこれだけの優しさを与えてくれたのに、彼に返せたものは痛みだけだ。

電車は遠ざかっていく。一筋の黄色いラインを残して。

待ってほしい。今なら言える。

何を言いたいのかも判らないのに、その確信だけはあった。

もちろん、それが彼の望む答えではないかもしれない。でも初めて、彼に答えることはできる。目を逸らし続けていたことに、正面から見つめる、向き合える。

電車の姿が見えなくなった。黄色のラインの影もなくなった。足を止めた。その場にしゃがみ込んだ。

肺が苦しい。上手く息が出来ない。

ようやく呼吸が落ち着いた時、目の前でタンポポが咲いていることに気がついた。

黄色い花、その栞を彼が持っていたことを思い出す。

彼の思い出の花。そう思ったらやるせない気持ちになった。

ノロノロと立ち上がって自宅へ帰った。部屋に戻ると机の上に彼からの手紙が置いてあった。ほんのり淡い黄色の便箋。彼らしい几帳面な字で書かれた宛名を眺めた。

消印はなかった。直接ポストに入れられたのだろう。彼はどんな気持ちで家に来たのだろうか。どんな気持ちで名前を書いたのだろう。

そっと封筒に触れた。その指先に不自然な厚みを感じて、封筒を持ち上げた。

中身を開けると、栞だった。先程思い出したタンポポの栞。

「宝物なんだ。僕にとってはね。」

彼の声を思い出した途端、目の奥がじんと熱を持った。一気に視界が歪んで、何も見えなくなった。

彼が、この栞に抱いていた思い出は知らない。けれどこれさえも置いていったという事実が、重くのし掛かった。本当に彼が、ここであった全てを捨てていったのだとようやく理解した。

泣いた。ただ、ただ、泣いた。声をあげて。呻いて。涙で肌が荒れるほど。

理由をはっきりと言葉にするのは難しい。けれど悲しかったことだけはよく覚えている。







「行ってらっしゃい、気を付けてね。」
「子どもじゃないんだから。」
「うん、ありがとう。気をつけるよ。」

家族に見送られて、黄色い電車に乗り込んだ。

ポケットから1つの栞を取り出した。タンポポの花があの頃から変わらずに栞の中で咲き誇っている。

「さようなら。」

住み慣れた土地から、新しい土地へ。
別れの色となった黄色と共に、行く。


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