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ホタルイカの夢

短編小説
SF
オリジナル
2014年12月17日 22:09 公開
1ページ(1670文字)
完結 | しおり数 0


bakugawa

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夏の強い日差しの中を日本海の波にもまれていた。

船には史跡めぐりをする観光客のグループが何組かいたが、
いずれも中高年世代で、昼間なのにすでに顔を赤らめていた。

港に下り立つと、老人の友人という若者が待っていてくれた。
クリーム色の車に揺られて、老人の家までつくと、老人と奥さんが出迎えてくれた。

老人は、木曜島というオーストラリアとニューギニアの間にある島で、ボタン用の貝を採る仕事をしていた。
プラスチックのボタンが普及し、貝を採る必要がなくなって日本に帰ってきた。
老人は出身地である和歌山の漁村には戻らず、佐渡島に移り住んだ。

孤独な仕事であった。
暗いうちから海に潜る。陸の夜と海底の夜は暗闇の色が違う。

手元の明かりだけをたよりにたった一人で海底の貝殻を探すのだ。

潜水病で死ぬものも多く、当時を語る老人はぽつりぽつりとしずくが落ちるようにしか、
言葉を漏らさなかった。

私が話題を変え、どうして和歌山ではなく、この佐渡島に移り住んだのかと聞くと、
「ずいぶんと長く島にいたから島が好きになってたんだなぁ」と、海岸線を眺めた。
「ホタルイカの身投げってしってるかい?」
「いいえ」
「今日あたり来るかもしれない、ホタルイカが波に流されて浜にたっくさんやってくるんだ」
「まるで、浜に青い道ができたみたいになるのよ」と老人の奥さんは言った。
「いつも黒いだけの海に、ホタルイカの青い灯りが浮かぶと、なぁんか、うれしくってねぇ」と、老人は目を細めた。

 その夜、老人と奥さんと老人の友人と一緒に浜辺に行った。
星がきれいで空は明るかったが、海は真っ暗で、時々波が月の色に反射した。
夏なのに少し肌寒く、老人と私を残して、奥さんと友人は長袖の服をとりに家に戻った。

「ホタルイカってのは灯りに集まってくるんだ、だから船に電灯をつけて漁をするんだよ、人間も明るいところに集まっていくだろ、おんなじだよ」
と、言った老人の顔はよく見えなかったが、笑っているような気がした。
「もう、年取って見えなくなってきてるもんなあ、この島きたときは暗くたってホタルイカがくればすぐわかったけど、今はなんも見えんくなった」
と、言ったとき、波の中に青く光る点が見えた気がした。
「あれじゃないですか!?」と興奮した私の声に、老人はどれ、と私の指差す方に目を凝らしたが見えてはいなかったようだ。
「ホタルイカ見ると、海で死んでいったもんが来てるような気がするんだ」と、老人は笑った。
あとから奥さんに聞いた話では、老人が夜に海へ行ってうれしそうに帰ってくることがあるらしい。
どうしたのと聞くと、ホタルイカの灯りが波の上を人の足跡のようにだんだん老人に近づいてくる。
ふと見ると、昔海で死んでいった仕事仲間が青く光る水面に立っていて、話しかけてくるという。
「うちの亭主もどうだい調子はなんて言いながら話を聞くらしいんだけど、いつも話の途中でいなくなってしまうんですって、ホタルイカも老いぼれに付き合ってられないらしいって言うのよ、変でしょ、うちの亭主」と、奥さんは旦那を自慢した。

 車のヘッドライトの灯りが山から降りてきたとき、ふと、老人は
「一寸先は闇って言うけど、裏を返せば、きっとどこかに灯りがあるってことだ、おれ達はそれを探してたのかもしれないなぁ」と、消え入りそうな声で恥ずかしそうに言った。
私はそのとき、波の中を無数のホタルイカが泳ぐのを見た。

 ぼくは、何度も読み返したその話を読み終えるとモニターのスイッチを切って、窓の外を眺めた。宇宙船の外には星が瞬いていた。ホタルイカというものがどういうものかも知らない。だけど、今見てる真っ暗な宇宙に光る星たちと真っ暗な海に光るホタルイカは似ているのかもしれないと思っている。ぼくも光る星に亡くなった母を見ることがあるからだ。いつか、地球という母の故郷に行くことを夢見ている。
目を閉じても眠れないときには、潜水服をきたぼくの上を泳ぐホタルイカの群れを思い描いている。

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