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誕生日の0.1秒

短編小説
恋愛
オリジナル
2019年05月21日 22:47 公開
1ページ(2161文字)
完結 | しおり数 0

チューをさせていただきたいと思います…… 璃子に

maybePURIN

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GWの終盤、恋人の璃子(りず)にとある誕生日プレゼントをあげることにした湖子(ここ)だったが……

拙作「炎天下のメロンソーダ」の続編的なものです。
これ単体で読んでいただいても多分大丈夫だと思いますが、「炎天下のメロンソーダ」を読んでいただくとよりお楽しみいただけるかもしれません。
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 甘ったるいメロンとソーダの味。

 人工香料のメロンとソーダの匂い。

 中学2年の夏休みのあの日から記憶にしっかり刻まれている。

 この先も忘れることはない、夏の味と、夏の匂い。





 頭上には染めたような青空。目の前にはニヤニヤしている世界一大好きな人。

 ニヤニヤされているこっちは、きっとガチガチに固まった表情をしてるんだろう。

 




 ニヤニヤしているのは、同じ高校に通うあたしの恋人、璃子(りず)。

 GWの終盤、誕生日を迎えたこの子と一緒に、お祝いと称して遊園地に行ってきた。

 その帰り道、あたしは勇気を振り絞って璃子を思い出の公園へと誘った。ベンチとブランコが置いてあるだけの、小さな公園。



「そういえば私達この場所で『始まった』んだよねー。懐かしい」

 しみじみとした呟きにますますドキドキしてしまったけど、あたしは息を大きく吸い込んで璃子に向き直った。黒く透き通った海を連想させる瞳。視線をそらすことなく、告げた。



「実は、璃子さんにサプライズプレゼントがあります」

 ああ、なんで改まってるんだ。声震えてるし、顔も絶対真っ赤だ……

 

「湖子(ここ)ちゃーん、ダメだよ。くれる前に言っちゃったらサプライズにならないからね」

 からかいの言葉が紅になっているであろう耳朶を打つ。

「まあいいけど。もらえるもんはもらっておくよ! で、なになに?」



 言わなきゃ。

 長距離を全速力で走ったかのような心臓のバクバク音を必死に無視しながら宣言した。

「チューをさせていただきたいと思います…… 璃子に」





 キスをしたことが、まだなかった。

 間接キスはあるけど、キスはなかった。

 

 なんとなく怖かった。口という外界につながる部分に、大切な人の一部が触れることが。

 汚いと思っているわけでは決してない。璃子に汚いところなんてない。



 やっと恋人同士になれて、お互いに友達だった頃よりも繋がっていると感じられるようになって。

 それでも、越えるのが怖い一線があった。



 他の人にとってはそうでもないのかもしれないけど、あたしにとっては、キスはあたし達を今までとは違うものに変えてしまうものなんじゃないかって気がしていた。



 一度だけ、璃子に言われたことがあった。



「ねえ、キスしてみない?」



 まるで「コンビニ寄ってかない?」と同じような軽いノリで。

 突然のことでパニクって、「え、は⁉︎ 無理無理!」と答えてしまった。



 璃子は「あー、そう?」と、尋ねた時と同じように軽く答えて笑った。それでその話は終わった。

 その後璃子にキスしないかと言われたことはないし、キスしろと無理強いされたことも決してなかった。





 目の前の璃子は、大きな目を細めた。

「へえ……」



 笑顔ではあったけど、そう言ったきり黙ってしまったので、少し焦った。

「大丈夫? キス、ちゃんとプレゼントになる?」



「もちろんだよ。今まで色んなプレゼントもらったけど、きっとそれが一番のプレゼントになるよ。

 いや、もちろん今日のこれも本当に嬉しかったし、大事にするけど」

 後半は少し慌てたように早口で。それもさっきあたしがあげたぬいぐるみを、わざわざ荷物から取り出して掲げながら。木漏れ日がぬいぐるみにまだら模様を描いていた。



 そんな様子が珍しくて思わずくすりとしつつ、もう一度だけ確認する。

「嫌じゃない? 嫌なら嫌って言ってね。無理しないで」



「嫌なわけないじゃん、大歓迎だよ。

 ……じゃ、ちゃっちゃとやってくれますか?」

 いつものからかうような口調に戻り、一歩前に踏み出した璃子。

 ほんのり桜色の、ぷにぷにした唇。

 あたしの唇の、すぐそばに。





 キスをするのが怖かった。

 だけど気付いた。この恐怖は、あたしが璃子に「好き」という気持ちを伝える前のそれと同じだと。



 大好きで、だからこそそれまでの関係性を壊したくなくて、自分の中だけにしまいこんでいた。



 けれど、本当はそんなことしなくて良かった。

 璃子もあたしを大好きでいてくれたから。

 大好きな人に近付くことは、怖いことじゃなかった。



 だから、キスをしたいと思った。

 大好きな人と、もっと一緒になりたいと思ったから。

 それは、何も怖いことじゃないから。





 弾力のある厚めの皮膚。

 いつも繋ぐ手よりも、高い体温。

 触れ合う口の中で蘇る、メロンとソーダの味。

 ぶつかり合う鼻の奥で、メロンの匂いとソーダの匂い。

 璃子と同じ気持ちになれた、あの夏の味と、あの夏の匂い。





「0.1秒だね」



 そっと唇を離し、まだ夢心地でぼんやりしていたあたしは、璃子のその言葉で意識を引き戻された。



「……は?」



「キスしてた時間が。たったそれだけ」



「嘘!? 10秒はあったでしょ少なくとも!?」



「体内時計、修理に出しなよ」

 いつも通りにケラケラ笑う璃子は、けれどいつも以上に幸せそうだった。

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