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仔猫と野ねずみ

短編小説
童話・絵本
オリジナル
2015年09月07日 13:34 公開
1ページ(3096文字)
完結 | しおり数 0

ほのぼのとして切ないお話

河野 る宇

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 ぼくの飼い主さんはいつも同じ時間にいなくなる。もちろん仕事だということはぼくは解ってる。だから、帰ってくるまで一人でお留守番をしている。
 いや、最近は一人じゃなかった。ぼくのえさ箱に頭から突っ込んでる毛玉がいる。
「じーちゃんてどこに住んでるの?」
「わしは孤高のハムスターじゃ」
「飼い主さんは男の人?」
「孤高のハムスターじゃと言うておろうが。人に飼われるなどといった愚劣(ぐれつ)きわまる存在ではない」
 とか言いながら、飼い主さんが置いてったぼくのえさを食べている。じーちゃんがどこから来たのかはわからない。
 ある日ふと、気がついたらぼくのえさ箱に頭を突っ込んでぼくのえさを食べていた。
 ねずみなんて初めて見るから、ぼくは怖くなって物陰に隠れたけど、そのねずみはぼくをちらりと見て、またえさを食べ出した。
 怖かったけどぼくは意を決してそいつに近づいた。でも、ぼくが知ってるねずみとはちょっと違ってた。
 少し濃い灰色だけど長い尻尾もくびれもなくて、背中に一本、黒い線が入ってる。
「だれ……?」
 こわごわと質問したら、
「わしか? わしゃジャンガリアンハムスターという気高きハムスターじゃ」
「ハ……ハムスター?」
 ねずみじゃないの? そりゃあ、見た目はぼくの知ってるねずみじゃないけど、やっぱりねずみっぽい。
 よくよく聞くと、ヒメキヌゲネズミ属に属するネズミの一種だって、やっぱりねずみなんじゃん。
 和名はヒメキヌゲネズミと教えてくれた。そういえば毛並みは確かにつやつやできれいだ。孤高(野良)にしては。
 じーちゃんは毎日うちに来てはぼくのえさをいくつか食べて、数個を頬袋(ほおぶくろ)に仕舞って帰っていく。
「じーちゃんだから食が細いんだね」
「ちゃうわ! 遠慮してやっとるんじゃろが」
 たまに関西弁らしきものがちょいちょい飛び出すんだけど、どこの生まれなんだろう。今日でじーちゃんが来て一ヶ月くらいになると思う。
 じーちゃんは飼い主さんがお仕事でいなくなってから現れて、お仕事から帰ってくる前にいなくなる。
「じゃあまたの」
「うん、またね」
 食べて部屋をうろうろしてタンスの裏に入ってった。あんなとこに抜け穴があるのかな。ぼくだいぶ大きくなってきたからあの隙間にはもう入れないや。
 玄関が開いた。ぼくより先に飼い主さんが帰ってくるのがわかるじーちゃんすごい。それとも時計を見たのかな?
 でも時計ぴったりには帰ってくることはあんまり無いのに。
 次の日、飼い主さんがお仕事に行った。なのに、じーちゃんが来ない。いつまでたっても来ない。
 ぼくはずっとじーちゃんが出てくるタンスを見てたけど、ぜんぜん出てこない。
「じーちゃん?」
 なんで? どうして? どうしたのかな、なにかあったのかな。ぼくは心配になって走り回った。それくらいしかぼくにはできなかったから。
 心配で心配で御飯も喉に通らない。早く来てよ。ねえ、じーちゃん。
 飼い主さんが帰ってきてもぼくは心配でそわそわした。御飯も食べずに走り回っていたせいか、飼い主さんはぼくを心配してずっとなでてくれた。
 何日も、何日もじーちゃんはこなかった。きっとここに来るのが飽きたんだ。それとも……? ぼくは、こわい考えを飛ばすために頭を何度も振った。
 六日くらいしたころ、ぼくのえさ箱から小さい音がした。
「じーちゃん!」
 ぼくは思わず駆けだした。
「なんじゃ!? びっくりしたではないか」
「だって、ずっと来なかったから」
「仕方なかろう。脱走がばれて抜け出さないようにとケージの入り口に洗濯ばさみを挟まれては──ハッ!?」
「え?」
「なんでもないわい。今日は缶詰か、リッチじゃな」
「ぼくがずっと落ち込んでたから、飼い主さんがいつもはご褒美にくれるものをくれたんだ」
 かつおの薫りがするツナをじーちゃんは美味しそうに頬ばった。
「じーちゃんていくつなの?」
「わしゃ仙人じゃからな」
「せんにん?」
「沢山生きとるやつのことじゃ」
「ふうん」
 そう言ってじーちゃんはぼくのえさを食べた。これはじーちゃんのご褒美なんだな、うん。
 それからまた、いつものようにじーちゃんは毎日来てぼくのえさをちょっとだけ食べて帰っていく。
 ときどき、お昼寝してるときもあるけど、飼い主さんが帰ってくる前にちゃっかり起きてタンスの裏に入っていった。
 そしてまた、じーちゃんが来なくなった。ケージに洗濯ばさみが挟まれちゃったんだろうか。もしかして洗濯ばさみが増えたのかな。
 そんなことを考えていたら、二十日くらいがたった。今度こそ、ほんとうに飽きちゃったのかな。
 飼い主さんが大人しいぼくを気遣って頭を撫でてくれてたとき、玄関がピンポンてなった。誰か尋ねてきた。誰だろう、知らない男の人だ。
「えっ? そちらのハムスターがうちに?」
「はい」
 いまハムスターって言った、じーちゃんのことかな。ぼくがドアの影から覗いてたら、飼い主さんがその人を家に上げた。
「いつもあいつがキャットフードとか持っていたんで気になっていたんです」
「それでペットショップを片っ端から? 凄いですね」
「脱走していたのはその家に行くためなんじゃないかと思って」
 男の人は少し哀しそうに笑ってコーヒーを飲んだ。
「きっと、その猫ちゃんに会いに脱走していたんでしょうね」
 ぼくを見て言った。飼い主さんはぼくを抱きかかえて、いつもしてるように頭を撫でてくれたけど、ぼくの気のせいかな。手がちょっとだけ震えてるみたいだ。
「猫にも好みがありますから、ペットショップの人に聞けば解るかもと、あいつが持ち帰っていたエサを見せて回りました」
「この子、二ヶ月くらい前にえらく走り回っていたことがあるんです。一週間くらいそわそわして」
「あ、脱走防止にケージに洗濯ばさみを挟んだときだ」
 なに? 二人でぼくをじっと見て。
「あいつ、もうよろよろで……。最期を看取ることが出来て良かったです。ハムスターにしては長生きな方だったんですよ」
 男の人がテーブルの上に置いた写真を見て、ぼくは思わず飛び乗った。じーちゃんだ。これ、じーちゃんだ!
 二人が顔を見合わせて、飼い主さんがまたぼくを抱きかかえた。ぼくの顔をじっと見て、なんだか目がうるうるしてる。
「このハムスターね。死んじゃったんだって」
 うそだ……ぼくは何も言えなかった。ぼくは居ても立っても居られずに飼い主さんの手を振り払って部屋中を走り回った。
 男の人が帰っても、ぼくはずっと鳴き続けた。
 じーちゃん、じーちゃん、じーちゃん! うそだうそだ! そんなはずない。じーちゃんは仙人だって言ってたじゃないか!
 そうだ、じーちゃんが初めて来た日、ぼくは窓の外を見てた。ずっと、ずっと見てた。あの日はお母さんのことを思い出してなんだか一人が寂しくて、ずっとずっと外を眺めていた。
 お母さんは病気だったって飼い主さんが言ってた。ぼくを抱いてぐったりしているのを外で見つけたときは、もうだめだったって。おかあさんは死んだけど、ぼくを世話してくれる人が見つかったから寂しくなんかなかった。
 それからぼくは、じーちゃんがいつ来てもいいように、えさを少しだけ残すことにした。ぜったいに戻ってくるもん。じーちゃんは仙人なんだから。
「じーちゃん……」
「なにを鳴いておるんじゃ」
「じーちゃん!」
 じーちゃんは半透明になって戻ってきた。


 終わり

2015/09/07

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